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夕食の時間。同じテーブルに向かい合って座っているのに、空気はやけに静かだった。
沈黙を破ったのは、末澤さんだった。
【……その、さっき言ったこと……嘘ちゃうから。ホンマに……お前のこと、好きやねん。】
真正面からぶつかってくるその言葉に、胸がざわつく。
「……ごめん。私……“好き”とか“恋”とか、よく分からん……」
言った瞬間、彼が少しだけ表情を揺らしたのが分かった。
でも責めるような顔はしなかった。
【……そっか。】
優しい声だった。
「……ねぇ、聞いてくれる?私の過去。」
【……うん。】
私は深く息を吸った。
「私、小さい頃から母がいなくて、父と二人暮らしやったんよ。でも……父は暴力を振るう人で。それが、私が男性恐怖症になった理由……。」
言いながら、過去の景色が胸を締めつける。
「男性恐怖症は……時間かけて克服した。でもね……父の言葉が、どうしても忘れられへんの。」
【……なんて言われたん?】
「“お前には俺と同じ血が流れてる。好きな人や子供ができても、結局お前も俺みたいになる”……って。」
【……なんやねん、それ。】
怒ってくれた。
それだけで、胸の奥が少しだけあたたかくなった。
「母はね……逃げたんよ。私を置いて。自分が暴力受けるのが嫌で、私だけ置いて逃げた……だから……思ってしまうんよ……私は誰にも、愛されてないって……」
そこまで言った瞬間、涙がこぼれそうになって、私は立ち上がった。
「ごめん、ちょっと外……」
けれど、その腕を掴んだのは彼だった。
次の瞬間。
【……俺の前では、強がらんでええ。泣きたかったら泣け。愚痴りたいなら愚痴れ。……無理に笑おうとせんといて。】
力強く、でも優しく。
ぎゅっと抱きしめられた。
もう耐えられなかった。
私は、胸に顔を押し付けたまま、子供みたいに泣いた。
どれくらい泣いていたのか分からない。
気づけば、ソファに座っていて、末澤さんはずっと私を抱きしめて離さなかった。
あたたかい胸に寄りかかっているうちに、私は泣き疲れて、眠ってしまっていた。