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夏目萌*優しい彼~コミカライズ
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西原衣都
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猫塚ルイ

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「……失礼」
短く断りを入れると、昴はその場で通話ボタンを押した。
「はい」
落ち着いた声で応じながら、ごく自然なやり取りを相手と交わす。
この着信は昴が事前に打ち合わせていたものなので、盗聴されていたとしても問題無い他愛のない内容だ。
隠しカメラについては目視でも確認が出来る昴だが、盗聴器に関しては目視だけでは分からないので通話をしながら確認をしていた。
(……やはり、違和感がある……)
表情を変えずに会話を続けながらも昴は、耳に届く相手の声がほんの僅かに遅れて重なるような響きや、自分の声も含めてどこか別の場所で拾われているような違和感を感じ、確信する。
「……ええ、それで構いません。そこは予定通りで。それでは、また」
あくまでも自然に会話を締めくくり昴は通話を終えた。
そして、静かにスマートフォンを下ろすと一度だけ息を整えた後、羽衣子の方へと向き直る。
「吾妻先生」
呼びかけられた羽衣子は少し不思議そうに顔を上げた。
「はい?」
一旦言葉を区切ると、スマートフォンで何やら文字を打ち込んでいき、
「こちらを見ていただけますか?」
そう言いながらスマートフォンの画面を羽衣子に見えるようにテーブルに置いた昴。
羽衣子が画面を覗き込むと、《確実に断言出来る訳ではありませんが……もしかするとこの部屋、盗聴器が仕掛けられているかもしれません》という文面が打ち込まれていて、
「――え……?」
思いもしなかった言葉に羽衣子は息を呑むと、そのまま絶句した。
「驚きますよね。ですが、恐らく……」
穏やかな声で言った昴に、羽衣子は息を呑んだまま視線を向ける。
どうしてそんなことが分かるのか――その疑問が胸の中で膨らんでいく。
「その、盗――」
思わず口にしかけた瞬間、昴はすっと人差し指を自身の口元に当てた。
“静かに”とでも言うような仕草に羽衣子ははっとして言葉を飲み込み、慌てて口を噤む。
その様子を確認すると昴は静かに頷き、再びスマートフォンを手に取った。
指先が画面をなぞり、文字が打ち込まれていく。
テーブルに置かれた画面には、こう表示されていた。
《何故分かるのか、それについては知り合いにそういう物を探る仕事をしている者がおりまして、以前聞いたことがあったんです》
羽衣子はそれを読み僅かに目を見開くが、納得しかけたものの不安は消えない。
すぐに自分もスマートフォンを手に取り震える指で文字を打ち込んだ。
《どこにあるかも分かったりするんですか?》
昴はその画面に目を落とすと少しだけ考えるように視線を伏せ、それから再び入力を始める。
《そうですね、一番は探知する機械があればいいのですが……流石にそれは持ち合わせていないので……。最近何か人から物を貰ったり、あるいは他人が部屋に入ったりしていませんか?》
その一文を読んだ瞬間、羽衣子の思考が止まった。
(人から……物……?)
その言葉で胸の奥に引っかかるものが生まれ、次の瞬間――脳裏に浮かんだのは、兄の顔。
(……お兄ちゃん)
記憶が鮮明に蘇る。
優しげな笑顔とともに差し出された雑貨屋の袋。
「これ、お前が好きそうだと思ってさ」
そう言って渡されたのはウサギのぬいぐるみ。
羽衣子はゆっくりと顔を上げると、テレビの横にある棚の上に置かれたそれに視線が吸い寄せられるように向いた。
そんな羽衣子の視線の先を追った昴は、部屋の隅に置かれたウサギのぬいぐるみに目を留めると一瞬の沈黙の後、すっと立ち上がる。
そしてぬいぐるみを手に取ると、振り返って静かに問いかけた。
「……これですね?」
羽衣子は言葉を発さないまま、ただ小さくコクリと頷いた。
昴はぬいぐるみを軽く持ち上げ、感触を確かめるように指先でなぞっていく。
すると、お腹の辺りでその手がぴたりと止まった。
柔らかな綿の感触の中に、明らかに異質な“芯”のようなものがあるのを確認したからだ。
それから注意深く観察するとぬいぐるみの背にある縫合の具合が僅かに違っているのを見つけた昴。
糸の張りも不自然で、誰かが後から弄った形跡がある。
昴は一度だけ羽衣子に視線を向ける。
「……中を確認してもいいですか?」
その問いに羽衣子は少し躊躇いながらも、ゆっくりと頷いた。
「……はい」
許可を得ると昴は近くにあったハサミを取り、縫合部分に刃を入れる。
そして慎重に開いていくと、中の綿の奥から黒い小型の機器が姿を現す。
それは紛れもなく盗聴器だった。
「……やっぱり」
低く呟く昴の声とは対照的に盗聴器を目にした羽衣子の呼吸は一瞬止まり、
「……っ」
次の瞬間、身体が小刻みに震え始める。
視線は盗聴器に釘付けのまま思考が追いつかない。
(どうして……ぬいぐるみに……? これって……まさか……お兄ちゃんが……?)
頭の中で疑問が渦巻き、まともに考えることすら出来ない状態だった。
コメント
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読了しました。今回のエピソード、緊迫感がすごかったです。 スマホの画面越しに会話するやり取り、それも盗聴器の存在を暗に示すために文字だけを使うという演出がとても自然で、読んでいて息を詰めました。そして「兄がくれたぬいぐるみ」に盗聴器……その事実にたどり着くまでの羽衣子さんの心情の描き方が丁寧で、静かな恐怖がじわじわと伝わってきました。伏線の回収が本当に気持ちいいですね。続きが気になります!