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傾「そろそろ静葉之町に着く。 」
ノア「長かったー!」
傾「まだ着いてはいないぞ。」
ノア「まぁまぁ良いでしょ。」
アリィ「質問。」
アリィは挙手し、そう発言する。
傾「認める。」
アリィ「妖って目立ってもいいの?今悪魔騒ぎで疑われてるし尚更…」
白雪&傾「全くもって良くない。でありんす。」
ノア「じゃあここで一旦お別れ?ボクら待ってるからちゃんと積もること話しておきなよ。」
傾「俺としてはとっとと離れたいんだがな…白雪はどうせ着いてくるんだろ?」
白雪「もちろんでありんす。でも目立ってはいけないのも事実。わっちは一度姿を消しんす。見えなくても呼ばれれば主さんの元へ駆けつけんす。 」
傾「頑固なやつ…。聞きたいこと、ね。現状トスク国がどういう状態かは懇切丁寧に2人きりの時に定期的に教えて貰っていたからないな。」
ノア「記憶を見せてもらった感じ、もう1人友人がいたと思うんだけど聞かなくていいの?」
傾「あぁ…確かに聞きたいが…白雪が教えてくれたのは、鼬一郎ってヒトの遺言状を義左衛門っていう友人が白雪に渡したことくらいだ。…別に白雪は察しが悪いわけじゃない。言えるならいの一番に俺に言ってくれているだろうよ。」
アリィ「口止めされてるってこと?でもなんで…」
白雪「…わっちは確かに口止めをされてやんす。そしてそれを言うのはわっちではありんせん。」
傾「ほらな。あのヒト秘密主義なとこあるし。」
白雪「ごめんなんし。それではわっちは姿を消しんす。 」
傾「ああ。」
アリィ「そう言えば気になってたんだけど…」
傾「何だ。」
アリィ「アンタ、風花の地の国門昔は開けられたの?」
ノア「それ、ボクも気になってた。」
傾「開けれたとしても行かんぞ。」
アリィ「それくらい分かってる。零れ月の門のほうが近いし。」
傾「元々は風霜の門を管理する家門の出だ。
ただ、俺が産まれる前に没落し、権力は別家に移った。故に開けることは出来ない。…なんだその顔は。」
ノア「いや…没落したとはいえ、お貴族様とは思えなくらい態度悪いな…て。」
傾「俺の自認は平民だからな。」
アリィ「でもアンタに貴族としての生活は確かに似合わなそう。高級食材食べてるとこ想像つかないもん。」
ノア「わざわざ干し肉を食べられるように、慣らし済みなくらいだしねぇ…。」
傾「好きで食っとらん。本当は野菜が食いたい。」
アリィ「町に着くまでかなり長かったから、偏った食事になっちゃったからね。野菜食べないと健康に悪いし、お店で何か食べようか。 」
傾「別にそこまでじゃないが…」
アリィ「アンタに合わせてあげてるんじゃなくて、私が野菜を食べたいの。どうしてもお肉は保存できるように塩漬けしてるから味が濃くて。味濃いのは好きだけど、こう続くとくどいでしょ。」
傾「そういうことにしておこう。」
アリィと傾が会話を続けている中、
ノアは静かにそわそわとした動きをする。
アリィ「味とか分からないもんね。 野菜を食べ続けないと、 骨が脆くなったりするから、色んな種類の物を、バランスよく食べるのが大事なんだよ。」
ノア「骨が脆く…!?偏っちゃいけないんだね…それは…あー…」
傾「どうした。」
ノア「いや…悪いことしたなぁって…果物しか食べたことないって言ってて…お肉美味しそうに見てたから…そればっかあげてて…」
アリィ「?…あ、そっか。もうすぐ町に着くから言わないようにしてるんだね。誰か分かったかも。 」
傾「…果物しか食べたことない…?ソイツは本気で言ったのか?」
ノア「うん、彼はボクにたいして絶対に嘘はつかなかったから。」
傾「よくそんな状態で肉なんか入るな…。」
アリィ「着いたね。」
傾「この辺りに来たことはなかったが、なるほど。道理で観光名所と呼ばれるわけだ。」
