テラーノベル
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道枝駿佑が真理亜をカフェに誘い、
ふたりで帰ってきたその夜。
シェアハウスの空気は、静かに――しかし確かに、変わっていた。
夕食後。
ダイニングで皆が何となく雑談を交わす中、西畑大吾はひとり、自室の窓辺に座っていた。
大吾:(……やっぱり、今は思い出してくれたけど、あの時に言うべきやったんかもしれへん)
小さなカフェの前で、楽しげに笑っていた真理亜と駿佑。
それを偶然見かけてしまった大吾は、何も声をかけずに、立ち尽くしただけだった。
大吾:(真理亜は、記憶をなくしてる。俺との過去も、全部……思い出したことも……でも、それでも……)
駿佑の“まっすぐな言葉”が、心を刺した。
一方その頃、リビングでは丈一郎がゲームをしながらも、ちらりと駿佑を見ていた。
恭平も、何も言わないが、目の奥には読めない表情が浮かんでいる。
流星は、真理亜の表情をずっと観察していた。
彼女の笑顔が“いつもの笑顔”なのか、“照れてる笑顔”なのかを。
その夜、真理亜が歯磨きをしていると、ふいに背後から声がかかった。
大吾:「……ちょっと、ええかな?」
振り返ると、そこに立っていたのは――大吾だった。
大吾:「真理亜ちゃん。ちょっとだけ……話せる?」
屋上。
夜風に髪が揺れる中、大吾は柵にもたれて、視線を遠くに向けた。
大吾:「今日、みっちーとカフェ行ってたんやろ?」
真理亜:「うん。たまたま、誘われて……」
真理亜は、少し申し訳なさそうに笑う。
大吾はゆっくりと言葉を選ぶように、話し始めた。
大吾:「……俺、な。昔、真理亜ちゃんに助けられてから、ずっと“守りたい”って思ってた。でも、今日駿佑が先に動いたの見て、ちょっと……いや、正直めっちゃ悔しかった。真理亜の記憶がないってわかってても、言ったけど忘れてしまっているってわかってても、“その記憶がなくても、俺を見てほしい”って思ってる自分がいて……」
風の音が、しばらくふたりの間を埋める。
大吾:「……嫉妬してるんやと思う。俺。みっちーの真っ直ぐさに。そして、真理亜ちゃんの笑顔が誰かに向いてることに」
真理亜:「……大吾くん」
真理亜は、言葉が出なかった。
記憶を失った自分。
そして、その自分を知っていてもなお、想いを寄せてくれる大吾。
彼の真剣な目が、まっすぐに自分を見ていた。
大吾:「ごめんな。重たいこと言うて」
大吾はそう言って笑った。
でも――その笑顔は、明らかにいつもの穏やかさではなかった。
その背中を見送るとき、
真理亜の胸の中で、確かな痛みが波紋のように広がっていった。
真理亜:(……私、誰かを“選ぶ”ってこと、これから……ちゃんと考えなあかんのかな)
――それは、静かに投げられた“嫉妬という名前の矢”。
七人の想いが、真理亜の中心で交差しはじめる。
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