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第三話 ダル絡み怪人の涙
ある日の夕暮れ時。
店で使う食材や日用品の買い物を終えたジントは、家路を急いでいた。
「思ったより遅くなっちゃったな……」
普段彼はお店を一人で経営しているというのもあるが、基本インドアなため、ネットスーパーを利用することが多い。
そのためたまにこうして直接買い出しに出ると、予定外に色々見て回ってしまい、いつも時間が掛かってしまう。
今日は定休日とはいえ、家でやることは山積みだ。
「ちょっと近道してくか。」
普段ほとんど通らない繁華街へ足を踏み入れる。
空には茜色の雲。
まだ明るい時間だというのに、ネオンは煌びやかに輝き、人々のざわめきが辺りを包んでいる。
(……やっぱ苦手だな、こういう所。)
足早に通り過ぎようとした、その時。
「ねぇおにいさ〜ん」
突然、腕を掴まれた。
「ひっ……!」
思わず肩が跳ねる。
振り返ると、そこには金髪に派手なスーツ姿の男。
どう見てもホストだ。
「わお!近くで見るとさらに可愛い顔してんじゃん!」
「オレさ、そこの店の客引きしてんだけど、お兄さんちょっと寄ってかない?」
「……結構です……。」
ジントは一歩下がる。
「……ていうか手、早く離して。」
しかし男は離さない。
「にしてもお兄さん、めっちゃ可愛いね!」
「何かいい匂いするし、お肌も白くてツルツルだし〜。」
男の顔が近くに来る。
思わず固まり息を飲むジント。
「マジでオレのタイプなんだけど!」
「客としてじゃなくてさ、普通に遊ぼうよ!」
ぐいっと腕を引っ張られる。
「や……やめろっ!」
振りほどこうとしてもびくともしない。
ヒョロい割に力が強い。
「え〜!その抵抗する姿も可愛いんだけど〜。」
周囲の人たちは見て見ぬふり。
男はそのまま路地裏へ引っ張ろうとする。
(どうしよう……。連れて行かれる……!)
その時だった。
「なぁ、あんた何してんの。」
聞き覚えのある低い声。
「……ハヤト!」
少し息を切らしたハヤトが立っていた。
目は完全に据わっている。
「あ?」
男が振り返る。
ハヤトは何も言わず男の手を払い、ジントを自分の後ろへ引き寄せた。
「大丈夫か?」
「……う、うん。」
ジントはようやく力が抜ける。
「おいテメェ!オレのダチに手ぇ出すんじゃねぇよ!」
男はニヤリと笑った。
「へぇ〜!お兄さんもいい男じゃん!」
「せっかくだし一緒に遊ぼうぜ!」
そう言ってハヤトの肩を組む。
「うわっ!マジきめー!」
即座に振り払うハヤト。
「まぁまぁ。お兄さんもオレのタイプなんだって〜。」
しつこく言い寄る男。
「だから近ぇんだよ!!」
ハヤトが怒鳴る。
「ねぇ。」
男の額をじっと見つめるジント。
「こいつさ、怪人じゃね?」
「え?」
見ると、前髪の隙間からうっすらと覗く『滅』の文字。
「あ、ホントだ。」
ハヤトも気付く。
二人は顔を見合わせ、同時にため息を吐いた。
「マジか……。」
「うわめんどくせぇーー!!」
すると。
「おーハヤちゃんとジンちゃんやん!」
「こんなとこで偶然やなぁ!」
「てか何してんの?」
振り返ると、ダイチ、シュンタ、ジュウタロウが都合よく現れた。
「ちょうど良かった。」
ジントが怪人を指差す。
「こいつ怪人。」
「あ、ホンマや。」
シュンタが一秒で納得する。
「ねぇねぇ!」
怪人はまだハヤトに絡んでいる。
「恋人のピンチに颯爽と現れるとか、お兄さんマジかっこいいじゃん!」
「恋人じゃねぇし!」
ハヤトが即否定する。
「照れなくていいって〜!」
「照れてねぇ!!」
ジュウタロウがぼそっと呟く。
「ハヤちゃん、なんか苦戦してるね。」
「精神的にやられとるな。」
ダイチが即答した。
その時。
怪人の視線が三人へ向く。
「なんかこいつ目つきヤバ……」
危機感を覚えとっさにシュンタの背後に隠れるジュウタロウ。
「えっ!イケメンが増えてる!!」
そして手前に居るダイチを見ると
「わお!お兄さん可愛い顔してるのに、めっちゃ良い身体してるじゃん!」
「特にその上腕二頭筋!」
「大胸筋!」
「えぇ〜ホンマ?」
ダイチが照れる。
「まぁ鍛えとるからなぁ。」
「触っていい?」
「お触りはアカンで♡」
「おい!何仲良くしゃべってんだよ!」
ハヤトのツッコミが飛ぶ。
今度はシュンタを見る怪人。
「そっちのお兄さんも!」
「背高いし!スタイル良いし!」
「頭良さそう!」
「なんや。」
シュンタがニヤリ。
「全部当たっとるけどな。」
「嬉しそうに認めるなよ……」
ジントが頭を抱える。
「よし!」
怪人が両手を広げる。
「みんなで飲みに行こうぜ!」
