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びしょ濡れ姿で帰ってきた娘の姿を見て私の母は驚いた様子だった。まあ当然だろう。
「まったく世話の焼ける娘だこと」
そういって母は私の濡れた体をふかふかのタオルで拭いた。
「お母さん…」
そうだ母は優しかったんだ…。私はその事をなぜか忘れていた。
「さっさと風呂入って。風ひくから」
それだけだった。でもなんだか心が暖かくなった。私はその後風呂へ入り夕食をとり自室へと向かった。自室へ入ると私は一直線にベットへ向かい寝っ転がった。これまで何度もしているがやはり気持ちい。ふかふかのベットの上で寝転がるのは最高だ。
あっ!私はあることを思い出した。コーヒー。私はリビングに乾かしているびしょ濡れの制服のスカートのポケットを漁る。しかし、それらしきものは出てこない。私は母に聞いた。すると母は「冷蔵庫にあるわよ。めずらしいわねあなたがコーヒーなんて」そう言った。コーヒーなんて母の前で飲んだことないからきっと驚いたのだろう。母はそのコーヒーを私に手渡した。そして自室へと戻ったのだ。そして「プシュッ」私は缶コーヒーの蓋を開けた。そして一口コーヒーを飲んだ。ゴクリ。
「うまっ!」
思わず声を出してしまった。なぜかそれほど美味しかった。これが飲めるようになったら格好いいなあなんて思ったのはつい最近。もう夢を叶えてしまった。ゴクゴク。何口でも飲める。だが嬉しかった。一歩大人への階段を登れたのかと思うと。そのいい気持のまま私はベットの上で眠った。
ブーブーブーブー
スマホのアラームで目を覚ました私はまずカーテンを開け、陽の光を取り入れる。といってもこの時間ではあまり陽の光は入ってこない。そのまま、リビングへと行き用意されている朝食を口にした。
「ごちそうさまでした」
朝食を食べ終えると洗面所へと行き顔を洗う。そして自室へと行き制服に着替える。このとき、替えの制服があってよかったと初めて思った。そうして私は玄関へと行き、黒い靴を履き、ドアを開け外へ出た。
コツコツという靴音が響く。
数分が経ち、学校に着く。校舎一階の昇降口で靴をロッカーに入れ、上履きに履き替える。そうしたら、部室へと向かう。
ガチャ
部室のドアを開ける。そこには当たり前のように堀川さんがいた。
「おはようございます。堀川さん」
私はそう挨拶をする。
「日高さん!日高さん!」
私の姿を目に捉えると、堀川さんは朝と思わぬ雰囲気で私にノートパソコンの液晶画面を見せた。
「鳥島伊織のお兄さんはあなたの同級生ですよ!やっと見つけた〜そうそう名前は…」
「鳥島司」
私はその情報を知っていた。昨日本人の口から聞いたのだ。
「あっ…そうです…よくご存知でしたね。調べたんですか?」
「ううん。彼から聞いた」
「あっそうだったんですね〜いや〜力になれず申し訳ない」
苦笑いをしながら堀川さんはそう言う。
「今日はそれを言いに来たんです。もう真相を知ったから調べなくて結構ですって」
「そうでしたか…まあともあれ真相をしれて良かったです」
「はい」
私はその後、何も言わず部室を出た。その後は校舎へと入り昨日とはうってかわった廊下を歩く。ひっそりしていて逆に怖いくらいだった。
1年C組と書かれた教室のドアを開けた。
「はっ……」
私はその光景に驚いた。私のように先に教室にいる人がいることを。その人が鳥島伊織だということがさらに驚いた。彼は私に気づいていない様子だった。私はその様子につられるように静かに一言も話さず、自分の席に向かった。彼は左にある外の風景が見える窓を見つめていた。
「歌蓮。俺、ずーっと考えてた。兄ちゃんがなんでそんなに気に入ってたんだろうって。でも分かった気がする。きっと兄ちゃんは歌蓮の人柄が好きだったんだと思う。気さくで話しかけやすい。俺もそれは思う。歌蓮のことそうなんじゃなかってだから……」
鳥島はそう言い自分の机の右で立ち上がり、一歩進む。そして、深く頭を下げるとこういった。
とても大きな声だった。人はいなくても誰かいるかもそう思ってなんだか恥ずかしくなった。鳥島の深く下がった頭は私が返事をしないと上がらない雰囲気がした。いや雰囲気じゃない。絶対上がらない。私は少し考えた。彼と付き合う。別に悪くはなさそうだった。双子でなにもかも似ていて…司くんと瓜二つ。絶対楽しいに違いない。私は決心した。自分の机の隣に立ち、ゆっくり息を吸って吐いた。そして言った。
「いいよ」
上がった顔はとても赤かった。驚いた様子だった。きっとまさかだったんだろう。
「えっ…えええええ!?マジですか?冗談じゃないですよね?ね?」
「うん」
「やったーーーー!!」
私がそういった瞬間鳥島の歓喜の声が聞こえた。
私は思った。こんな奇跡あるのだろうかと。最初は知らない人同士だった。まあ彼は知っていたかも知れないが。そんな二人が今はこうなっている。正直私も驚いている。こんなことになるとは思わなかったから。
窓から入る朝日は二人を照らして朱鷺色(ときいろ)に輝いていた。
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