TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

「ね、香織。今度の休み、この森に行ってみない?」

と菜摘が誘ってきた。菜摘とは幼なじみで、高校生になった今でも友達だ。だから、彼女が何に興味を持ったか、すぐにピンときた。たぶん、その森は、なんらかのオカルトスポットなのだろう。私もオカルトに興味はあるけれど、そこまでではない。でも、菜摘の方は熱心で、こうしてネットなどでオカルト情報を手に入れると、すぐに確かめに行きたくなるのだ。

「んー、まあいいよ」

とくに予定もないし、ま、友人に付きあってやってやるか。

そんなわけで次の休日、私は菜摘と一緒に電車に乗って町を出た。そして、駅からバスに乗る。しばらく揺られた後バスから降りると、鬱蒼とした森が広がっていた。

「うわー……いかにも出そうな雰囲気あるよね」

菜摘が嬉しそうな声を上げた。彼女は昔からこういう雰囲気が好きなのだ。かくいう私も嫌いじゃないけどさ。森の方に向かいながら、ふと気になって聞いてみる。

「そういえば、今回はどんな噂があったの? またUFOの話?」

すると、菜摘は首を横に振った。

「違うよー。こっちだよ」

と言って指差したのは、森の中にある小さな祠だった。古びていて苔むしている。なんだか不気味だけど、確かに何かありそうだ。私たちはその祠の前に立ち止まった。中を見てみたけれど、特に何も入っていないようだ。お供え物もない。

「ねえ、どうしたの?」

私が聞くと、菜摘は笑みを浮かべて答えた。

「ここにはね、『小豆洗い』がいるんだよ」

「えっ!?  小豆洗いって、妖怪の? こんなところに?」

「うん! ほら、見て!」

菜摘が指差す先を見ると、そこには川があった。水が流れていて、澄んでいるように見える。

「あれが『小豆洗い』のいる川だって。さっきの祠が目印なの」

「へぇ……」

「じゃあ、行ってみようか」

菜摘は張り切っているようで、意気揚々と歩き出した。私はちょっと怖かったけど、彼女についていくことにした。と、そのとき……。

「おや、お嬢さんたち、どこにいくのかね? そっちは森と川しかないよ」

突然後ろから声を掛けられて、私たち二人は驚いて振り返る。そこにいたのは、腰の曲がった白髪のお婆ちゃんだった。優しげな顔つきをしている。

「あ……あの、私達、昔このあたりに住んでいて、ここに遊びに来たんです。懐かしくなって来てみたんですよ」

菜摘が慌てて答えると、お婆ちゃんは目を細めて微笑んだ。

「ああ、そういうことかい。ここはいいところだもんねぇ」

「ですよね~」

菜摘が相づちを打つ。でも、このあたりに住んでたというのは嘘だろう。それから少し雑談した後、お婆ちゃんは、

「昔住んでたなら、知っているかもしれないけれど、あの森には恐ろしい化け物が住んでいると昔から言われておるから、気をつけなさい」

と言い残して去っていった。その背中を見送ってから、菜摘が言った。

「やっぱり、小豆洗いがいるってのは本当なのかもね」

私は苦笑いした。

「もう……あんまり脅さないでほしいんだけど」

「でもさぁ、本当に妖怪とか幽霊がいたら面白いと思わない?」

と、菜摘は無邪気に笑う。私はため息をついた。

「ま、面白そうではあるけどさ」

「でしょー?」

菜摘は楽しそうに、ずんずん森の奥へと進んでいく。私は彼女の後に続いた。しばらく歩くと、だんだんあたりが暗くなってきた。日が暮れてきたせいもあるだろうけど、木が多いから影が多くできているのだ。

「なんか雰囲気出てきたね」

と、私は言う。

「でしょー? わくわくするよねー」

と、菜摘も嬉しそうに返した。やがて、あたりはすっかり真っ暗になってしまった。スマホを見ると、まだ夕方くらいだ。森のせいで、時間よりも暗く感じる。菜摘はスマホをライト代わりにして足元を照らしている。

画像

そうやってしばらく進むと、前方からシャリ……という音が聞こえた気がした。菜摘がビクッとする。

「ちょ……まさか」

とつぶやく。私は菜摘に言った。

「いや、ただの風でしょ」

しかし、菜摘は引き下がらない。

「ううん、きっとそうじゃないよ! ほら、行こう!」

そう言って、私の腕を引っ張ってくる。仕方なく、私たちは音の鳴った方に向かって歩いていった。すると、音が段々大きくなっていく。そして、とうとう私たちは音の発生源まで来た。目の前にある川は、かなり幅が広くて流れも速そうだ。

「……ねえ、ここから音がしているよね?」

「うん……、あ、あれ、スマホの充電が切れそう。ね、香織、代りに写真撮って!」

と言ってきたので、私が写真を撮った。その途端に音がやんだ。

「よしっ、帰ろうか」

と言って、私は踵を返した。正直に言うと、ちょっと怖くなってきたのだ。だが、そのときだった。ザバァ!! という大きな水飛沫の音と共に、川の中から何かが出てきた。

「きゃあああ!!」

と、菜摘が悲鳴を上げる。私も思わず叫んで走り出した。何!? 何!? と混乱しながら必死になって走る。気がついたら、私たちは森の外にいた。急いでバス停に向かう。

そこでバスを待つ間、私たちは何も話さなかった。しばらくしてバスが来て、それに乗って家に帰る途中、私は菜摘に声をかけた。

「何だったんだろ、さっきの……」

すると、菜摘は青ざめた顔で答えた。

「あれは……小豆洗いだよ……」

「えっ!?」

「小豆洗いはね、川のそばにいるの。それで、シャリシャリっていう小豆を洗うような音を鳴らすの。だから「小豆洗い」って名前なんだ」

「ふーん。でも、最後のはなんか、怒ってたような……?」

「スマホで写真撮ったのがまずかったかな?」

「そうだ、スマホ! 何が写っているかな……」

そう思って確認したけれど、特に変なものは写っていなかった。

「だめ、何も写っていないよ」

と言うと、菜摘は首を傾げた。

「おかしいなぁ……。やっぱ妖怪はスマホには写らないのかな?」

そんなことを話しながら、私たちを乗せたバスは駅のほうへと走っていった……。電車に乗り換え、しばらくして私達の住む町に帰ってきた。

駅で菜摘と別れ、帰ろうとしたとき、かすかに「シャリ……」という音が聞こえてきた気がした。私はギョッとして辺りを見回す。

「今の、何の音だろ……? まさかね」

そう思いながら駅を出て、家路についた。(続く)

loading

この作品はいかがでしたか?

0

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