ノア「懐かしいなぁ。」
アリィ「シイシャンは昔ここから入国したの?」
ノア「そうだよ。傾に説明…」
傾「今は不要だ。国を出てからにしろ。」
ノア「それもそうだね。」
誰かのお腹がぐぅと鳴る。
傾「……。」
アリィ「あの私食いしん坊とかじゃなくて」
傾「シイシャンの負担の代替した後、兵糧丸を渡したはずだが…」
アリィ「…食べた。…けどお腹すいた…」
傾「アレはかなり腹持ちがいいはずなんだが…お前の消費量は相当らしいな。」
ノア「物体が伴うものじゃないから…」
傾「あまり乱用するなよ。俺はきんぴらごぼうかサラダか漬物か…杏は?」
アリィ「候補多っ。私ここの料理とか知らないし…」
傾「祖国以外では中々ないのだ。調味料がここでしか作られていなくてな。」
アリィ「…ここでしか…」
傾「美味でな。はるばる料理の為だけにここへ来るやつもいる。俺達は長居が出来んからな。失敗はしたくないだろう。気分がいいからな。今なら地元民である俺がすすめてやってもいい。 」
アリィ「…アンタに頼むのは癪だけど…お願い…します…。」
アリィは悔しそうに、そう傾に頼む。
反対に傾は勝ち誇ったように答える。
傾「任せろ。」
ノア「なんの勝負してるのか知らないけど、仲良くなったみたいでよかった。」
アリィ&傾「違う。」
ノア「うーん、どう考えても仲良しだと思うんだけど…」
アリィ「見た目が私のとこの料理と違いすぎて、正直味が心配だったんだけど…めちゃくちゃ美味しい。」
傾「それはようござんした。」
食堂の女将「アンタは食べないのかい?」
ノア「ボクはお腹すいてないので…」
食堂の女将「そう遠慮しなさんな。1人だけポツンと見てるのは寂しいだろう。特別に私がサービスしてあげる。」
ノア「いや本当にお腹いっぱいで…」
食堂の女将「孫もアンタと同じくらいでね〜」
食堂の女将はノアの話を聞かずに、カウンターに向かう。
傾「まずいな。相当盛る気だぞ、アレ。」
ノア「いくつに見えてるのかは置いておいて、お皿にすごい盛られていってる…」
傾「俺はもう入らんぞ。」
アリィ「私もこれ以上は無理だから一旦わざとお腹空かせないと…。シイシャン、今のうちに私からアレ取ってって。」
ノア「え?あっ、そういうことね。任せてもいい?」
アリィ「うん。ただ店主さんが見てない時じゃないと食べれないけどね。」
傾「世話焼きの奴の相手は本当に面倒だな。」
ノア「悪意がないからね…。」
傾「そういや、俺の干し肉が底を尽きてきた。一度ここで皆必要な物を補充しろ。町を出てからでは行商人を捕まえなければならん。 」
アリィ「干し肉なんだけど、場所さえあれば私作れるけど…」
ノア「毎回拠点決める度に罠設置してたもんね。 」
アリィ「そのまんま入れる訳にも行かないから。既に捌いてあるよ。自分たちの分作るついでだから、アンタにもあげるよ。」
傾「なら任せるとしよう。俺は調味料でも買うか。後は…土産を用意しないと、ベツとアマラに文句を言われる。 」
アリィ「アンタ人の名前ちゃんと呼べたんだね…。」
傾「あまりハンター協会と仲が良くないからな。知られないためだ。」
ノア「にしても凄いよね。」
アリィ「何が?」
食堂の女将「はい、お待たせ。たんとお食べ。」
ノア「あ、ありがとうございます。動物を捌けることだよ。杏くらいの年頃の女の子は途中で気分悪くなっちゃう子とか多いから。ボクの周りの女性も苦手な人多かったし…。」
傾「幼少期からキッチンに立っていたら、違うんじゃないか?」
アリィ「私寧ろ立たせて貰えなかったよ。平気なのは多分ジー…友達に丁寧に教えてもらったのと…きっと自分でもわかってたんだと思う。わがままを言ってられる状況じゃなくて、とにかく生きる術を身につけなきゃいけなかったのを。」
ノア「えっと…ごめん。」
