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関係の無い罪、嘘の告発、罵倒や陰口、嘲笑う声。
そして、急かされる「真実」。
何が真実だ。
何が犯人だ。
「もうこんな所からは逃げましょう、無咎!」
そう言ったのは雨の降る日、南台橋の上だった。
「だが…役人共の追求する真実を突き止めないと…」
「あんな奴ら放っておけばいい!あの人達が求めているのは真実でもなんでもない、ただ私達のどちらかが死ぬ事です!」
そう、私は知っていた。役人の息子がどうして傷害罪を訴えたか。
私と無咎の仲を切り裂きたかったから。
そして、片方が死に至れば、もう片方も気が狂い自ら命を絶つだろうと、そんな安易な考えだ。
ただ、お互いを支える私達が憎かった。そんな事だった。
「…お前がそこまで言うなら、一緒に逃げよう。ここから…!」
いつもは着いてきてばかりの私が自らの意思を口に出したのが余程嬉しかったのか、本当は彼も逃げたかったのか。それは今でも分からない。
でも、あの時。賛成の意を示してくれたあの時の涙を零しながらも笑ったあの顔は、忘れるわけがなかった。
それから私達は、荷物に紛れて貿易船に乗り、フランスへ移住した。
船に乗っている時も、凄く楽しかった。
「船酔いか?」
「えぇ…多分…」
「なら、帰るか?」
「……ふふっ、そんなのごめんですよ。」
バレないようヒソヒソと話し、笑い合った。
フランスへ来てみれば、分からないことだらけで最初は戸惑うばかりだった。
それでも、心の優しい人達が家に泊めてくれたり、勉強出来る書物をくれたおかげで、フランス語も話せるようになっていった。
中国役人にバレないよう、髪を短くして、髪を染め、中華服を脱ぎ色違いのシャツとジャケットを羽織り。仕事をして家を建て。私達はここで生きて行くと決めた。
そしてそれから4.5年前経った時、私達に災難が降り掛かった。
疫病や感染症、黒死病。各地で広まる戦争。
人知れず身体が弱っていた無咎は疫病にかかった。
身体も動かせず、寝たきりで咳をしたり血反吐を吐いたりする彼に、私は四六時中傍に寄り添った。
「必安……お前に…まで……移ったら…どうする気…だ……?」
「いいんです。いいんですよ無咎。死後も貴方と共に居られるのなら、疫病なんて何のそのです。だからもう何も言わなくていいんです。」
そう言う私の頬に、無咎は力のない手を宛てて撫でた。
そして、死の間際彼はこう言った。
「愛してる……必安……」
彼の身体が冷たくなっていくのを感じた。
初めは恐ろしくて仕方がなかった死も、もう今は怖くなんてない。
きっと向こうで無咎が待っていてくれる。愛する無咎が。
「待っていてください…無咎…。」
そう言って私は無咎の亡骸を横に、手に持ったナイフを自らの胸に突き立てた。
これが私達。二人で一つのハンター。
オールバックの短い髪に、片目レンズの眼鏡。色違いのシャツとジャケットを着た中国人とは思えぬ見た目の私達。
死人を見送り、その鎮魂歌(レクイエム)を奏でる。
これこそが、私達「レクイエム」の生い立ちだ。