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元はと言えばルティにも回復させようとしていた。ついでにもなるので返事を待つ彼女に対し命令することにする。
「ルティ、ありったけの回復薬を奴にぶん投げてこい」
「ええ? でもシーニャが回復に行きましたよ~? それなのにですか?」
「シーニャは回復専門じゃないし、負担を軽減させてやらないとな……だから頼む」
「ひえぇぇ!? アック様にお願いされるだなんて、恐れ多すぎますよぉぉ。今すぐ行って来ます!!」
しばらくして自称宮廷魔導士兼道化師のスフィーダが、しかめ面をさせておれの元にやって来た。どうやら回復薬をたっぷりもらってずぶ濡れになったらしい。
シーニャとルティはそのままフィーサの所で休ませている。今は人化していないが、どうやら回復に努めているようだ。
「――それで、宮廷魔導メンバーというのは?」
「ここではないが、西の帝国に自分が所属する魔導兵団がある。お前……アックの強さなら受け入れられるはずだ。自分はグライスエンドの連中を勧誘しに来たんだ。だが……」
「この町の連中の動きが上手く掴めなかったんだろ? だからおれに目をつけたと」
「そ、そうだ。グライスエンドの連中は話が全く通じない奴ばかりだった」
そうだろうな。
入り口にいた樹人族の女といい、派手な男の登場といい掴めない奴ばかりだ。それよりも奴らの行動に一貫性が無いのが気になる。末裔同士が仲良く暮らしているでも無いとも言えないが、果たしてどう転ぶのか。
「悪いが、今すぐに行くことは出来ない。おれはここの連中の意図が知りたいんでね」
「意図? それは簡単なことだ。末裔の町を知っても知らなくても、侵入して来た者の存在を抹殺するのが狙いだ」
「……抹殺出来なかったら?」
何とも胡散臭い話だ。戦いを勝手に仕掛けてきておきながら調子に乗っている感じがある。
「それは無理に決まっている。お前もここに深く留まらずに自分と共に西へ来い! ここの連中に勝てたとしても、素直に事が運ぶとは限らないんだからな」
西と言われても今はさほど興味を持てないし、言うことを聞く必要は無いな。
「いや、今は無理だ。いずれ帝国に行くかもしれないが、その時はよろしく頼むとしか言えないな」
「……いいね、アック。実にいい! 見込んだ通りの男だね」
「普通に話せ」
魔導士の部分は垣間見えなかったが、道化師スフィーダの話はあながち嘘では無いようだ――とはいえ、次の行き先も決まっている以上急ぐ必要性を感じない。
「ではアック! 帝国へ近づいたら合図をくれないかい?」
「そもそもどこにあるんだ?」
「ドワーフに聞くといい。帝国に近づいたらアックの魔法を放てばこっちから迎えに行く」
「……ドワーフ? おれの仲間のことか?」
「いいや、赤毛のドワーフとは別だよ。……そういうわけで、自分はこのまま消えさせてもらうよ」
そう言うとスフィーダは音も無く姿を消した。ほんの一瞬の視線外しの間だったが、道化師としての実力はそれなりだったようだ。
◇◇
奴がいなくなると同時に、音を反響させていた教会がすっかり静まり返る。試しにおれとルティで声を張り上げたが、何でもかんでも共鳴しなくなっていた。
「イスティさま。わらわはどうなったなの?」
「覚えていないのか?」
「イスティさまの手元に収まった時までは意識があったなの。でもでも、そこからは何も覚えていないなの」
フィーサがスフィーダの音に対し、耐性をつけた。その上で転じた攻撃かと思っていたのに、あの魔法文字《ルーン》もおれが顕現させたものなのか。そうだとすると神剣フィーサブロスを使いこなせてきたことになる。
今の時点で何とも言えないが、そのうちフィーサが完全に人格を失うことになるとは想像したくない。
「今はとりあえず鞘に戻って少し休んでいいぞ」
「ふわぁぁ……そうするなの」
随分と眠たそうだ。
「アック、ここから先はどうやって戦うのだ?」
「魔法と拳で行く」
「ふおぉぉぉぉ! 拳なら、わたしの出番ですよぉぉ!」
「そうだな、頼りにしてるぞ」
「はいっっ!!」
そうしておれたちは教会を出ることにした。
だが、
「帝国には向かわなかったようで何よりだ。われらを無視して逃げられてもつまらぬからな」
おれたちの行動はお見通しだったようで、奴が目の前に現れた。
「お前……!」
「われはウルティモ。もう忘れたとすれば、われの技も錆びついてはいないようだ」
「一人で出迎えか。ここで戦いでも始めるつもりで現れたか?」
油断でも何でも無かったが、奴には全てお見通しだった。
「さて、アック・イスティ。われらが待つのはグライスエンドの中心。末裔の強者はそこに集っている。その前に、喚《よ》ぶ者らを懐柔してみせるがいい」
「――何?」
「赤毛のドワーフと虎人、神剣……われらはアック・イスティとだけを望む」
派手な男の妙な気配にまたしても不意打ちを喰らう。
しかし、末裔グライスエンドの真意を知る戦いがようやく始まりそうだ。