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ナステナ「それで…童達は命からがら逃げてきたと。」
アリィ「…それより彼は?」
ナステナ「我らは初対面だ。経緯や馴れ初めを聞いてもバチは当たらないだろう?」
ナステナはアリィの切羽詰まった表情を見て、まず先に容態を伝えようと考えを改める。
ナステナ「まず結論として…無事ではある。 」
アリィ「あぁ良かった…。」
ナステナ「だが衰弱死1歩手前だった。目覚めるのはいつになるか分からない。」
アリィ「…意識のない衰弱状態のヒトをどうやって助けたんですか?助けて貰ってこんなこと聞くの…失礼かもしれないけれど…」
ナステナ「頭の回転が早いな。かつての旧友に似ていて我好みだ。まぁまずはお茶でも飲むと良い。」
ナステナはそう言い、私にカップを差し出す。
アリィ「…お気持ちだけ受け取ります。私…触れたら壊してしまいそうなので…」
ナステナ「我の食器はそこまでヤワでない。良いから飲め。」
アリィ(押しが強いなこの人…。)
「は、はぁ…。」
私は恐る恐るカップに触れる。
アリィ(壊れない…。)
そうして持ち上げ口を付け出されたお茶を飲む。
ナステナ「……。」
ナステナはじっと私の顔を見つめる。
アリィ「…あの…何か良くないことでも…」
ナステナ「いや何我好みの顔だと思ってな。…悪魔として追われている、か。一先ずは安心すると良い。この場所に殆どの者は立ち入ることが出来ぬ。」
アリィ「あの説明を…」
ナステナ「そうだな、童も落ち着いたようだししっかり説明しよう。…我は童と同じように魔法なんてものが使えるとしたらどうする? 」
アリィ「…貴女が私を食べないのは同族だから? 」
ナステナはきょとんとした顔をする。
ナステナ「言っただろう。我好みの顔だと。食べてしまうなぞ勿体ない。…しかし、安心はした。魔法を使えるのを開示したあたり恐怖心がないのかと思ったが、あったようで何よりだ。恐怖というのはヒトを守る盾になる。」
アリィ「…誠意には答えるべきだから。」
ナステナ「そのような事考えなくて良い。隠したいなら隠せばいい。それで…我の魔法は少し複雑ではあるのだが、時を巻き戻すことが出来る。」
アリィ「時って…」
ナステナ「言っておくが世界そのものの時を戻すことは不可能だ。我が今回行ったのは、銀の童の肉体のみを対象にしたものだ。1年前の健康な状態であった肉体に巻き戻した。だがあくまで戻しただけだ。この先同じ生活が続くのではあれば今度こそ衰弱死をするだろう。これは時間稼ぎに過ぎん。そこで提案なのだが…ここで1年暮らさないか。」
アリィ「…えっ?」
ナステナ「丁度家が寂しくてな。永遠にここに居ろとは言わん。…それと再び同じような状況になった際にはもう我は助けてやれん。…我の魔法は人体に悪影響を与える。今回は運が良かっただけだ。この奇跡を逃すか?」
アリィ「…貴女は…何者なんですか?魔法なんてものに詳しくて、悪魔なのに話せて私達の味方をして…」
ナステナ「我も童も悪魔では無い。我が何者、か。そうだな…我はかつて災厄をもたらすものとして打ち捨てられた存在。そして今や、アビスの番人であるナステナだ。」
アリィ「ナステナ…さん。」
ナステナ「ナステナでいい。おばさんでも良いぞ。」
アリィ「いやそれはちょっと…。アビスの番人って、危険な所だからうっかり誰かが入ってしまわないように見張ってるんですか?それならここに貴女は居ては…」
ナステナ「そうだな。ここに本来居てはいけない存在。それは間違っていない。だが、我はアビスの外に居る者を守っている訳では無い。アビスの中に居る者を守っているのだ。童はアビスという大陸をどう捉えている?」
アリィ「どうって…立ち入っては行けない場所、としか…。」
