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「はっ…!まさか……!」堀川がその事に気づいたときにはもう部室に日高の姿はなかった。
私は昼休みを終え教室へと戻った。騒々しい校舎内は慣れているがやはり嫌だった。
キーンコーンカーンコーン
校舎内にそうチャイムが響き渡った。その瞬間教室の前のドアから先生が現れた。その後私達は授業を受けた。いつもと変わらず。
キーンコーンカーンコーン
下校の時間になった。私はすぐに校舎を出た。彼に呼ばれているから。私は駆け足で自宅へ向かった。だんだん暗くなる空を見ながら。家についたのは4:57だった。近所にある星空公園は3分もあれば着く。私はスクールバックを置いたら着替えずに制服のまま家を出た。あととある物をポケットに忍ばせて。
「はあはあはあ」
公園へついた頃には息が荒かった。五時に間に合うように走ったからだ。
「歌蓮……」
公園の左側にあるベンチ付近にはあの男子高校生がいた。今日は制服姿ではなく、普段着なのか半袖の青いパーカーにカーキ色の半ズボンを履いていた。制服ではないのは当然だろう。私が制服姿なのに驚いてなのか鳥島は目を見開いて眉が上がっていた。
「なに?用があるんでしょ?こっちだって予定削って来てるんだから」
さっき走ったからであろう。息が途中で切れながら話した。
「あ…ああ…いや〜まさかくるなんて思ってなかったから」
予想外のことをしたのかと私は少し驚く。そのまま鳥島は話を続けた。
「歌蓮って兄ちゃんと小学校同じだったそうですね。それ以降とかはなにか兄ちゃんの話聞きました?」
彼の兄…私は心当たりはなかった。
「まずあなたのお兄さんって?」
「ああ…鳥島司(とりしまつかさ)です」
渡海司…私は聞き覚えがあった。小学校の頃よく彼と遊んでいた。そう右目の下の方にほくろのある男の子。
「彼があなたの弟…?」
「はい。俺、双子なんです。顔とか体格とか全部が似てて親でも間違えるほどの。だってこのほくろの位置だって兄ちゃんと一緒ですから」
そういいながら鳥島は自分の右目の下の方にあるほくろを指さした。
「唯一の見分けは口調。俺はこうやってぺらぺら喋りますけど兄ちゃんはあんま喋らなかったんです。無口とまではいきませんけど」
確かにあまり喋らなかった。彼と遊んでいるときも絶対と言っていいほど私から話しかけていたと思い出す。
「あと兄ちゃんは体が弱かったんです。生まれつき肺が弱くて思うように遊べなかったんです。ちょっと走っただけで息は切れるし、長時間走ったら倒れる。でも兄ちゃんはそれだけじゃなかった」
そういった途端、彼の声色が変わった。
「俺達家族は小学5年頃に東京へ引っ越しました。その理由は兄ちゃんです。突然兄ちゃんは病に襲われた。小児肺がんだった。血は吐くしいつも苦しそうにしてるし…本当に可哀想だった。俺、兄ちゃんのそんな姿見たくなかった。でも見なきゃいけなかった。それで…1年後死んだんだ」
私はその話にかける言葉を見つけられなかった。思い出したくもないはずの事を私に…なんか申し訳ない気持ちになった。
「なぜか俺の家庭って不運なんだよ…母さんは逃げるし…」
泣きそうな目でそう鳥島は嘆く。空からはポツンポツンと雨粒が降ってきた。二人はそんなこと気にしなかった。
「お母さん?」
「角尾一子。知ってるだろ?今や有名人だよ。同期の奴をボコボコにするしそいつと昔付き合ってた〜とか意味わかんねぇ。得すんのはおめえだけなんだよ!!!」
段々と雨脚が強くなる。ゴロゴロと雷鳴が鳴り響く。鳥島は母への怒りをぶつけた。雨により二人はびしょびしょになっていた。
「父さんは優しかったな〜いつも美味しい晩御飯作ってくれてなにも文句は言わなくていつも俺達に肯定してた。母さんと別れたときもあんな悪者なのにちょびっと泣いてたし」
雨のせいで泣いているのかいないのかわからなかった。でも声が少し震えていた。涙声のようになっていた。彼の濡れた前髪が額に張り付いていた。
「ごめん。こんな話してしまって。帰っていいですよ」
「なんで私にそんな話ししたの?だって言っちゃえば私って赤の他人だよ?」
ただ疑問に思ったことを私は鳥島に投げかけた。
「…兄ちゃんの遊び相手だったから。言ったほうがいいかなって」
それ以外にもきっと理由はある。私はそのもう一つの理由もわかってた。
「そっか…伊織。これあげる」
私はポケットに忍ばせておいた一つのアルミ缶を鳥島に手渡した。
「コーヒー…?」
そう。それは鳥島が私にくれたのと同じコーヒーだった。
「昼休み買ったの。ちなみに私のもあるから。あとお礼とかいらなかいからね!?じゃあ帰るから」
「ええ」
少し見えた。コーヒーをもらったとき彼は少し微笑んでいた。