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「ナナさん、ナナさんお願いです……助けて下さい……」
『シロちゃん!? どうしたの!? 今どこ!? お姉さんがすぐに行ってあげるから――って、パソコンからのログインだし! 家で何かあった!?』
帰って来てからすぐにパソコンを起動して、もはや縋る勢いでナナさんへと通話を飛ばしてしまったのだが。
どうやら大変な誤解を与えてしまったらしく、ナナさんからは非常に慌てた声が返って来た。
そんな訳で、これまであった事を一つ一つ説明しつつ、私にとっての頼れるお姉さんに相談してみた結果。
『初心か!? というか、相手もスゴッ!? なんかもう逆に格好良いな!? むしろゴメン、一個だけ言わせて!? 情報量エグッ!?』
本当にすみません。
相手に促されるまま、全てご説明したので。
かなり個人情報を含む内容だったから、自分でもどうかと思ったのですが。
ちょっと限界だったので、ナナさんに全てお話してしまった。
黒沢君がクロさんな事、クロさんのお兄さんが9Kだった事。
そして黒沢君と出掛ける為に服を選んでもらった事とか、この前のイベントで起こった出来事とか色々。
私の心境も含めて、聞かれた事には全てお答えした。
だってもう、どうしたら良いのか分からなかったので。
お兄ちゃんに相談しようかとも思ったけど、やっぱりこういうのは同性の方が良いのかなって。
そういう事情も有り、完全にナナさんに泣きつく形になってしまったのですが。
「すみません……こんな相談。ご迷惑、でしたよね……」
『いや全然!? むしろウェルカム!』
非常に申し訳なくなり、画面越しにペコペコと頭を下げていたんだけども。
向こうから返って来る声は、とてもとても元気ハツラツでした。
相も変わらず頼もしいとも言えるが……なんか、楽しそうですね?
『いやでも、すっごいねぇ……クロさんは。まさか普通のデートの逆手を提案するとか』
「や、やっぱり変な提案……ですよね? だって悪い所を見せ合うなんて、普通ならそのまま嫌われちゃいそうなんですけど……」
人間というのは、自分の駄目な所を隠そうとするものじゃないのか?
少なくとも、私はそうやって生きて行こうとしていた。
悪い所ばかりを見せれば、向こうが此方に失望してしまうから。
そんな事になれば、一度失った信用を取り戻すのはとても難しいと教えられていたから。
だからこそ、可能な限りミスをしない様に。
相手から“完璧である”と思ってもらえる行動を心掛けろと、昔から教えられていた。
なので、本日の黒沢君の提案は……正直、私には理解しがたいモノだったと言う他無い。
だった、はずなんだけど。
『うんにゃ、言葉遊びみたいになっちゃうけど~……間違ってないと思うよ? なんて、今現状彼氏の一人も居ない私が言っても説得力無いかもしれないけど』
「え? え? つまり、どう言う事でしょうか?」
ナナさんからも不思議なお言葉を頂いてしまい、更に首を傾げてしまった。
そうなってくると、人付き合いって私には本気で難易度が高すぎるんですけども。
などと、思考が止まり始めている所で。
『うーんとね。シロちゃんにこういう質問をしても、あんまりパッと想像出来ないかもしれないんだけど。例えば身近な人だったり、大好きな人だったとしても、その人も人間だから“完璧”ではない訳さ。良い所もあれば、悪い所もある。ここまでは、感情とかじゃなくて理論として考えてみよっか』
「は、はぁ……」
感情では無くて、という事なら……まぁ、理解出来る。
人間にとって、本当の意味での“完璧”など存在しない。
もしもそう思える人物が居るとすれば、それこそ他者から“完璧だと思って貰える部分”しか見せていない証拠。
ここまでは分かる。
そうするのが大人と言うものであり、私もそうあれと教えられてきたから。
しかしながら。
『その上で、感情を追加して。更には恋愛ってモノも含めて想像してみましょ~ハイ、どうぞ』
「どうぞ、と言われましても……私、恋愛とかそういうの、全然縁が無かったので……」
『なははっ、まぁそういう反応になるか。そんじゃさ、もしも一緒に出掛けた時、クロさんに一つでも嫌な所を見つけたら……シロちゃんは、嫌いになれる? 恋愛やらデートやらの話を抜きにして、人として嫌いになれる?』
「それは、多分無理です」
これだけはきっぱりと言い切った。
その嫌な所というのが、全然想像出来ないけど。
だって私にとっての彼は、いつだって凄い人だったのだ。
一緒に居てくれて、何でも相談に乗ってくれて、話しているだけでも楽しいと感じてしまう程。
私が近くに居る事を、自然と許してくれる……みたいな。
そんな相手だったからこそ、向こうにも楽しんでもらいたいって。
いつもみたいに気を張る前に、“完璧”を演じようとする前に。
何かを考える前に、表情が思わず緩んでしまう様な。
『だったら、そこまで深く考えなくて大丈夫だと思うけどなぁ~』
「いやいやいや、今の会話で何か答え出ました?」
『出たよ? ある意味』
どこにですか!? 未だに何も解決していない気がするんですけど!