「今日はオレちゃんが奢っちゃおっかな〜!」
「マジ!?」
ダイチとシュンタが同時に反応する。
「奢りならええやん!」
「一軒目どこ行く?」
「「おい!!」」
ジントとハヤトの声が重なる。
「怪人なんだぞ!!」
「敵!!敵だから!!」
しかし。
すでに三人は肩を組んで歩き始めていた。
「焼き鳥好き?」
「好き!」
「レモンサワー飲む?」
「飲む飲む!」
「マジざけんじゃねえよ!!」
ハヤトが叫ぶ。
ジュウタロウは帽子を深く被り、サングラスを掛けながら呟く。
「……ねぇ。こいつ何怪人なの?」
「ん〜。」
ジントは少し考え、
「ホスト怪人?」
するとハヤトが首を振る。
「いや。」
「あれは。」
「ダル絡み怪人だ。」
「なるほど。」
ジュウタロウが静かに頷く。
「ダル絡みに対応できる二人って凄いね。」
「対応というか……楽しんでるよね。」
ジントは遠い目をした。
「……あいつら。一緒にやっちまうか。」
ハヤトが低い声で言う。
笑っていない。
「ダメダメ。」
ジントが慌てて肩を掴む。
「怪人より先に逮捕されるから。」
「チッ。」
「舌打ちすんな。」
「で、ミルミル君いないけど、誰が撮影係やる?」
「オレ。」
ジュウタロウが手を挙げた。
「報告書も書いとく。手当てつくし」
「んじゃよろしく。」
ジントが頷く。
そして怪人と完全に意気投合し、肩を組みながら夜の街へ歩いていくシュンタとダイチを見る。
「とりあえず先に変身!」
「二人を怪人から引き離す!」
ジントが叫ぶ。
「了解!」
ハヤトは通信機を取り出す。
「よし。変身すっか!」
二人同時にボタンを押した。
ピンクとイエローのヒーロースーツに身を包んだ二人。
「じゃあ一応写真だけ撮っとくねー」
ジュウタロウがスマホを構える。
「あぁ、ポーズとかは今回はいいから。ミルミル君いないし。適当に書いとくわ」
「そうしてもらえたら助かる」
イエローが小さく頷く。
この三人だけだと、こういう適当な感じで済むので楽だ。
そう思いながら、ピンクは怪人と仲良く肩を組んで歩いていくシュンタとダイチの背中を見て頭を掻いた。
「まずはどうすっかな」
「もう手っ取り早く倒したいよね」
イエローも腕を組みながら考え込む。
「あの二人も取り込まれてるし」
すると、ジュウタロウがぽつりと口を開いた。
「ほら、ああいうタイプってさ、こっちが予想外の行動したら動揺するじゃん」
「向こうが引くぐらいのやつね」
「……よし。」
イエローは何かを思いついたようにピンクを見る。
「おいピンク、泣け!」
「はぁあ!?なんで!?オレ!?」
突然の命令にピンクが大声を上げる。
「お前ウソ泣き得意じゃん。営業先でもやってんだろ?」
「えっ!嘘泣きってひどっ!一応ちゃんと毎回気持ちこもってますけど!」
「どっちでもいいから、お前が泣いたらアイツも引くんじゃね」
「何それ!?適当だな!」
「まあまあ。」
ホワイトが二人をなだめる。
「じゃあちゃんとストーリー作らなきゃね。」
「泣けるといえば……やっぱ実家のお母さんからの手紙だよね。」
「おお!さすがジュウタロウ。」
イエローはどこからともなく便箋とペンを取り出した。
「じゃあオレ今書くから。」
「ええと、……ハヤトへ……」
「おい!なんで俺宛なんだよ!」
「アイツのかーちゃんからってことでアイツ宛にしろよ!」
「なるほど。そっちの方が効きそうだな。」
イエローは納得したように頷く。
「ねぇ、アイツの名前聞いてきてよ。」
「はいはい……。」
ピンクは渋々怪人の方へ歩いていく。
「おい、お前。」
「あれ?なんかヒーローいんじゃん!」
「え〜ハヤちゃんもう変身してもうたん?一杯飲んでからにして欲しかったわー。」
「せや!せっかくのおごりなんやし!」
(こいつら……マジ後で覚えてろよ。)
怒りを押し殺しながら、怪人へ向き直る。
「お前、名前なんていうの?」
「えぇ〜?オレ?気になっちゃう感じ〜?」
「うっわ!マジうぜぇ!」
するとシュンタが笑顔で怪人の顔を覗き込む。
「なぁお兄さん、せっかくやから教えて?」
上目遣いで目をパチパチと瞬く。
「ありゃあ〜もうこんな可愛くお願いされたら教えるしかないかぁ。」
「オレ、コータっていうの!よろしくぅ!」
相変わらず軽いノリでピースサインを決める。
「……シュンタやるな。」
ピンクは振り返る。
「おーい!こいつ、コータだって!」
「了解。」
イエローは頷くと、さらさらと手紙を書き始めた。
数分後。
「はい、書けた。ピンク読んで。」
「俺かよ……。」
大きくため息をつきながら、ピンクは便箋を受け取った。
「おいコータ!お前の母ちゃんからの手紙!」
「ちゃんと聞いとけよ!」
手紙を広げる。
『コータへ。
元気にしていますか?
