リハーサルが終わる頃には、外はすっかり夜の気配に包まれていた。
スタジオの照明が落ち、三人は楽器や機材を片付けながら、今日の演奏を振り返る。
「今日の新曲、すごくいい感じだったよね」
涼ちゃんが小さな声でつぶやくと、元貴はすぐにその隣に寄ってきた。
「でしょ!? やっぱり涼ちゃんの音が入ると、全然違うんだよ」
元貴は涼ちゃんの肩に手を回し、満面の笑みを浮かべる。
涼ちゃんは少し照れたように笑いながら、
「元貴、またそうやって大げさに言う」
と肩をすくめた。
「本当だよ。俺、涼ちゃんと一緒に音楽やってると、どんどん楽しくなるんだもん」
元貴の言葉は、真っ直ぐで、どこか子どもみたいな無邪気さがあった。
滉斗はそんな二人の様子を、静かに見つめていた。
「涼ちゃん、荷物持とうか?」
滉斗がさりげなく声をかける。
「ありがとう、滉斗。助かる」
涼ちゃんが笑顔で手渡したキーボードケースを、滉斗は軽々と肩にかけた。
三人は並んでスタジオを出る。
夜の街は静かで、遠くにネオンがぼんやりと光っている。
元貴は涼ちゃんの隣をぴったりと歩き、時折「寒くない?」と気遣いながら、涼ちゃんの手を自分のポケットに入れようとする。
「元貴、ほんとに甘えん坊さんだなぁ」
涼ちゃんは苦笑いしながらも、まんざらでもない様子だ。
滉斗は少し後ろを歩きながら、二人のやりとりを静かに見守る。
涼ちゃんが段差につまずきそうになると、すぐに手を差し伸べる。
「涼ちゃん、大丈夫?」
「うん、ありがとう、滉斗」
涼ちゃんが振り返って微笑むと、滉斗は
「気を付けて」
と優しく返した。
元貴は、そんな滉斗の優しさに気づいているのかいないのか、涼ちゃんの腕を自分の腕に絡めて歩く。
「涼ちゃん、今度さ、また一緒にご飯行こうよ」
「いいよ。どこ行きたい?」
「涼ちゃんが行きたいとこ、何でも付き合う!」
元貴は本当に楽しそうに笑った。
滉斗はその後ろ姿を見つめながら、心の中でそっとため息をつく。
自分の想いは、きっと涼ちゃんには届かない。
それでも、こうして三人でいられる時間が、滉斗にとっては何よりも大切だった。
夜風が少し冷たくなってきた。
涼ちゃんはふと、二人の顔を見て「こうして三人で歩くの、なんか落ち着くね」とつぶやいた。
「俺もそう思うよ」
元貴がすぐに応える。
滉斗も静かにうなずいた。
「ずっと、こうしていられたらいいのにな」
涼ちゃんのその言葉に、三人はしばらく無言で歩いた。
それぞれの胸の奥に、言葉にできない想いを抱えながら。
ネオンの灯りが、三人の影を長く伸ばしていた。
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