テラーノベル
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#独占欲
#ダークファンタジー
病院からの帰路
会社からの帰路とは異なる
普段とは異なる路線
普段は通らないルート
その
普段は通らない
乗り換えの駅で
一人佇み
スマホを触る
鈴木さんの姿を目撃した
明らかに誰かを待っている様子
やがて
鈴木さんが顔を上げ
何かに反応する様に微笑む
その先には
——純也の姿が
「……」
何を憂う事があるだろうか
分かっていた事
分かっていた事……だけど
自分自ら現場を目視してしまい
自分自身にももう誤魔化しは効かない
これで
確定してしまった
直感や
状況証拠に頼って
そうだろうと確信していた事だが
自分自身の目で確認してしまった
直立不動で固まったまま
柱の隅からその様子を垣間見る
仲睦まじ気な二人の表情
その関係性は
最近知り合った様なものではなく
友人関係といったものとも思えなかった
笑顔で立ち去る二人が
視界から消え去るまで
直立不動で見送り
私は
途方に暮れながら
当初目指していた自宅への
ルートへと再び戻った
***
私は自分が嫌いだ
あんな現場を目撃しても尚
嫁の務めを放棄出来ず
どうせ食べられる事のない
純也の夕飯を作る自分が嫌いだ
本当は嫁の務めなど存在しない
ただ何となく純也との間で生まれた
ただの日常のルーティン
務めでも何でもない
ただ単純に純也の為と
ただ何となく思って
自分で自分に強いただけの
自己満足の嫁の務め
リュカの言う通り
こんなのただの慣れだ
こんな慣れに縛られ
自分で自分を虐げているだけ
それを
わかっていて尚止められない
私はそんな自分が嫌いだ
あれからずっと体調が悪い
吐き気で胃がムカムカする
頭痛も酷いし
倦怠感も酷い
今日は仕事もしていないのに
やたらと疲労を感じる
慣れない一日を過ごしたせいか
はたまた
あんな現場を目撃してしまったからなのか
普通に考えれば妊娠による体調不良が主たる要因
様々な症状に苛まされ
強い眠気にも襲われる
何とか一通りの務めを終えると
体調不良から逃げるように
強い眠気に身を任せ
私は
そのまま眠りに就いた
***
パソコンのスクリーンを見つめ
キーボードを叩き
マウスを操る
業務時間のオフィスでの
完璧な外見を保ちつつ
頭は妊娠の事で一杯
されどもその思考に引っ張られる事なく
妥協無く業務に勤しむ
一昨日の早退
昨日の病欠
ただでさえ滞った業務が山積
ただでさえ多忙な日々なのに
私はもう責任ある立場
伊藤さんにも迷惑を掛けられない
既に掛けてしまった迷惑を
挽回しなければならない
「水川さん……本当に大丈夫ですか?」
伊藤さんが
心配そうな顔で度々声を掛けてくれる
「うん、平気平気!ごめんね、今週は迷惑掛けっぱなしで……もう大丈夫だから」
出来る限りの笑顔で
出来る限りの表面を装い
出来る限り悟られない様に
出来る限り円滑な業務に務める
少しは慣れたものの
まだまだ慣れない事だらけの新業務
それでも私は
責任ある立場
私がしっかりしないと
伊藤さんに迷惑が掛かってしまう
度々トイレへ駆け込み
精神と休息と
体調の安定を図りつつ
出来る限り個人的な感情を排除し
目の前の業務をこなす事に集中した
***
作った朝食にラップを掛け
書き置きを残した
純也に宛てて
早退で
病欠で
滞った業務の山積
そのしわ寄せの解消をしなければならない
今後
またいつ体調不良に見舞われるかもわからない
またいつ休まなければならないかもわからない
今後病院へ定期的に通う事は目に見えている
やらなければならない仕事は山積
今後を見据えて
事前に整えてもおかねばならない
その日
週末に差し掛かった土曜日
私は休日出勤した
純也へ書き置きを残して
遅めの朝の空いた電車
それだけで心に微少のゆとりが生まれる
電車の窓から見える景色が
改めて認識出来る
普段は外の景色を見る余裕すらないのだと
改めて実感する
休日にこの路線の電車に乗るのは
あの日以来
休日出勤をしていたリュカと
レストランで会った日以来だ
仕事中毒のリュカの事だ
また出勤していたり……
そんな
空虚で
淡い期待を
仄かに胸に抱き
電車に揺られ
会社を目指す
今週はリュカにも多大な迷惑を掛けてしまった
迅速に
適切に
優しく完璧な対応をしてくれた
DNA検査も快く了承してくれた
だが
私はまだ
身籠ったのが双子という事実は伝えていない
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