アリィ「別に不幸自慢をしたい訳じゃないから気にしないで。今はこれでも大分生活に余裕ができたし。 」
傾「大したものだな。」
アリィ「全部友達のおかげ。いやでも今思うとさ…よく小銅貨1枚もない状態からここまで持ってこれたと思う。」
傾「無硬貨かよ。」
ノア「いや凄…ボク世間とは離れてたけど、流石に小銅貨は持ってたよ…。」
傾「工面はどうした?」
アリィは運ばれた米を頬張りながら答える。
アリィ「狩った獲物を、お店に持ち込んで売ってた。食べられるとこだけ残しといて、後全部売っちゃう形。」
傾「それだけじゃ生活の基盤を作るのは難しくないか?」
アリィ「えーと…確かよく交渉してた。」
ノア「商人の才能あるんじゃない?」
アリィ「シイシャンは覚えてないか。あの時ポルポルだったし…。」
ノア「商人だったの?」
アリィ「違うよ。昔はどうか分からないけど、今はね。」
傾「というと、商会ライセンスか。」
アリィ「そう。」
傾「…その商会ライセンスは今もあるのか?」
アリィ「ないよ。」
傾「それなら商会には頼れないな。」
アリィ「商会には戦力とかないけど…」
傾「いいや。…1つ考えてるパターンがある。俺達は探し人がトスク国にいる前提で動いてる。ただお前達から探し人の話を聞いていて考えたんだが…大人しくしてるような奴か? 」
ノア「全然。 」
アリィ「無い道は作るタイプ。」
傾「フィヌノア国にいない場合の人海戦術として、商会の案をあげてみた訳だが…」
ノア「こんなこと言うのもどうかと思うけど…フィヌノア国から出るなんて一人じゃ不可能に近いよ。あそこは入る者は拒まず、出る者を拒むから。それと…正直ボクらだけで忍び込むのも厳しいかな。一度ボクにしてやられてるし…。あそこの軍事力は世界一と言ってもいい。なにせ悪魔を定期的に討伐してる訳だし。」
アリィ「この3人じゃ無理?」
ノア「悪いけれど無理だね。」
ノアははっきりと伝える。
ノア「きつい言い方になっちゃうけれど…無駄死にするだけだよ。」
アリィ「フィヌノア国に居る保証はないし、忍び込めたとしてリスクが高すぎるね…。」
傾「無策で止めている訳ではないんだろう?」
ノア「もちろん。ただ…契約上ボクは話せない。誰に聞かれてるのか分からない状況じゃあね。」
傾「承知した。お前もそれでいいか。」
アリィ「別にそれでいいけど…アンタが私の意見聞いてくるなんてびっくり…。明日は槍でも降ってくるんじゃ…」
傾「失礼な奴だな。」
傾「食べた食べた。」
ノア「申し訳ないなぁ…。あのご飯まけてもらっちゃったし…」
アリィ「何言ってるの。結果私のお腹に入ってるんだからいいの!シイシャンも少しは満たされたんでしょ?」
ノア「たしかに…?」
傾「意外とお前、言いくるめられやすいな。」
ノア「えっ」
傾「場所を借りるなら宿屋だが…それでいいか?」
アリィ「一日は絶対かかるからそれでいいよ。お金も無限じゃないからね。」
ノア「えでも金貨…」
アリィ「あるけどあれってそんなポンポン出すものじゃないから…。」
傾「あぁ…アマラだな…。」
アリィ「まぁ長い間歩きっぱなしだったし、
今日は皆体を休めよう。」
ノア「そうだね。」
適当にとった宿屋の庭で、
アリィが肉を干していると、傾がアリィの元へ質問をしにくる。
傾「杏、シイシャンを見てないか?」
アリィ「見てないけど…部屋で寝てるんじゃないの?」
アリィ達が取った部屋は2つであり、1つは傾の部屋、もう1つはアリィとノアの部屋のため、アリィにノアの所在地を聞くのは当然ではある。
アリィ「私ずっとここでお肉干してたし…」
傾「まぁそうだろうな。」
アリィ「何か用事?」
傾「大したことじゃないからいい。」
ノア「あっ、2人ともいてよかった!」
アリィと傾が話をしていると、丁度ノアはどこからか帰ってきたようで、大量の荷物を抱えながら話しかけてくる。
アリィ「それどうしたの?」
