「もうもう!りりねえってばよう!」苛立った声が聞こえて、わたしはうるさくて目を覚ました。
わたしはりり。アメリカン・コッカー・スパニエルのメスで元の名はクラウン。ウクライナの首都、キーウに住むハーフの女の子、里緒奈が飼い主だよ。
「りりねえ!」目を覚ますと黒い犬が飛びついてきた。この黒犬はクラウディア。生後2〜3ヶ月の子犬なんだ。でもわたしより少し大きい。「ん〜。ああ、クラウディア。」「ああクラウディア、じゃなくて!なんで七時間も起きなかったのさ?」クラウディアの問いかけにとても驚いた。7時間?まさか。でもほんとらしい。「七時間…」「そうだよ!もう!りりねえってばあ」クラウディアが言った。「ところでさ、いつからなん?わたしをりりねえって呼び始めたの。なんかしっくりこない気がする…」「ん〜いつ頃かな?知らない。あ、嫌ならりりって呼ぶよ。」「知らないんかい。」そんな会話を続けたのは少しですぐにはっとした。「探さなきゃ!」二人同時に叫んだ。慌てて立ち上がろうとすると、痛みが走った。「いちっ!」「わああ、大丈夫?」クラウディアが心配そうに聞く。「うん。大丈夫」そう答えても痛くはあった。見渡す限りがれきの山。不安だった。里緒奈のもとに帰れるかな?そんな思いが出てきた。
🐾車に乗る
不安があったこともあり、二人揃って黙りこくって歩いていた。と、「こんなところに犬がいるぞ」という声がした。振り返ると男の人が二人、女の人が一人いた。クラウディアは、ヒャッ!っと叫んで逃げようとした。「あ、待って!ダメだよ!クラウディアァ!」わたしは叫んだ。と、ぴくん、とクラウディアは止まり、恐る恐る戻ってきた。でもへっぴり腰ですぐに逃げられる態勢だ。「大丈夫だってば、クラウディア」わたしはなだめた。「こっちにおいで」男の人が呼びかけた。声でわかった。この人は絶対にわたしらを傷つけないって。わたしは近づいた。つられてクラウディアも近づいた。わたしはその男の人に身を委ねた。「いいこ」男の人はそう言っておやつをくれた。クラウディアも同じようにした。と、男の人はわたしを抱きかかえたまま、どこかへ歩き出した。首をひねるとクラウディアを抱きかかえた女の人も同じところへ歩いている。クラウディアはきょろきょろさせ、目を大きく見開いていた。
「車?」わたしたちがついた場所は車のところだった。クラウディアは予想通り驚いていたがわたしは驚きもしなかった。だって車はよく里緒奈と乗ったから。あの時は平和で楽しかったな。 と、車の後ろっかわを開けて銀色のケージを2つ出し、車の座席にのせた。そのうちの一つにわたしを入れた。ケージの中には温かい毛布とケージに設置されてある給水ボトル(水)、器に入った固形のご飯とペースト状のご飯があった。もう一つのケージにもあり、そこにはクラウディアが入った。「りり!りり!」ケージに入り、りりを見つけたクラウディアがケージを前足でらしながら言う。「あ、クラウディア!」「りりぃ!ここは何なの?」「なんなのって言われても…でも車っていうものの中で、ケージっていうものの中にいることは確実だよ。」「どこいくの?」次から次へと難しい質問をするクラウディア。「そりゃわからんよ。」わたしは答えた。「えええええええええええええええ!」クラウディアが大声を出すもんだから参ってしまう。「大丈夫。この人たちはいい人だから。ね。」軽くクラウディアをなだめるとやっと落ち着いた。「お腹すいたでしょ?ご飯食べな。水もあるし、毛布もあるもん」「うん…」 少したつとクラウディアは眠ってしまった。 それにさそわれるようにわたしも眠った。
🐾シェルターへ
ふぁあああ‥ わたしは大きなあくび一つをし、目が覚めた。横を見るとクラウディアは寝息を立てて寝ていた。外を見ると竹林の中にいるようだった。「ついたぞ!」ふいに大きな声がし、がちゃっとドアが開く音がした。「ふぁあ、ふぇえ」変なあくびっをし、クラウディアも起きた。「ん?ここどこ?」クラウディアが寝ぼけた声で言う。「知らないよ。」わたしは答える。と、体が浮く感じがした。上を見るとあの男の人がわたしとクラウディアのケージを持ち上げた。「うわっ」クラウディアは驚いたがわたしは別のものが目に入っていた。
大きな家。おいしそうなご飯の匂い。楽しい匂い。嬉しい匂い。全ての風景と匂いが頭に流れ込んでいる。わたしもなんだか嬉しくなって「ワン!」と大きく吠えた。ただ一人、クラウディアだけが怯えた顔をしていた。「さっきっからどうしたの?クラウディア」わたしは問いかけた。「…怖い、怖いの」「怖い?」「うん…ここ、なんなの?お母さんは?兄妹たちは?」自分に言い聞かせるように呟くクラウディアにりりはなんだか緊張感を覚えた。なんか違う。これ、いつものクラウディアじゃない。そう思った。「大丈夫だよ。だってわたしがいるもん。いつでも一緒だから。ね?元気出しなよ」心臓がバクバクしながら励ました。「分かった。りりがそう言うなら。」そう言ってクラウディアはだまりましたがりりの心臓と緊張感は収まりませんでした。
「ほい、着いた」別の男の人の声でハッとした。きょろきょろとあたりを見回す。大きな建物が一つあり、まわりには広い庭もある。そこで駆け回っている犬たちはみんな楽しそうだ。反対側にある庭には猫たちがのんびりくつろいだり、歩いたりしていた。奥側の庭には屋根がついていて、羽ばたきの音と鳴き声が聞こえ、ときたま羽がふわりと飛び散っている。鳥が屋根に内側から起用に止まっている。 かすかに悲しい匂いもするが今は幸せ、という匂いがたくさんあった。わたしは嬉しくて「わん!」と吠えた。里緒奈と別れて初めてこんな嬉しい声を出した。クラウディアは別だけど…。ずっとケージの片側をがしゃがちゃと鳴らしている。里緒奈を探し、会うことは諦めないけれど、ここを宿代わりにできたら嬉しいな。元野犬のクラウディアも一緒がいいな。もしかしたら里緒奈が訪ねて来てくれるかもしれない。そんな希望の思いを膨らませ、にこにこしていた。
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