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Escape with all the prisoners 《全ての捕虜とともに脱出せよ》
ここは監獄。閉じ込められている捕虜は私たち+お姉に磨輝を除いて3人。
「ここはどこ⁉︎私たちが何したっていうの⁉︎」
「落ち着くんだ、玲子《れいこ》」
ねむ「セブン…」
莫「おやすみ。初っ端から大ピンチの夢だな」
ねむ「今夜の私たちは…捕虜⁉︎」
莫「らしいな」
手錠に首輪。テンプレだ。
「ねむ。彼らとは知り合いか?」
ねむ「ああうん。夢の中でだけ会う人たち」
莫「そちらこそねむちゃんとはどういうご関係で?」
「家族だ」
莫 幸呼奈「家族っ⁉︎」
まさかのねむちゃんファミリー。
ねむ「お父さんの美女木真澄《びじょぎ ますみ》に、お母さんの玲子」
莫「とんだVIPじゃないか…これはますます俺の腕の見せどころだな」
いや首輪も手錠も指パッチンで取れるんかい!監獄はチョロかった。莫くんが器用でよかった。ドアの解錠もこのとおり。
莫「俺から離れないで」
玲子「何だか頼もしいわね」
美女木「ああ」
ここから先は階段だ。今は8階。これはあれだろうか。異変があったら戻る。なかったら進む。それか今回の相手が永遠のナイトメアで完全に閉じ込められているか。いずれにしよ秒で終わらせよう。進んでいるといきなり人の身長くらいはあろう丸ナイフのようなトラップが目の前を何度も往復しはじめた。しかも向こうでも同じくらいの感覚で同じものが壁を往復している。まさしくトラップ…。
美女木「これじゃあ先に進めないぞ」
莫「ノープロブレム。夢を叶えるカプセムの力があればな」
脚力の強化でねむちゃんたちを抱えてトラップの間を吹っ飛んでいく。
幸呼奈「お姉あれできる?」
歌華「あたぼーで草」
磨輝「あたぼーで草w」
平気な顔で私と磨輝を抱えてトラップの間を吹っ飛んでいくお姉。よかった。いてくれて。それにしてもなんなんだ、ここは。どこかにナイトメアがいるはずなのだが。進んでいると7階についた。普通に進んでいるじゃないか。
美女木「なあ。どこまで下りればいいんだ?」
莫「きっと下に行けば地上への出口があるはずだ」
トラップの矢もストリームの力で華麗にいなしていく。
磨輝「よし。僕も」
腕を鳥のように変身させて協力する磨輝。
美女木「少し休まないか」
莫「そうだな」
それっぽい場所を見つけて休む。
莫「ねむちゃん。何か家族の中で悩み事とか問題はない?」
ねむ「え?」
莫「この夢には君たちファミリーの中の誰かの深層心理が関わってる可能性がある」
ねむ「さあ。本当の家族じゃないから」
一同「え⁉︎」
莫「ねむちゃんファミリーじゃなかったの?」
ねむ「今夜はそういう世界観なんだって思って演じてました」
莫「それを早く言ってよ…」
ねむちゃんの家族になる夢を見ている謎の夫婦。絶対にキーマンだ。カメラで背景も一緒に記録しておこう。
朝。目が覚める。ゼッツルーム(莫くんの家のクローゼットと繋がっているいつもの拠点)に向かう。最早、当然ヅラして怪事課の2人がいる。また莫くんの家の窓から入ってきたのだろうか。
莫「おはようございます…何か事件でも?」
富士見「おはよう、莫。幸呼奈」
莫「莫…?」
幸呼奈「幸呼奈…?」
富士見「ブラックケースだ」
なすか「かどうかは分かりませんが。奥多摩《おくたま》にある採石場にミステリーサークルが」
パソコンの画面を見せてもらう。黒い丸と十字を合わせたような枠の中で小さな4つの丸が1つの大きな丸に繋がれていた。これはあれだ。莫くんが夢の中で撮った写真を見せてくれる。隅の方に小さいが、7階の階数表示板が写っている。そして例のミステリーサークルと同じ模様も。
なすか「え?」
富士見「でかしたぞ、莫!なすか!照合を!」
なすか「はい!」
待っている間に運試しも兼ねて莫くんがカプセムが出るガチャを回している。何だろう。マシーナリーは機械の力。プロジェクションは光学迷彩の力。