ノア「軽くお散歩してただけなんだけど、
色々いっぱい貰っちゃって…運ぶの手伝って…」
傾「可愛がられすぎだろう…」
アリィ「この3人の中で1番愛想いいもんね…。」
ノア「手伝ってってば〜!」
アリィ「そろそろいいかな。」
翌日、アリィは干していた肉の状態を確認する。
傾「調子はどうだ?」
アリィ「おはよ。正直あんまり美味しくは無いと思うよ。最低限のことしかしてないし…あとそんなまじまじと見るもんでもないかな。」
傾「干し肉を作った事などないからな。今後の参考にしようかと。 」
アリィ「お金あるなら買った方が絶対早いって。」
傾「そうか。」
ノア「おはよぉ…。」
アリィ「おはよう。まだ眠い?」
ノア「ちょっとね…。顔洗ってくる…。」
アリィ「行ってらっしゃい。」
傾「まだ干すか?」
アリィ「そうだね…せめて朝ごはんを食べ終わるまでは干してたいかな…。ヒョウロウガンってのだけじゃ足りないの?」
傾「あれは干し肉以上の手間でな。材料が意外と要るんだ。」
アリィ「ふーん。」
ノア「戻ったよー。何か手伝えることある?」
アリィ「ううん、もう一旦は終わっちゃった。朝ごはん食べに行こうか。 」
ノア「ボク留守番してた方がいいんじゃない?」
傾「いや…何かあると困るからな。行動は共にした方が良いだろう。」
ノア「そっか。分かったよ。」
アリィ「今日どこに行くか決めてるの?」
傾「候補なら。」
アリィ「じゃあそこのどこかでいいよ。味覚音痴とかでは無いみたいだし…。」
傾「そりゃどうも。今からなべ屋に行くぞ。」
アリィ「今なんてった??」
ノア「朝からすっごい食べるじゃん…。」
食事を終えた後、アリィ達は宿屋に戻って干していた肉の状態を確認していた。
アリィ「うん、いいと思う。」
傾「では回収し終えたら出発する。」
ノア「分かったよ。手伝うよ。」
アリィ「ありがとう、2分割しなきゃいけないから。分けて欲しい。」
ノア「うんー。」
傾「先に手続きをしてくる。」
アリィ「ふぅ、終わった終わった。」
ノア「お疲れ様。」
アリィ「シイシャンもありがとう。にしても…手続きに行ったままアイツ帰ってきてないね。」
ノア「流石に遅いよね。ここの手続きは複雑じゃないはずなんだけど。 」
アリィ「待ってても仕方ないし、私達も国門に行こうか。」
ノア「そうだね。」
2人は先に国門に向かった傾と合流するため、宿屋を出て、付近にいた傾に気づく。
アリィ「なんだ、こんな近くに居たんだ。」
ノア「誰かと話してるね。傾の方は…なんか鬱陶しそうにしてる…?」
アリィ「アンタ、そこで何してんの?」
傾「杏。いや…少し絡まれていて…」
傾と話していた男「お連れさん可愛いじゃん。俺気の強い子も好きだよ。でも安心して!1番は嬢ちゃんだよ!やっぱり嬢ちゃんの顔が見たいなぁ。」
傾「お戯れを。私は顔に酷い傷を負っていますから…きっと幻滅しますわ。」
アリィ(ナンパ…傾の声は高いから、変なの引き寄せちゃったんだ。)
ノア「ボクのこと忘れてない?」
男「男は黙ってろよ。ね、こんな男より俺とそこの茶屋に行かない? 」
傾「先を急がねばならない身ですので。」
男「…ちっ。」
ノア(……。)
傾(言うなよ。)
ノアは何かを言おうとするが、
傾が目配せをし、やめさせる。
傾(女性ってことしにしとけば、最悪の場合にまだ可能性があるからな。)
男「女は黙って男に従ってりゃいいんだよ。この俺が誘ってやってんだぞ。お前何様のつもりだ。」
アリィ「は?」
僅か数秒の出来事だった。
付近の硝子窓が一斉に割れ、
男に目掛け飛んでいた。
だが、破片が男に刺さることは無かった。
傾「硝子なんて素手で触るもんじゃないわ。
痛くてしょうがない。」
傾は複数の硝子の破片を全ていつの間にか、
手中に収めていた。
男「い、今のは…」
アリィ「い、今のは…ちが…だって…」