東京では、うまくやれていますか?
最近全然連絡もくれなくて、お父さんもお母さんも心配しています……。』
読み始めた瞬間。
怪人の動きがぴたりと止まる。
『こっちでは、みんな変わらず過ごしていますよ。
でも最近、お母さんは腰を痛めてしまって、畑仕事が少し大変です。
ふと、コータが昔お母さんの仕事を手伝ってくれていたことを思い出してしまいます。
あの頃のコータは、誰よりも優しくて、家族思いで、可愛い可愛い男の子でした……。』
気が付くと。
ピンクは読みながら声を震わせ、鼻をすすっている。
あとなぜかダイチとシュンタまで泣いていた。
コータはただ呆然と立ち尽くしている。
『今でも、そのコータの心は変わっていないと信じています。
辛いこともたくさんあるだろうけど、周りに流されず、その優しい心で、人のために、自分のために頑張って下さい。
お母さんはいつでもコータの味方だからね。応援しています。
母より。
追伸。また野菜とか送るから、たまには電話してね。』
読み終えた頃には、三人とも涙で顔がぐしゃぐしゃになっていた。
「コータ、ええ母ちゃんおるんやなぁ……。」
「ホンマに、親孝行せなあかんでぇ……。」
ダイチとシュンタが涙を拭きながらコータの肩を叩く。
ピンクは鼻をすすりながら、手紙をコータへ差し出した。
震える手で受け取ったコータは、便箋を胸に抱きしめる。
そして、ぽろぽろと涙を流し始めた。
その瞬間。
額に浮かんでいた『滅』の文字が、静かに消えていく。
イエローはゆっくり歩み寄った。
「お前、これからどうするんだ?」
「……オレ。」
コータは涙を拭い、小さく笑う。
「ホスト辞めて、実家に帰ります……。」
「うん。」
イエローも穏やかに頷いた。
「その方がいいと思う。お前、ホスト向かなそうだし。」
その言葉に、コータは少し照れくさそうに笑った。
「……オレ、なかなか指名も伸びなくて。」
「キャッチもいつも上手くいかなくて……。」
「そしたらある日、黒ずくめの男に声を掛けられたんです。」
「仕事が上手くいくようにしてやるって……。」
五人は顔を見合わせる。
「また奴ら……ブラック滅軍団か。
イエローが呟く。
「気が付いたら、こんなダル絡みキャラになってて……。」
「いつも無理やりお客さんを連れ込んで……。」
「迷惑ばっかり掛けてました……。」
俯いて涙を流すコータ。
その姿はもう怪人ではなく、都会での暮らしに疲れ果てた、一人の青年だった。
「…………。」
ピンクはそんな彼に、自分自身を少し重ねてしまう。
だから何も言えなかった。
「よし。」
ジュウタロウがスマホを構える。
「これで怪人も改心したし、一件落着だね。」
パシャ。
今日もまた一件。
ブラック滅軍団の企みは、五人の手によって阻止されたのだった。
「よし!コータ!気を取り直して飲みに行くで!」
ダイチが俯いたままのコータの肩を組む。
「さっき奢る言うたよな?約束は守ってもらうで!」
反対側からシュンタもガシッと肩を組んだ。
「俺らが何でも話聞いたるからな〜!」
「今日はコータにとって最高の夜にしたるで!」
突然の勢いに、コータは目を丸くする。
しかし次の瞬間、さっきまでの無理に作った笑顔ではなく、どこか肩の力が抜けた優しい笑みを浮かべた。
「……ありがとう。」
その一言を残し、三人は肩を組んだまま夜の街へ消えていった。
その背中を見送ったあと。
「にしてもジンちゃん」
「コータのお母さんの再現率高すぎない?しらんけど」
半ば呆れ顔のジュウタロウ。
「あーあれ?まぁ、適当にこんなもんかなって書いたら当たってたって感じ?」
「マジかよ……。オレらまで泣かされたんだけど」
「勝手に泣くなよ」
苦笑いのジント。
