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看護師は手にした睡眠薬のシートを握りしめ、主治医のもとへと足早に向かった。
「先生……これ、患者さんの引き出しから。ほとんど空です。ずっと前から飲み続けていたみたいです」
主治医は顔を曇らせ、
静かに薬を手に取って数を確かめる。
それだけの量が減っている――涼ちゃんが長い間、誰にも気づかれないまま
薬を飲み続けていた現実が、重く部屋にのしかかった。
「……わかりました。私から本人に直接、様子を聞いてみます」
そう言うと、看護師は再び涼ちゃんの病室へ向かう。
ドア越しに、そっと𓏸𓏸に声をかけた。
「ごめんね、𓏸𓏸さん。ちょっとの間だけ、部屋を出てくれる?」
𓏸𓏸は心配そうに涼ちゃんを見つめてから、小さくうなずき、
静かに部屋を出ていった。
病室には、涼ちゃんと看護師だけが残る。
窓から射す午後の光だけが床に細長い影を落としていた。
看護師はベッドのそばに腰を下ろし、
ひとつひとつ、落ち着いた声で質問を投げかける。
「涼ちゃん、どうしてこんなにたくさん薬を……?」 「つらいことがあったの?」 「眠れなかった?それとも……ほかに理由があるの?」
けれど涼ちゃんは、下を向いたまま動かない。
手元の布団の端をギュッと握りしめ、
看護師の目を見ることも、言葉を返すこともできなかった。
質問は静かに続いたが、
病室には涼ちゃんの沈黙だけが重く、ゆっくりと積もっていった。