傾「杏。」
アリィ「そっ、そもそもアンタが…」
傾「恥じることも恐れることも何も無い。」
アリィ「……。」
ノア「それよりも早くここから出ないと…」
男「ひっ…!あ、悪魔だ…!悪魔が出たぞ…!」
傾「もう隠す必要もあるまい。失恋、おめでとう。兎の男に惚れた結果がこれかい?」
男「ひぃっ…!よ、寄るな…!」
ハンターの1人「なんの騒ぎだ!」
ノア「そのヒトにのんびり構ってる場合じゃないって!」
傾「無駄だ。既に囲まれている。」
ノア「大人しく捕まってろって?」
傾「捕まえさせる気は毛頭ない。待て。」
ノアは訝しみながらも傾の指示に従う。
1秒1秒が長く感じる。
何秒経った頃か、傾はただ一言呟いた。
傾「来た。」
傾が呟いたと同時に、辺り一面に黒い煙が撒かれる。煙が撒かれた直後、傾はアリィとノアを抱え、近くの屋根に飛び上がる。
アリィ「けほっ、げほっ、今の何?」
傾「煙幕だ。敵の目を眩ませる目的で使われる。」
ノア「傾、よく屋根に避難できたね。ボク、なんにも見えなかったよ。」
傾「…合図があった。」
アリィ「…私達別に走れるから、とりあえず離してくれる?」
傾「だとさ。」
傾達より先に屋根にいた先客に傾は話しかける。
先客「足音は誤魔化せます。」
傾「分かった。 」
傾はそれだけ聞くと2人を下ろす。
ノア「どういうこと?」
先客「お話は後で。先導します。」
傾「従え。味方だ。」
アリィとノアは顔を見合わせ疑問に思うが、
大人しく従い、先客に着いていく。
ノア(屋根を渡るなんて経験したことないから足がもつれる…。)
アリィ「シイシャン、大丈夫?」
ノア「転んでも許されるかな?」
アリィ「捕まっちゃうだろうね。おぶってくよ。」
ノア「重くない? 」
アリィ「平気。使い慣れた魔法の使い方だから。」
アリィがノアを背負った矢先、アリィ達とは別方向で大きな爆発音が鳴る。
ノア「杏!?」
アリィ「違うよ!?」
先客「貴方達に危害はありません。ご安心を。」
傾「…白雪か?」
先客「はい。…着きました。」
一行は国門の付近で足を止める。
先客「ほとんどの者は、先の騒ぎの解決に向かっております。今なら正面から出ても大した騒ぎにならないでしょう。」
傾「感謝する。…俺に暗号が伝わらなかったらどうするつもりだったんだ?」
先客「その時はその時ですよ。」
アリィ「知り合いなの?」
傾「正確には違うな。知り合いの…ひ孫くらいか? 」
先客「惜しいですね、玄孫です。名を、義花と。」
傾「急にどういう風の吹き回しだ?」
義花「…急という程でもありませんよ。貴方が以前と変わらぬ姿でご健在と妖の1人に聞いた時、とうとう狂ったかと考えておりました。私自身の目で確認したかったのです。」
傾「…妖と手を組むなんてろくでもない。他に…」
義花「…高祖父、義左衛門は戦に敗れた元貴族でした。そのような者が表立って人の手を借りることはできません。 」
傾「何のためにそこまでした。 」
義花「己のためです。鼬一郎様は、義左衛門にとって心の支えでした。そして貴方は心花の良き文通相手となってくれました。それだけです。 」
傾「人間に友好な妖など…白雪は特殊だ。手をひけ。」
義花「それはなりません。」
ノア「あれ相当怒ってるよね…。」
アリィ「…地面を足で蹴ってるし多分。 」
義花「…かつて義左衛門、そして私も貴方のことを正当に評価しておりませんでした。武力に憧れるなど、それは愚か者のすることと。貴方がその力を持ってして戦を集結させた時、義左衛門は考えを改めました。これは贖罪でもあるのです。」
傾「そんな高尚な目的で力を奮った訳では無い。そして、それはお前には関係の無いことだ。もう一度言う。手を引け。 」
白雪「何をそこで悠長に喋ってるでありんすか。」
義花「白雪様。」
白雪「雫月が食い止めているが長うのうござりんす。」