なんて、思い切り叫びたくなってしまったけども。
彼女はケラケラと笑ってから。
『それこそもっと軽い雰囲気だったり、彼氏彼女って存在がブランド感覚~みたいな。そういう関係なら、一つでも悪い所を見つけると相手から興味を失っちゃったりする訳よ。ホラ、蛙化って言葉、聞いた事無い? 私的にはめっちゃ嫌いな言葉だけどね』
「あ、あぁ~……? 聞いた事なら、あります。けど、いまいちよく理解していないというか」
『正直、分かんないままの方が良いと思うけどねぇ。つまりシロちゃんは、“そういう次元”で相手を見てないって事なのよ。そんでもって、これも前言った事と一緒。もしもその感情が、相手も一緒だったら? ちょっとくらい悪い所見た程度じゃ、嫌いになんかならない。むしろ人間ってね、相手の弱い所を知る方が親近感も湧いたりするんだよ?』
もしも、本当にもしも。
黒沢君も私と同じように考えてくれているのなら。
むしろ今までだって、私は情けない姿ばかり晒している気がするけど。
いつだって格好悪いリアルの私が、またいくつか追加で格好悪い所を見せてしまったとしても。
それでも一緒に居て、笑ってくれたら。
多分それは、凄く嬉しいと言うか。
これまで以上に“気を張らない相手”になる気がする。
格好悪いままで良いとは言わないけど、そういう面も見せられる相手になる……みたいな。
『気軽に考えるっていうのも、悪い事ではないんだけどね。でもシロちゃんは、もっと真剣に考えちゃうみたいだから。だったら、“本気”で相手と向き合った方が素直になれるかなぁって。“好み”と“好き”の違い、ってヤツかな? 好みは簡単に変わっちゃうけど、好きってヤツはなかなかしぶといからねぇ~。悪い所も含めて、それでも一緒に居たいって思える程なら……それはシロちゃんにとっての“本気の好き”なんじゃない?』
その言葉に対して、ボッと顔面に火が付いた様に赤くなった気がする。
誰かを好きになる、という事が私にはこれまで理解出来なかった。
私からすれば誰も彼も凄い所がいっぱいあって、こっちとは全然違うんだって比べてばかり。
これ等に対して、“尊敬”という気持ちを向けた事は数多くあった。
そして他の場合でも、自身や周囲に対して不利益が発生しない様に、どうにか嫌われない様にと心掛けたり。
もしくは迷惑を掛けない様に距離を置いたり、関わってしまっても悪い評価を貰わない様にと必死になってしまったり。
これまでの人間関係というのは、私にとっての“人との繋がり”というのは。
基本的に“そういうの”が大前提にあった気がする。
けど、ナナさんと話して。
一つだけ確信した事があるのだ。
私は、やっぱり黒沢君に格好悪い所を見せたくはない。
けど彼が自身の事を格好悪いと思っている事に関しては……もっと、知りたい。
此方からすれば、それすら凄い事なんだって、ちゃんと格好良いんだって言ってあげたい。
自分は見せたくないのに、相手には見せて欲しいなんて……とんでもなく我儘な考えだけど。
そう思ってしまうくらいに、“知りたい”と思ってしまっている事に気が付いた。
今までの人間関係とは違う、メリットとデメリットの計算なんかじゃなくて。
凄い凄いって言ってばかりな、一方的な関係じゃなくて。
もしも何か不利益や、悪い所があったとしても。
それらを含めて、教えて欲しいと願ってしまった。
「私は……どうすれば、良いんですかね」
『シロちゃんの好きなように、シロちゃんが望むままを相手に見せれば良いと思うよ? なぁんて格好付けたところで、結局どうすりゃえぇねん! って話だよね。なはははっ!』
「ナナさぁぁん……」
はい、という事で最初の議題に戻って来ました。
私、どうする!?
だからこそ年上の女性に相談しているのに、答えが凄くフワッとしてるよぉぉぉ!
などと、グネングネンと頭を抱えたまま蠢いていると。
『という訳で~シロちゃん!』
「はい!」
『もう一回、私とデートしようぜ!』
「はい! って、はい?」
急に、これまたおかしな事を言いだしたナナさん。
今ばかりは完全に思考が置いてきぼりになり、非常に間抜けな表情でモニターを眺めてしまったけど。
『人は誰でも“初めて”はテンパるものだよ! だから、お姉さんで練習しようぜ! クロさんとデートする前に、同じ条件で私とデートしよっ! これならある意味、ハードル下がるっしょ? ホラ、女同士だし』
「は、はぁ……まぁ、そうかも? しれません……ね?」
『うしっ! んじゃ今度お休み、クロさんより先に予約しておいてね? なぁんも予定立てずに、思い付きで行動してみようぜぃ!』
何かよく分からないけど、デートの予定が……もう一件、増えましたとさ。
あ、あれぇ?
コメント
1件
うわあ…シロちゃん、本当に悩んでたんですね。ナナさんの「ウェルカム!」の一言でちょっとホッとしました。情報量エグいってツッコミ入れつつも、ちゃんと話を聞いてくれるところが頼れるお姉さんって感じで素敵です。 それに、「好みと好きの違い」の話、すごく響きました。シロちゃんが「嫌いになれるわけない」って即答したところ、もう完全に黒沢君のこと大好きじゃないですか…!練習デート、どんな展開になるのか気になります。
柘榴とAI

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