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ゴールデンウィーク明けのそうりょう高校は、どこか緩んだ空気が漂っていた。
放課後、風間陽はいつものように図書室に向かう途中、校舎裏の中庭で見慣れない女の子に声をかけられた。
「すみません! 職員室ってどこかわかりますか?」
元気で明るい声。くるくると動く表情が印象的な、まだ制服が新しそうな1年生だった。
「あ……うん、こっち。案内するよ」
「あ、助かります! 私、**柚葉(ゆずは)**っていいます。バドミントン部に入ったばかりで、今日先生に書類出すの忘れてて……!」
早口で話しながら後をついてくる彼女に、陽は苦笑しつつ「先輩」らしく対応する。
「じゃあ、ちゃんと出しといたほうがいいね。先生、けっこう厳しいし」
「はいっ、気をつけます……! あの、先輩の名前は?」
「風間。風間 陽(かざま はる)」
「ふふ、優しそうな名前ですね」
「……え、あ、そ、そう?」
妙に元気な子だな、と陽は思いつつも、悪い気はしなかった。
その頃、佐伯澪は吹奏楽部のホールで、後輩の指導をしていた。
そこへふらりと神谷迅が現れる。
「おーい、佐伯。今日も熱心だね」
「迅くん? また図書室の陽くんの様子、見に来たの?」
「バレてるー!? まあまぁまぁ、気になるじゃん、あの二人。で、どうなん?」
「……ちょっとだけ、気になるかも」
小さく呟いた澪の横顔を見て、迅は何かを感じ取る。
一方、柚葉は部活が終わったあと、友達にこう言っていた。
「風間先輩って、ちょっと不器用だけど、優しい人だったなぁ」
彼女の中に、ほのかな芽が生まれていた――その気持ちはまだ、自分でも気づかないほど小さなものだけれど。