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『……暇』
息が多めに含まれた声で独り言を呟く。
イケメンの寝顔を眺めるのも飽きてきた。私も寝ようかな、と思い冷たい床に寝転ぶ。
真っ暗な天井、真っ暗な壁。もう目は慣れてきた。
…この家、少し探検してみようかな。
深夜特有のテンションの脳内にいきなりそんな考えが浮かび上がってくる。好奇心がもぞりと動きだす。まぁ今が深夜なのかも分からないが。
人間、一度好奇心が芽生えてしまうとどうやってもその気持ちは振り切れないらしい。
扉のドアノブをジーっと穴が開くほど見つめる。体中から汗が噴き出して止まらない。
『少し…少しだけ。』
そう声に出して繰り返し呟くと謎に納得してしまうものがある。
そうだほんの少しだけ。ほんの少しだけ部屋を探索して終わる。ただそれだけの話だ。
そう考えがまとまると思いのままドアノブに手を伸ばす。
ほんの好奇心だった。何故だが人間、こういう時に限って絶対にバレない、見つからないと 思ってしまう。
『…ふぅ』
深呼吸一つ零し、鉄の横長のハンドルを慎重に回し木製の扉を開く。ギシリと抑えきれなかった小さな音が漏れ、案外あっさりと扉は開いた。
『…開いちゃった』
控えめに頭だけを扉の内側から出し、恐る恐る周りを見わたす。
廊下であろう見覚えのある道が視界に映った。ここの道は知っている。お風呂に行く時に通った場所だ。
─そして
『……ここが、玄関』
なるべく足音が鳴らないよう慎重に歩みを進め、少し大きめの扉の前で止まる。
なんの変哲の無い普通の玄関。それをしばらく見つめ「逃げようかな」なんて考えはその後のこととイザナさんとの日々を思い出すと潮が引くように消えていく。本当随分おかしくなってしまったなと複雑な感情を抱く。
何となく居たたまれなくなって玄関に背を向け、違う場所に足を進める,
『…見た感じ、何もないなぁ』
しばらく歩き回った後、そうぽつりと呟く。
本当に普通の家過ぎて逆に怖い。何なんだここは。
見るものも無くなり再び暇になってきた。もうそろそろ帰ろうかな、ともと居た場所に方向を定めた瞬間
「○○!!!!」
焦っているような、怒っているようなイザナさんの大声が体全体に痺れるように木霊した。
驚きで叫びそうになるのを必死に抑え、空気が喉を掠る音さえも出さないように口に力を込める。
バレた、バレた。殺される。
咄嗟にその場にあった棚の横に身を隠す。ほんの少しの時間稼ぎにしかならないだろう。見つかるのも時間の問題だ。
「○○…なぁ…!」
何かが割れる音
倒れる音
殴る音
歩く音
様々な音が一つになって恐ろしいほどの騒音になる。
どうしよう、どうしよう。バレた、バレた。同じ単語が何度も脳内を掠め、息が荒くなる。
「…どこ、どこ…」
ドクン
多分人生で一番心臓が大きく跳ねた。
居る。すぐそこに。
「…○○?」
あ、と気づいた時にはもう遅かった。
目の前には汗だくのイザナさん。その目に映るのは自分が知る以上で一番恐怖に染まった表情をする私だった。