義花「兄上が…いつか機会がありましたら、お話いたしましょう。」
傾「どいつもこいつも勝手な…」
白雪「主さんも大概だと思いんす。」
傾「はぁ…。足を止めて悪かった。行くぞ。」
ノア「今話さなくていいの?」
傾「皆簡単にくたばるような者ではないと、俺は知っている。それよりも行くところがある。」
アリィ「…後悔しないなら。」
傾「何故そこでお前が止める。後悔しないなど無理な話だ。俺は常に己の考えた最善の道を歩むだけだ。 」
傾は怪訝そうにそういい、スタスタと歩き始める。
ノア「一緒に行動するつもりなら待ってよ〜!」
アリィ「色々ありがとう。」
白雪「打算があってのことでありんす。」
アリィ「それでもお礼を言いたかったの。」
白雪「…どういたしんして。」
アリィ「傾。」
傾「俺の名前を覚えるとは。脳味噌はまだ使い物になるんだな。」
アリィ「……。」
アリィは無言で傾の右手を強く握る。
傾「いだだだだ!お前何考えてやがる…。」
傾はとっさにアリィの手を振り払い右手を庇う。
ノア「こら!暴力は良くないよ!」
アリィ「……。」
アリィはじっと傾の右手を見つめる。
傾「もう触らせんぞ…。」
ノア「あ、もしかして。」
傾「奴は元からここまで暴君だったか?」
ノア「違うよ。多分集中してるだけ。アリィ。」
ノアはアリィの肩を軽く叩く。
アリィ「ん…どうしたの?」
ノア「薬のことでも考えてたんだろうけど、傾が困惑してる。」
アリィ「あぁ…。」
傾「薬と俺の右手になんの関係があるんだ…。」
アリィ「アンタに使う痛み止め。その手で武器握ると痛いでしょ。」
傾「まぁ…否定はせんが…お前に握られた時の方が痛かったぞ。」
アリィ「どれくらい痛いか知りたくって。」
傾「おいお前手を握られてこい。」
ノア「やだよ。」
アリィ「私と傾じゃ体質が違いすぎて、薬を作るのは危ないんだけど…でも買えるかって言うと…うーん…」
傾「…無免許か?」
アリィ「うん。」
傾「お気持ちだけいただきます。」
アリィ「嘘そんなに嫌?」
傾「ど素人が作った偽物を飲んで1週間高熱に浮かされたことがある。」
ノア「すっごい可哀想!でもそうだね…ボクもやめた方がいいと思う。毒と薬は紙一重。アリィたちの作った薬がアリィ達に効くのは、身体に毒が蓄積されてるからの可能性があるもん。」
傾「おい待て物騒な単語が聞こえたぞ。」
アリィ「私もそれで迷ってて…」
傾「別に薬を無理に使用しなくても、どうにかなる。あと毒ってなんだ。」
アリィ「ダメ。その油断が、痛いと感じた、 たったの1秒が死へ直結することがあるってジークが言ってた。」
傾「…一般的な痛み止めは?俺は持っていない。」
アリィ「ないよ。」
傾「お前、フィヌノア国に行く前に考えがあると言ったな。」
ノア「言ったね。でも薬を売ってる保証はないよ。」
傾「賭けるだけ賭てみてもいいだろう。」
ノア「わかった。案内するよ。ただ絶対ボクから離れないで。」
そう言い、ノアは先導を始める。
アリィ「…庇わなくてよかったのに。あんな奴。」
傾「別に俺は奴を庇ったわけじゃない。言っただろ。打ち負かしてやる、と。回数制限など俺は設けなかったはずだが。」
アリィ「…アンタって…」
ノア「はぐれたら一生合流できないよー。」
ノアは遠くから呼びかける。
アリィ「すぐ追いつく!」
傾「何か言ったか?」
アリィ「別に。」
アリィ(感謝はしてる。でもそれを傾に言うのは、小っ恥ずかしいし…。まぁでも… )
アリィ「…言わなくても分かるか。」
空気が冷たい静かな集落に、1人男が訪れた。
「どうぞこちらへお入りください。」
男は案内人に礼を述べ、扉を静かに開ける。
男は静かに伝えた。
「遅くなり申し訳ございません。ニェヘマ、手助けに参りました。体の調子はどうですか、ジークさん。」
そう呼ばれた銀髪の少年は男の瞳をじっと見ていた。