テラーノベル
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世界が滅びた朝、海はいつもと同じ色をしていた。
薄い水色の空。穏やかに寄せては返す波。港に浮かぶ何隻もの船。遠くで鳴くカモメ。
まるで、何も起きていない朝のようだった。
ただ一つ、町の中から聞こえてくる声を除けば。
それは人の声に似ていた。
けれど、人間が発する声ではない。
喉の奥で何かを潰すような、低く濁った唸り声。ひとつではない。通りの向こうから、建物の隙間から、波音に混じっていくつも響いている。
メバルは救急箱を胸に抱きしめ、倉庫の窓から外を覗いた。
通りには、かつて人だったものが立っていた。
肌は灰色に濁り、首は不自然な角度に折れ曲がっている。ゆっくりと歩いているのに、こちらの気配だけは正確に捉えていた。
「ねえ……本当に、ここから出て大丈夫かな?」
「大丈夫だって、メバルちゃん。たぶん」
オレンジ色のジャケットを着たカキが、斧を肩に担いで笑った。斧の刃まで鮮やかなオレンジ色に塗られている。
「“たぶん”を付けた時点で、安心できないんだけど」
紫色の服を着たマサカゲが、鉄パイプを握り直した。
「では、危険です」
緑色の服を着たミステーが、真顔で答える。
「そこは言い換えなくていいよ!」
カキの叫び声に反応して、通りの怪物たちが一斉に顔を上げた。
倉庫の扉が、大きく揺れる。
ドン。
全員の動きが止まった。
ドン、ドン、ドン。
扉の向こうで、何かが爪を立てている。
アオノは青い服の袖からナイフを抜き、窓の外を見た。
「正面には十体以上。裏口なら、まだ通れる」
「本当に?」
メバルの声が震えた。
「たぶん」
「アオノまで!」
次の瞬間、扉が内側へへこんだ。
蝶番が悲鳴を上げる。
赤い服の上に茶色いコートを着たK-Tが、裏口へ向かった。
「行くぞ」
短い声だった。
迷う時間は、もう残されていない。
「でも、まだ準備が……」
「ここにいる方が危険だ」
K-Tが裏口を開ける。
冷たい潮風が、倉庫の中へ吹き込んだ。
六人は、滅びた町へ走り出した。
その背後で、倉庫の扉が破られる。
穏やかな海だけが、何も知らないふりをしていた。
#人狼
#K-Takasaka
#タイムループ
コメント
1件
第1話からめっちゃ雰囲気あるね!「海はいつもと同じ色」っていう冒頭と、ラストでまた同じフレーズを回収するところ、ゾンビものの絶望感と日常の対比が効いててグッときた。キャラの軽口(「たぶん」連発とツッコミ)が緊張感を適度に緩めてて、仲間感が出てるし、K-T(作者さん自身?)の「行くぞ」が短くてカッコいい。色で個性を識別させるのも分かりやすくて好き。続き読みたい!