なすか「公安のデータベースに該当人物がいません」
富士見「そうか。初動捜査は難航しそうだな」
莫「それじゃあ勘の鋭い人に聞いてみますか!」
部屋に戻っていく莫くん。私は盗み聞き。
美浪「知ってるよ、この人」
莫「本当!誰?」
美浪「ねむちゃんが所属する事務所の美女木社長」
莫「マジで⁉︎」
美浪「大分、雰囲気は違うけど間違いないよ。よくロケで一緒になるし」
莫「嘘!次のロケいつ?」
美浪「行きたいの?」
莫「行きたい! 」
やってきたロケ。よかった。美浪ちゃんが芸能マネージャーで。茉津李兄もついてきてくれている。見に来ていた美女木社長。
莫「あの…実は俺、ねむちゃんのファンで」
美女木「知ってるよ。全国民がねむのファンだから。ハハハ」
幸呼奈「ですよね〜ハハハ…」
私たちを見ても反応がない。
莫「夢主じゃないのかな?(小声)」
幸呼奈「夢を覚えてないのかもよ?(小声)」
茉津李「あり得る。脳の記憶を保存する海馬《かいま》は目覚めるとすぐに現実の感覚にシフトするからな(小声)」
美浪「勉強になります。ねむちゃんみたいな国民的人気タレントを育て上げる秘訣は愛ですね」
美女木「いや…私は何もしてないよ…」
曰くねむちゃんは初めて会った日から輝いていたと。8年前、美女木社長は児童養護施設に色々と寄付をしていたらしい。そこで当時、別の施設から引き取られてきたばかりだったねむちゃんを100万ドルと感じてキッズモデルのオーディションに参加させたのだ。その目に狂いはなく、事務所も瞬く間にビッグになった。まさしく運命の出会い。
美女木「まさしくねむはプライスレス。かけがえのない宝だ。私にとっても、全国民にとってもね」
だとしたら不審な点がある。何故、ねむちゃんは教えてくれなかったのだろう。美女木社長が自分の事務所の社長だと。
戻ったゼッツルーム。
莫「社長にとってねむちゃんは天塩にかけて育てた我が子のようであり、ねむちゃんにとって社長は身寄りのない自分を引き取って育ててくれた親のような存在です」
富士見「なるほど…」
なすか「美女木社長についてもう1つ気になる情報が。社長は長年、連れ添った妻の玲子さんとつい先日、別れています。理由は公表されていません」
富士見「この事件…読めた!」
莫 幸呼奈「え!もう?」
富士見「ああ。ねむちゃんの両親になる夢を見ていたのは美女木に違いない。彼は長年、彼女と家族同然の付き合いをしていた。何なら本当の家族になってもいいとさえ思っていたハズだ。しかし妻と別れたショックから3人家族で暮らすというもう叶わない夢を見ていたんだ」
なすか「バイアスかかってますから、参考程度に」
富士見「莫。あとは頼んだぞ」
莫「はい!」
再び夢の中。
ねむ「セブン!おやすみ」
莫「おやすみ」
幸呼奈「お姉と磨輝も」
歌華 磨輝「うん」
莫「なあねむちゃん。どうして言わなかった?あの人、君の事務所の社長さんなんだろ?」
ねむ「あー…この夢の世界観には関係ないことかなーって…」
莫「言えなかった理由があるんだろ?」
ねむ「まあいいじゃない!」
莫「笑い事じゃない!この状況が分かってるのか?誰かがナイトメアの犠牲になるかもしれないんだぞ!ナイトメアが見せる悪夢は、ただの夢じゃないんだ!」
ねむ「分かってるよ!」
美女木「どうした?ねむ」
ねむ「私にだって言いたくないことくらいある…人助けのためだからって、人の心を何から何まで探っていいの?」
莫「いや…それは…」
ねむ「ごめん。言いすぎた」
私たちに背を向けてしまう。
莫「待て、ねむちゃん!」
美女木「ねむ!1人で行くのは危険だ!」
ダッシュで階段を駆け下がっていく。もうどれくらい駆けただろう。階数表示板に目をやる。1階だ。
美女木「あれ出口じゃないか?」
玲子「よかった…」
やっと出口が見えた。やっとこの 監獄から脱出できる。
歌華「よくない、待って!」