ナステナ「他には? 」
アリィ「ええと…生きては帰れないほど危険な大陸で…大陸そのものが生物じゃないかって説があって…後は… 」
ナステナ「少し意地悪をしたな。無理に考えなくて良い。答えなぞ全て己で考え見たものが全てだ。あそこの連中はそうヤワではない。童2人の面倒くらいなら見ることは出来るぞ。」
アリィ「…対価は?この家で1年過ごすのが対価だなんて、そんな甘い話はないんでしょう?」
私はまっすぐナステナの目を見る。
ナステナ「…賢い子だ。対価の前にまず1つ我から頼みがある。良いか、対価とは別だぞ。」
アリィ「それは分かりましたが…頼みって…」
ナステナ「…先程肉体を1年前に戻したと言っただろう?いやはや人間の童というのは1年でかなり背丈が伸びるものなのだな…。結論を言うとだな。銀の童の背丈が縮んでお前と全く同じ背丈になった。誤魔化してくれ。」
アリィ「む、無茶ですよぉ!全く同じ背丈って…何かしてなくても目が合うじゃないですか。絶対バレますよ!」
ナステナ「よしお前が大きくなった体で行くか。」
アリィ「む、無茶苦茶だぁ!」
ナステナ「あの年頃だと背丈を気にするからな…。頑張ってくれ。…それで今の話にも繋がるのだが対価の方を言おう。」
アリィ「……。」
私は唾を呑む。
ナステナ「1つは我が魔法を使えること。1つは1年が経過しこの家を出たあと、我の存在を銀の童の記憶から消すこと。」
アリィ「…魔法が使えるのを隠すことは出来ます。ですが…記憶を消すなんてこと、どうやったら…」
ナステナ「そうだな。今の言い方には語弊があったな。記憶上の共に過した者が我、ナステナで無ければいいのだ。ヒトの記憶というものは曖昧だ。衝撃的なことが無ければやがてそれは自身にとって都合の良い記憶となる。だが、同じ記憶を2人以上が抱えていたとすると、それは起こりにくい。何故ならばお互いの認識に違いが出るからだ。認識が合わないうちにやがて自身の記憶が間違っているのではと不信感を抱き、相手の記憶を信じることも少なくない。それは自身にとっての都合の良い記憶ではなくなる。簡単に説明すると、お前にやってもらうことはだな。間違った記憶を埋め込むこと。」
アリィ「間違った記憶…。」
ナステナ「我が求める対価はその2つだ。支払えるか?できないのであれば…」
アリィ「できます。」
私は即答する。
アリィ「物心ついた頃から嘘をつき続けていました。私とういう存在自体に。嘘は得意な方なんです。騙せない、なんてことは絶対に無いので安心してください。」
ナステナ「…それが己の命より大切なモノだとしても?」
アリィ「大切だから、騙し続けるんです。必ずこの命が消える時まで隠し通しましょう。…対価はそれだけですか?」
ナステナ「ああそれだけだ。…気に入った。どうせ銀の童が目覚めるまで時間がかかるだろう。特別に授業を開いてやろう。」
アリィ「私、文字の読み書きはできませんが…」
ナステナ「文字は使わん。それと、敬語なぞなくてよい。我が教えてやるのは魔法について、だ。」
アリィ「魔法について…。」
ナステナ「別に聞きたくないのであれば聞かなくて良い。だが2度説明する気はない。」
アリィ「聞きま…あ、ええと…聞きたい。」
ナステナ「分かった。まず童にとっての魔法とはなんだ?」
アリィ「…悪魔がヒトを食べるために持っている武器。」
ナステナ「間違っては無いな。」
アリィ「…と思ってまし…思ってた。少し前までは。」
ナステナ「…今は?」
アリィ「兵器、と。 」
私は持っているカップのお茶を通し自分を見る。
ナステナ「…兵器か。童の認識は何も間違ってない。童よ、戦争に火を使われることがあるのを知っているか? 」
アリィ「うん。…そもそも私も焼かれかけたし。」
