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『…重い』
イザナさんを撫で始めてはや数十分。そろそろ手が痺れてきた。腕も体も重みに耐えきれなくなってきてプルプルと小刻みに震え始める。
『イ、イザナさん… ?あのそろそろ……』
そう声をかけても、私と彼の吐く息の音と私の声が真っ暗な空間に響くだけで肝心の返事は返ってこない。
嘘でしょまさか「ずっとしてろ」って冗談じゃないの?と青ざめてきたその瞬間、規則正しい健康的な寝息が聞こえてきた…………気がする。
『…イザナさん?おーい』
一度彼の名を呼び、全神経を鼓膜に注ぎ、注意深く耳を澄ます。
「スー…スー…」
『寝てる?』
気のせいかと思った寝息はどうやら気のせいでは無い様で、何度聞いたって彼からは夢のなかに居る人の息遣いが一定のテンポで規則正しく流れてくる。
『うっそぉ………起きてくださいイザナさん』
そろそろ腕が限界を迎えてきた。このままだと重力に耐え切れずソファから落ちてしまう。
『イザナ…さん、腕、腕が死にます…』
何度彼に声をかけても、体を揺らしても小さな寝息が返ってくるだけで全く起きる気配がない。それほどお疲れだったのだろうか。
仕方ない。ふぅっと一つ深い息を零し今度は腕に全神経を注ぎ込む。
『……重ッ』
ゆっくり、ゆっくりイザナさんをソファの上で戻す。たったそれだけの事なのに面積の少ないソファの上だといつ落ちてしまうかと考えてしまいダラダラと冷や汗が流れる。それにこの人、眠っているというのに全然力が抜けていない。
『ふぅー、ふぅー…』
数分後、やっとイザナさんをソファに移すことに成功した。謎の達成感がすごい。
額に流れる汗を腕で拭い、することの無くなった私は彼の寝顔を何となく見つめる。
改めてみると本当に整った顔立ちをしている。“綺麗”、その一言に尽きる。
年頃の女子が羨ましがりそうなほど長く量の多い睫毛、高くシュッとしている鼻筋。
─そして懐かしさを含んだ、大好きな顔。
眠っているだけなのに絵になるなぁ…なんて考えながらつい眼を細めて恍惚と目の前で眠る彼に見惚れてしまっていた。
静かな空間に彼の寝息と私の吐息が混じり合う。
『…なんで私なんかを誘拐したんですか、イザナさん。』
ずっと気になっている質問
もちろん返事は返ってこない。そんなことは分かり切っている。だけどそうでもしないとこの静寂さに押しつぶされそうだったんだ。