磨輝「そこからは元の世界に脱出できないかもしれない!」
そうだ。待て。これは罠かもしれない。出口を見つけて真っ先に走り出す奴はだいたい死ぬ。この手のシチュエーションの世論だ。などと考えている間に莫くんが扉を開けてしまった。しかも外ではない。
玲子「どうしたらここから出られるのよ!」
変な音を鼓膜が捉える。キュイーン…最近よく聞くあれじゃないか。音の方を見やる。ついにナイトメアが現れた。腕がチェンソーになっている。首がない。随分、機械じかけだ。
陶瑚「なぎ兄ちゃん!見て!チェンソーのナイトメアよ!チェンソーの悪魔と言っても過言ではないわ!←召装で見守っている」
渚冬「何で心キュンキュンしてるんだよ!←召装で見守っている」
莫「みんなと安全なところに」
ねむ「うん」
莫「(ドライバーをはめてマシーナリーのカプセムを取り出す)お前にミッションの邪魔はさせない…(カプセムをドライバーにセットして)変身」
ついに戦いが始まった。丸ナイフやら矢やら色々と出てくる。やはり今までの罠はコイツの仕業だったのだろうか。
莫「デンジャラスな拷問器具は…分解するに限る」
幸呼奈「“しかしその谷に当ったところには陰気なじめじめした家が、普通の通行人のための路ではないような隘路あいろをかくして、朽ちてゆくばかりの存在を続けているのだった”…」
私の言霊の力も貸す。ガンモードでガンガン攻めていく。マシーナリーの力でついに分解に成功した。
莫「脱出ミッションは楽勝だな」
磨輝「流石、莫さん!」
歌華「莫くん有能すぎ!」
幸呼奈「それな。このまま行ければ私たちも脱出でk…」
「思い上がるな」
莫「その声…!」
そう。いつものあの人だ。あのナイトメアを使役しているかもしれない謎の男。現実世界では声くらいしか聞こえていなかったが、有刺鉄線の向こうにちゃんと顔を見られた。真っ黒な髪に上品な白髪をまばらに生やした憂いをまとった顔色の男であった。
莫「ようやくお目にかかれたな」
全くもってその通りである。
莫「誰だ?お前」
「全てを知る者…」
彼が手をナイトメアにかざすとナイトメアが電源を入れた機械のように再び活動を始めた。時が戻ったみたいだ。それだけではない。何なら数が増えている。
莫「お前…何をした!」
「明晰夢の力が使えるのは…お前だけだと思ったか?」
嘘〜。
幸呼奈「あー…行こう!」
歌華 磨輝「あ、うん!」
「ここは脱出不可能な死の監獄」
莫「死の監獄ってどういう意味だ!」
「夢が現実に残すはかすかな痕跡。夢のみを求める者は…決して真実に辿り着けない」
そういえばこいつら、今までのナイトメアと明らかに違う。能力も力もあるが、それだけだ。戦い方がまるでなっていない。夢が現実に残すはかすかな痕跡。その言葉を信じるなら…あのブラックケースといっていたミステリーサークルはナイトメアの痕跡!とするとある可能性が出てくる。1人1体を担当して倒したチェンソーのコイツはナイトメアじゃないんだ。とすると結論…。
幸呼奈「この監獄そのものがナイトメアだったのか!」
私たちはナイトメアの腹の中を彷徨っていたわけだ。
「出口なき監獄で、その命が尽きるまでせいぜい逃げ惑うがいい」
磨輝「どうして夢主たちを苦しめてるの!」
「人間は誰にも言えない秘密を抱えている。そしてその苦しみから逃れたがってるんだ」
そんなことは知っている。だから戦っているのだ。
玲子「ねえ。本当にこんなところから出られるの!」
ねむ「大丈夫。きっと出られるから」
美女木「いや…引き返そう」
ねむ「どうして?」
美女木「ここから脱出するのは不可能なんだよ」
ねむ「それじゃあ永久に閉じ込められたままだよ」
美女木「ああ…永久に生き続けよう。監獄の中で!ねむ!」
歌華「何で連れていっちゃうの!」
行っちゃった…
“ああ、絶望。死ぬことすら自由でないこの牢獄。死生の本質を一貫するこの永遠の「生命」という牢獄。さようなら”
抜粋
梶井基次郎「ある崖上の感情」
島田清次郎「地上」