「てかさ、今回オレら変身した意味なくね……?」
「それは言っちゃアカンやつ」
「まあちゃんと出動した証拠になるしね」
「じゃあ、俺はやることやったから帰るね。」
ジュウタロウは報告用の写真を確認しながら、さっさと帰っていった。
残されたジントとハヤト。
「ほら、荷物。」
ハヤトがジントの手から買い物袋をひょいと持つ。
「あ、ありがと……。」
二人は並んで夜の繁華街を歩き始めた。
しばらく無言が続いたあと。
ハヤトがぽつりと口を開く。
「……もう、一人でこんなとこ歩くなよ。」
「……一応オレも成人男性なんですけど。」
「ジントは可愛いからダメなの!」
その一言で、ジントの顔が一気に赤くなる。
「ホント、お前もっと自覚しろよ。」
「この前だって店で客に絡まれてたじゃん。」
「はぁ?ハヤトには関係ないだろ!」
思わず強い口調で返してしまう。
「あ……。」
しまった。言い過ぎた。
そう思って口を押さえる。
ハヤトは何も言わず、ただ前を向いて歩いている。
「……ゴメン。」
ジントは俯いたまま小さく呟く。
「心配してくれてるのに。」
するとハヤトはニヤリと笑った。
「じゃあ、あの件考えてくれる?」
「あの件って?」
「ほら。」
「俺が仕事辞めて、ジントの店手伝うって話。」
「はぁあ!?あれ冗談だろ!?」
「いや、本気だけど?」
あまりにもあっさり言われ、ジントはさらに目を見開く。
「いやいや……。」
「そもそもそんな人件費払えませんし……。」
「あ、それなら大丈夫!」
ハヤトは親指を立てる。
「住み込みで三食付けてくれたら、あとはいいから!」
「いやいやいや!無理だって!」
「え〜、いいじゃん。」
「俺いたら色々助かると思うよ?」
「いや、そうかもしれないけどさ……。」
「普通に無理だって……。」
「じゃあこれからも毎日ジントの店通うしかないかぁ。」
「会社にこき使われて、疲れた体引きずりながら行くからな!」
「なにそれ!毎日来ないでよ!」
「え〜。」
ハヤトは悪戯っぽく笑う。
「だってジント、俺がいないと寂しいでしょ?」
「寂しくないし!」
「じゃあジントが俺を雇いたくなるまで毎日通うから!」
「だから雇わないって!」
「そんなこと言って〜!ほんっと素直じゃないんだから。」
夜道に二人の声が響く。
ジントは大きく息を吐いた。
「はぁぁぁ……。」
今日一日を振り返る。
客引き。
怪人。
ブラック滅軍団。
そして最後に残ったのは。
隣でニコニコ笑っている男だった。
(……マジで、こいつが一番ダル絡み怪人じゃね?)
そんなことを思いながらも。
ジントの口元は、ほんの少しだけ笑っていた。
第二話 おわり
めちゃくちゃ長くなりました……
私短編向いてないかも🤣
そしてBL要素はなしのつもりでしたが、私の脳内のさのじんが勝手にこうなったのでご理解下さい🙇💦
#ご本人様には関係ありません
莉心
53
#山中柔太郎
Yuna
18,105
ゆいは
203
コメント
12件
初コメ失礼します! 一気見させてもらったんですけどめちゃくちゃこの作品好みです…! 続きも楽しみにしてます! 時差コメ失礼しました(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)
早速続きをありがとうございます…!(T^T)✨️圧かけてしまったようならすみませんですがありがたく読ませていただきました♥(,,> <,,)♥しれっと怪人すぎて笑わせていただきました!(๑¯∇¯๑) いつもこちらにも遊びにきていただき本当にありがとうございます!引き続き更新を楽しみにしております(◍ ´꒳` ◍)

更新ありがとうございます。続き嬉しいです!さのじん良き〜