「おまえの魅力的なところを垣間見た佐々木さんが、手を出す可能性を考えなかったのかよ?」
真剣なまなざしを直で注がれた宮本は、じわじわと顔を赤くした。
「よよっ陽さんってば、さっきから褒めすぎです。俺はそんなにイケメンじゃないのに。それに佐々木くんは、れっきとしたノンケなんだから、俺を襲うなんてありえませんよ」
自分の照れを隠すように言葉を重ねた宮本に、橋本の追撃が止まらない。
「俺の目に映るおまえは、充分にいい男だって。手を出したくなるくらいにな」
「手を出すぅ!?」
橋本にどんな手を使われるのかまったく読めない宮本は、慌てて両手をバンザイしながら腰を引いた。しかしながら橋本の両腕が上半身に絡みついているため、離れることができない。
「雅輝、逃げるなよ」
「逃げたくもなります。陽さんってば、俺を食う気満々でしょ……」
「だって足りねぇしな、当然だろ」
「足りないと言われましても、むぅ……。ここじゃあいろいろ制限があって、陽さんを満足させることができないというか」
「へぇ、なるほど。だったらここじゃないどこかなら、俺を満足させるナニかをいたしてくれるっていうのか?」
橋本のまなざしから見えないなにかを感じて、思わず息を飲む。そのせいで問いかけに、すぐに答えられなかった。頬を朱に染めた状態で、口元をもごもごさせる。
「雅輝の顔、すげぇかわいい。俺から襲ったら、もっとかわいい顔が見られるのか?」
言うなり、ちゅっと耳朶を甘噛みされた。橋本の熱い吐息が耳穴にかかって、背筋がぞわっとなる。
「うっ、うわぁっ!」
まったく色気を感じさせない声を宮本があげたというのに、ひとことも文句を言わず、意味深な笑みを浮かべた橋本の片手が、宮本の尻にやんわりと触れた。
「ひゃぁっ!」
両手をあげて、されるがままでいる宮本に、橋本は「まったく……」と冷めたセリフを言い放ち、深いため息を大きく吐いた。注がれるまなざしに熱っぽさはまったくなく、むしろ冷凍庫の冷気を感じさせるような冷たいものを顔面に浴びた。
「へっ?」
突然変異した態度の意味がわからず、宮本が素っ頓狂なリアクションをしたタイミングで、橋本の手が尻をぎゅっと抓った。
「いっ! 痛い痛い!」
「危機管理能力なさすぎ! もう少しくらい抵抗しやがれ!」
「テイコウ?」
宮本は抵抗の意味も理解できずに、アホ面丸出しを表すようにぽかんと大きな口を開けて、橋本をまじまじと見つめた。