シュレインの効果はルティとシーニャで実証済みだ――とはいえ、手を伸ばして届く距離に現れてしまうのはさすがに戸惑う。ザームの魔導士も、まさかここまで接近することになるとは思わなかったはずだ。
「ザームのヘルフラム・エグリーだな……?」
「なっ、何故オレの名前を!? くそっ、離れろ!!」
「――おっと」
完全に不意を突かれたようで、すぐ目の前にいるおれを突き飛ばした。すぐに拳を突けば当たる近さだったがまずは話をしてみることに。
勢いよく両手で押されたことでお互いの姿をはっきり見られる位置になった。自分のことをオレと言っているが、声で判断すれば女の魔導士のように思える。
黒を基調としたローブを着ているのは魔導隊の高ランク魔導士だからだろうか。
ローブもさることながら透明感のある翡翠の長髪をポニーテールにしていて、髪と同じ色の瞳からは感情を悟らせないような冷たい印象がある。
「……貴様がイデアベルクの男なのか?」
「何だ、知ってて攻撃を仕掛けてきたんじゃないのか?」
「始末すれば見る必要は無い! だが――」
魔法で攻撃を仕掛けるのにはたとえ相手が見えなくても攻撃が可能だ。しかし正確に位置をつかめない状態となれば、サーチスキルを使うか気配を探るしかない。
女魔導士は引きずり魔法で引き寄せられたことに驚いていた――ということは、おれの正確な位置は分かっていなかったように思える。
「予想外だったわけだな? それはいいとして、とりあえず攻撃魔法を止めてくれないか? あんただろ? 彼女たちに攻撃を向けているのは」
「ふざけたことを抜かすな! 攻撃を止めれば獣どもが貴様を助けるだろうが!!」
「なるほど。集中攻撃されては厳しいってことだな」
攻撃型の魔導士とはいえ、直接攻撃をされることには脅威を覚えるか。
「貴様はどうしてオレの名前を……まさか、貴様も敵対心を探れるのか?」
何て答えるべきだろうか。今回に関してはサーチで名前が見えたに過ぎない。しかし相手の敵対心が分かるスキルとなれば、見えない所にいても使えるのは確かだ。
「……まぁな」
「そこまでの相手だとは聞いて無いぞ!! くそっ!」
「どうする? おれと魔法勝負でもするか?」
「…………ちっ」
ザームの魔導隊ということは、普段はソロで動いていないとみえる。予想外な出来事に戸惑ってはいるようだが、冷静な判断も出来るようだ。
この様子だと、恐らく自分の姿を見せることなく始末出来ると踏んだのだろう。しかし姿をさらけ出してしまった以上、無理やり戦う意思は無さそうだ。
「おれはザームの連中を追っている。ここであんたを捕まえてもいいんだが?」
ミルシェたちが魔法を防いでいる状況を長引かせるのは非常にまずい。しかし、魔導士が取引に応じてくれれば何とかなりそうだ。
「オレは連中と行動を共にしていない。ここでたまたま貴様を見つけただけだ。やり合うつもりはまだ無い!」
「奴らはどこにいる? それを教えてくれるなら、今は攻撃をしないことにするが」
「……境域を抜けた先、ディルアが集まっている所に行け! 連中はそこにいる」
「なるほど。ついでに攻撃魔法を止めてくれるんだよな?」
発動済みの魔法が未だに止まないのはどういうことなのか?
威力もそれなりにあってかなりしつこいんだが。
「駄目だ。魔法を止めればオレはここから去ることが出来なくなる。ふん、自分で何とかしてみるんだな」
中々に警戒心が高い魔導士だ。有力な情報を得られたし、ここは逃がすしかないか。
「そうさせてもらう」
「……イデアベルクの男、魔導隊はザームの連中とは別に動く。覚悟しておけ! 《テレポート・エンラム》!」
「――! 転送魔法か」
結局交えることは無く、女魔導士は転送魔法でいなくなった。一方的に攻撃を仕掛けられてばかりだが、連中の場所が分かっただけでもいいことにする。
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