ナステナ「ソレと同じだ。火は人間らの文明を大きく飛躍させ、恐怖を感じるものではなくなった。…だがかつて火はとても恐ろしいものとされていた。童は身をもって体感しただろう。 魔法というものも同じ。やり方次第で我らを助けるものとなる。…ある種類を除いて。」
アリィ「魔法に種類があるなんて…それが分かるってことは、私と同じようなヒトがこの世界に居るんだね。」
ナステナ「…本当に賢い子だ。魔法の種類というのは覚え方だ。1つは、その専門分野を研究し尽くしなるべくして発現させた魔法。そうだな…この国では毒が有名だ。故に毒に例えよう。毒を研究し尽くした者は、毒の魔法の発現をする。必ずではなく、あくまで発現がしやすいというだけだがな。それは何故か。魔法というのはイメージの世界だ。原理を理解していればよりイメージを強くできるわけだ。この手の魔法の使い手は手練かつ、頭も良い。そして最も制御がしやすい。」
アリィ「ナステナは?」
ナステナ「我はこの1つ目では無いな。そしてお前も違う。我は今から教える2つ目だ。2つ目は突発的なものだ。特にその分野を研究しているわけでも無いが、気づいたら使えている。このタイプは発見時使おうと思って使ってないからな。事故が起きることもある。 」
アリィ「私は2つ目っぽいけど…」
ナステナ「3つめを聞けば分かる。2つ目の続きに戻るが、第三者に気づいてもらったりとまぁ分かりにくい。それと、どのようにイメージしたらどのような魔法が出るのか、組み合わせを模索していくしかない。つまるところ理解する原理は世の常識ではなく己の原理なのだ。理解するまで制御に苦しむが、理解さえ出来れば次に制御がしやすい。因みに我は落とした本が、本棚に戻ったことで気付いた。」
アリィ「知識と自分の原理の理解がそれぞれ要るってこと?」
ナステナ「あぁそうだ。」
アリィ「じゃあ3つ目は…」
ナステナ「答えはなしだ。」
アリィ「なしって…」
ナステナ「知識も自身の原理への理解も不要だ。そんなものがなくても感覚だけで魔法を生み出せてしまう。それが3つ目だ。天才だのと持て囃す者や羨む者もかつて見てきたが、我は全くそうは思わない。これはな、最も制御が難しいのだ。知識、理解、その2つが不要な代わりに、制御には感情統制を要する。絶対に制御が不可能な訳では無い。ただ相当な努力が必要だ。…童よ。心当たりがあるだろう? 」
アリィ「…私は確かに苛立ちを、酷いことをしてしまったヒト達に覚えてた。」
ナステナ「その苛立ちは?怒りは?静まったのか? 」
アリィ「…私は…」
ナステナ「…授業はこれで終わりだ。一つだけアドバイスをしよう。時には息抜きのために大事なことなんか考えずに遊ぶことも大切だ。気も逸れるかもしれないしな。童よ、菓子は好きか? 」
アリィ「え?」
ナステナ「我はおやつを欠かさないのだ。おやつ時間にしよう。」
アリィ「…なんか、意外かも。」
ナステナ「何がだ?」
アリィ「な、なんだか貴女がそんなこと言うの想像できなかったから。おやつって言葉が似合わない。」
ナステナ「なんだそれは…あぁそうだ。食事後は我と家の中と周辺を回るぞ。広くは無いが知っておいて損は無いだろう。後、銀の童が目覚めた時に我がもう一度説明するのも手間だ。橙の童がしっかり覚えるように。」
アリィ「色で分けられてるんだ…。…ありがとう。」
ナステナ「泣いている者を助けるのは当然だろう。」
ジーク「……。」
アリィ「ジーク、起きた?」
ジーク「ああ。悪い、どれくらい寝てた?」
アリィ「2日。」
ジーク「2日も…?本当に悪い。俺が寝てた間に何かあったか?」
アリィ「謝らないでってば。この家で1年暮らすことになりました。」
ジーク「…は?」
ナステナ「ほれ。」
ナステナは唖然としている口にクッキーを突っ込み塞いだ。