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「結局どこ行くんだよ」
「さあ?気の赴くままに?」
学校を飛び出して、すぐ近くのバスターミナルに丁度来ていたどこ行きかも知らないバスに乗り込んだ三人は、少し遠い商業施設にたどり着いた。
映画館もあるし、フードコートもある。服屋も本屋も電気屋も。
小さい頃は遊園地みたいな場所だと思っていた場所は、行動範囲がぐんと広がった今でも少し胸が高鳴る。
それにしても、コミュ力お化け佐藤と俺、そこに変人の行野という、中々交わらない面子での最適解の行動はどうしたら不自然じゃないのか、それが全くわからない。
最終的なベストな結末はは行野がなんやかんやで離脱、次いで俺もそこそこで帰ることだが、この佐藤から逃げるのは難しい。
タイミングをよく見計らわないと、ゾンビみたいに引きずり戻されてゲームオーバー。喉が壊れるまでのカラオケになんて連れて行かれるかもしれない。
一番安パイな方法はやはり、そこそこに付き合ってそこそこに解散する。
部活を休めたハイテンションの馬鹿はどこまでも突っ走る。ズル休み嬉しいよな、わかるよ。
「行野くんなに食べる〜?」
「お前奢れよ。行野引き摺ってきたのお前なんだから。」
ダラダラと歩いていたらクレープの店前まで来ていた。
しかし、問いかけた先には行野の姿が見えない。
小学校の遠足みたいだな。何かに集中していたら列の先を見失って、俺は名字が名雪で真ん中あたりだったから、後ろのクラスメイトから責められて申し訳なくて、とても居心地が悪かった。
多分シシルもそのクチだろう。佐藤を長い列に並ばせておいて、すぐそこの店の角を一個曲がれば、ほら居た。
キラキラしたピアスや指輪やらをうっとりと眺めてる様は、黒い制服と相まってカラスを連想させる。
近付いてみても物色する手元に集中しているのか、肩を叩くまで気付かなかった。
「え?あれっ?佐藤くんは?」
「向こういるよ。クレープ奢ってくれるってさ。」
シシルが手に持っていたのはシンプルなフープピアスだった。 シルバーかゴールドかで悩んでるらしい。
「ピアス開いてんの?」
なんだかそういうイメージが無かったので、耳元をまじまじと見てしまう。
ピアス穴は見当たらない。
「開けたいなとは思ってるけど、俺不器用だからさ。」
「なんだ。そんなら今度開けてやるよ。」
俺は相手が怖がっていようがなんだろうが、それを気にせずバチコーンとピアッサー押せるタイプなので、よく友人から「失敗しても気にしない」を条件に、あらゆるピアス穴開け依頼が舞い込んでくるのだ。
正直そんなに怖がるなら皮膚科とか病院で開けてもらえよとは思うが。
「え、いいの?」
「……ウン。ほら、これも自分で開けたし。」
友人のニードルが余った時、ノリで開けたピアスには、先生に小言を言われないレベルのピアスがささやかに着いている。
耳をつまんで見せていると、シシルの食いつきはやけに良いみたいで、「開けてやる」なんて言ったことを後悔し始めた。
「そんな見ないでくれる?キモいんだけど。」
「ねえ、この二つだったらどっちが好き? 」
一応俺が言われたらちょっとショック受けると思う言葉を言って突き放したつもりだが、まるで聞こえてないかのように問うてくる。
もしや俺が好きと言った方を買うつもりだろうか。恋人ではない、友人でもないやつにそんなこと聞かれても嫌悪しか湧かない。しかも数週間前兄弟になった、元々嫌いなやつだったら尚更。
「シルバーかな。」
本当はゴールド系のアクセサリーの方が好きだ。今つけているものもゴールド系の色味だし。
「そっか、買ってくる。」
レジに向かったシシルを見届けてから、クレープ屋の列の進行状況を覗くと、進んでいたもののまだ俺たちの番まではかかりそうだ。
「ねえ美鶴、兄弟になった話ってして欲しくないよね?」
もう会計を終えたのか、いつの間にか背後にいたシシルは小さな袋を二つ持っている。
「言わないけどさ、俺っていつボロが出るかわからないから。ごめんね。」
そんな唐突にフラグじみた発言されると背筋に嫌な汗が伝ってくる。
もしやこの後佐藤にバラすという宣戦布告だろうか。いや、コイツはおそらくそんな器用な奴ではない。
本当に申し訳ないと思っているのだ。
声がどんどん小さくなっているシシルはとうとう聞き取れないレベルで、ゴチャゴチャと何か言っている。
お前を信頼しているわけないだろう。だから俺はシシルを生贄にさっさと家に帰れないんだから。
「行野、クレープなるべく高いやつ頼めよ。」
佐藤、俺あのデカいフルーツクレープが良いな。1500円するやつ。