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海の紅月くらげさん
「——……まぁ、こんな感じだ」
和葉の過去を一通り聞いて、思うのは九條の家の異質さ。
問題を抱えているのは、実里くんの過去のことだけじゃなかった。
九條の家というのはやっぱり変で、和葉もみちよちゃんも普段はおちゃらけている武蔵先輩でさえも葛藤しているんだ。
そして、和葉は普段は口に出さないけれど武蔵先輩に凄く感謝しているんだ。きっかけをくれたみちよちゃんにも。
「ねぇ……和葉の叶えたいことって」
「言ったろ。俺は正直他のやつよりも必死じゃねぇ。家だって王子役になったところで修復できるわけじゃねぇだろ」
そっか……だから体育館裏で会ったあの時
〝俺が勝ち取っても壊れたものが戻るわけでもない〟
あれは家のことだったんだ。
「お前のことだって最初馬鹿なやつだって思ってた」
「う」
和葉の言葉が容赦なくグサリと心に刺さる。
「泉にいいようにされて、まんまと女子に標的にされて馬鹿だなって」
確かにその通りなんだけど……あんまり突っ込まれたくない。
「でも、実里のことお前が救った。……俺らができなかったことだ」
「救った?」
「化学室での出来事以来、実里がお前に懐いてるのはその証拠だろ。アイツ最近楽しそうだし」
確かにあの後から懐いてくれるようになった。でも、それなら皆が駆けつけてくれたことの方が実里くんの救いになったと思うんだけどな。
「いじめにも逃げねぇで立ち向かって、すげぇなって思ったよ」
「そ、そうかな……でも、みんなが助けてくれたから」
なんだか照れくさくて顔を隠すように自分の前髪を撫でる。
立ち向かえたのはみんながいてくれたお陰なんだし、実際は守ってもらってばかり。私を救ってくれたのは五人だ。
「九條のことに巻き込んで悪かった」
「ううん」
「俺には泉が————」
和葉の口から出た言葉に耳を疑った。
「え……どういうこと?」
「ただの予想だけどな」
「待って、わけわからないよ!」
だって……泉くんは私のこと利用しているんでしょう?
「それとさっきの答えだけどな」
これ以上は聞くなというように和葉が視線を足元に移す。
そして、すぐにまた視線を私に戻された。
「俺が叶えたいこと、今決めた」
「え……」
「お前を九條泉から守ること」
和葉の端正な顔が緩む。たれ目が僅かに細められ、その瞳の奥には私が映っている。
「き、急に何言ってるの……別に泉くんは私に何かしようとしてるわけじゃないのに」
金色の髪が夕焼け色に染まっていく。耳元で緑色のピアスがキラキラと輝いていて、すごく綺麗だ。
「願いがないよりいいだろ」
珍しく柔らかく微笑む和葉に困惑しながらも、目がそらせない。
意地悪なことばっかり言うくせに。いつもは無愛想なくせに。なんで、そんな目で見るの?なんで、そんなこと言うの?
その言葉の真意をなんとなくわかっている。でも、今の私に返す言葉が浮かばない。
まだ決めることができない。曖昧な自分の気持ち。
「王子じゃなくたって、お前が俺を選んでくれればいいけど?」
「な、に……言ってっ」
「なんてな」
「なっ」
「本気なわけねぇだろ。お前ってすぐ顔赤くなるのな」
和葉のからかうように口角を上げた。
いつもは冷たかったり無愛想なのに、時々子どもみたいなところがある。
「暗くなってきたな。そろそろ帰るか」
頷いて、立ち上がった和葉の背中を追う。
『俺には泉が、お前にこだわっているように見える』
和葉の言葉が頭から離れなかった。
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