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「ねぇねぇ、尚さんめちゃくちゃ美人じゃない?」
萌那が尚の事を周りに話したらしく、私の親戚という話が仲のいい子たちの間で一気に広まった。
「あんなに美人なのに男言葉を使うってところが、何かいいよね」
「確かに! 何かカッコイイよね。女のあたしでも、惚れちゃいそう」
とまあこんな感じで私の周りでは尚の話題で持ち切りだった。
(……こんな調子で本当に大丈夫かな?)
今は私の周りだけだけど、この調子じゃ一気に広まりそうで怖い。
だって尚は歩いているだけでも目立っていて、大学に来るまで通りがかった人の殆どが振り返っていた程だ。
あれが芸能人のオーラというものなのだろうか。
(って、別に私が心配することじゃないよね)
あくまでも同居人だし、尚の事ばかり心配している程暇じゃない。
尚を心配しつつ、机にノートや教科書を置いて準備を整えていると、
「よっ! 夏子」
私の前の席に男が座り、馴れ馴れしく名前を呼んできた。
「……彬……」
彼は同じ学科を選択している私の元彼氏だ。
「つーか、さっきから何か盛り上がってねぇ? 何の話? 俺も混ぜてよ」
どうやら彬は萌那たちが尚の話題で盛り上がっているのが気になって近付いてきたらしい。
「あ、彬! あのね実はね――」
テンションの上がっている萌那たちは興味津々の彬に早速尚の事を話していく。
(あーあ、また一人尚の事を知ってしまった……)
私は溜め息を一つ吐き、萌那たちの様子を眺めていた。
ひと通り話を聞き終えた彬は興奮気味に私の方に向き直り、
「なぁなぁ夏子、俺にも紹介してよ、その尚さんって人!」
尚を紹介して欲しいと頼み込んでくると、萌那が横から、
「彬~いくら元とはいえ、彼女だった夏子にそういう事言うとかちょっと無神経よ」
半ば呆れ顔で彬に言い放った。
「何だよ、別にいいじゃねーか。俺と夏子は、今は友達なんだよ。な、夏子?」
萌那に反論した彬は私に同意を求めてくる。
彬とは大学に入ってから出逢い、数か月後には告白されて付き合った。
元から趣味も合うし一緒に居て楽しかったんだけど、なんて言うか、恋愛の価値観が違ったのだ。
互いを嫌いで別れた訳じゃない私たちは、別れてからも良い友人関係を築いていた。
別に未練もないし、こうして女の子の事を聞かれるのも今に始まった事ではないのだけど、今回ばかりはちょっと可笑しくて笑いそうになってしまう。
だって、他でもない尚を紹介して欲しいと言うのだから。
まぁ、尚が女だと思ってる訳だから仕方ないけども。
「なぁ夏子、聞いてる?」
「え、あ、うん。聞いてるよ。でも、尚はやめといた方がいいよ」
そもそも男だし、これ以上尚絡みで面倒事を増やしたくない私はそれとなく諦めるように言ったけれど、彬は食い下がってくる。
彬が必死になればなる程に私は笑いをこらえるのに苦労した。
「ちょっと、彬、いい加減にしなよね」
なかなか答えない私の代わりに萌那が言う。
多分萌那は私が彬に紹介してと言われて複雑な心境を抱いてるのではと心配して注意してくれているという事が分かるだけに、何だか申し訳ない。
(別に彬に誰を紹介するのも構わないんだけど、尚はなぁ……)
「なぁ、良いだろ、夏子」
「駄目。それに、尚にはもう相手がいるから無理よ」
これ以上頼まれるのも深くツッコまれるのも面倒なので、勝手に『相手がいる』という事にした。