テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
65
「ねえ」
放課後の屋上。
彼女が、僕を呼んだ。
風が少し強くて、
彼女の髪がふわっと揺れる。
「どうしたの?」
僕が聞くと、彼女は少しだけ笑った。
「もしさ」
「好きな人とキスできるとしたら」
「どうする?」
いきなりの質問に、僕は少し固まる。
「え、なにそれ」
「いいから」
彼女は、じっと僕を見る。
夕日が当たって、
目がきらきらしていた。
「……たぶん、する」
僕は正直に言った。
好きな人とキスできるなら。
普通は、そうすると思う。
でも。
彼女は、少しだけ寂しそうに笑った。
「そっか」
沈黙が落ちる。
僕は、ずっと前から知っていた。
自分が彼女のことを好きだって。
友達としてじゃなくて。
もっと特別な意味で。
でも。
言えない。
絶対に。
「ねえ」
彼女がもう一度言う。
「もしさ」
「今ここで、私がキスしていいよって言ったら?」
心臓が、ドクンと大きく鳴った。
そんなの。
ずっと夢みたいに思ってた。
でも。
僕は首を横に振った。
「……しない」
彼女はびっくりした顔をする。
「え?」
「なんで?」
僕は少し笑った。
「だって」
「君には、好きな人いるだろ」
彼女は黙った。
それだけで、答えはわかる。
僕はずっと知ってた。
彼女が好きなのは__
僕じゃない。
僕の親友だってこと。
「もし僕がキスしたらさ」
僕は空を見上げた。
「たぶん、君は困る」
「それか、後悔する」
「……」
「そんな顔、見たくないんだ」
風が吹く。
しばらく、誰も何も言わなかった。
やがて彼女は、小さく言った。
「……優しいね」
僕は苦笑いする。
優しいわけじゃない。
ただ。
好きだから。
本当に好きだから。
自分の気持ちより、
君の気持ちを守りたいだけ。
だから僕は__
キスしちゃいけない。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!