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「楓は、まだ僕のこと好き?」
咄嗟に出た言葉。聞きたかったけど、本当に聞くつもりはなかった。相手が困るのを分かっていたから。早く質問を訂正しろ。楓が答える前に…
「好きだよ。」
「…え?」
好き?楓は僕のことをまだ好きなの?
「今はもうちゃんと区切りをつけられているから…。だから、戻ってきたの。」
「俺も、黙ってて悪かった。楓が、自分から春樹に伝えるって言ったから。」
なんだ。ちゃんとお互い理由があったんだ。それに、楓はまだ僕のことを好きでいてくれてる。それなら…!
「楓。」
「なに?春樹くん。」
「僕と、付き合ってください。」
「はい。もちろんです。」
もう叶わないと思っていた恋が、また実ったのだ。今度こそ、楓と離れるなんてことが起きないように、もう離さないと言わんばかりにそっと楓を抱きしめた。
気付いたら朝だった。日付は入学式の次の日。はじめは昨日の出来事は夢だったのではないかと思ったけれど、スマホのバイブ音でそんな疑いもすぐに晴れた。バイブ音の正体は楓からメッセージだ。
『春樹くん、おはよう。今日から一緒に学校に行かない?クラス同じだし、付き合ったんだし…。』
楓の文面から照れていることが手に取るようにわかって、こちらも少し照れてしまう。そう、僕は昨日、楓ともう一度付き合うことが出来た。この時を何度夢に見たことか。
『うん。わかった。そっちに迎えに行くね。』
楓に返信をして、準備をしようとしたらまたしてもバイブ音が鳴った。楓からの返事がもう来たみたいだ。
『やったー(#^^#)私が春樹くんの家まで行くから、待ってて!』
顔文字まで使って、可愛らしい文面。考えたくもないが、本当に夢みたいだ。早く準備をして楓を待たせないようにしないと。
ピンポーン
僕の準備が終わった頃に、家のチャイムが鳴った。ドアを開けるとそこには女神…じゃなくて、楓が立っていた。
「春樹くん、おはよう。」
その微笑みは女神そのもの。だけど、少し顔が赤くなっていることから人間味が出てくる。
「おはよう、楓。それじゃ、行くか。」
「そうだね。」
歩きだしてからはお互い恥ずかしさからなのか、何も喋らない。いや、喋れない。僕が横目で楓を見てみると、楓は顔を真っ赤にして俯いている。
「あ、ちょっと春樹くん!見ないでよ…。」
「ごめんごめん。」
謝りつつも可愛いなぁとそのまま見続けていると、楓は中学の時からなにも変わっていないなと思った。変わったと言えば制服ぐらいだろうか。背中まである長い黒髪も、手足の白い肌も、少し青みがかった瞳も、全てがまるで人形のように整っている。人は数年ではそんなに変わらないのだろう。僕も変わっているような気はしない。
「ね、ねぇ、私、顔になにかついてる…?」
「いや、なにも?楓は中学の頃と変わってないなぁと思って。」
「えっ?いや、それは…。」
楓はなにを焦っているんだ?まさか、なにかやましいことが…。
「春樹くんが、この私を好きって言ってくれたから…。」
「そっ、そうなんだ〜。」
特大爆弾を落としてきた。平然を装うも見るに堪えないものだろう。そして、学校に着いてもなお顔が赤い僕たちを見てクラスメイトに質問攻めされた。クラスを覗きに来た圭に笑われたのは言うまでもない。
結局、1日中クラスメイトに質問され茶化された僕と楓はボロボロになりながら帰路についた。
「楓、朝にあれは、駄目だろ…。」
「だ、だって、本当なんだもん。」
文句は言ってるが、実際嬉しい。前に付き合っていた時は中学生。一緒に登下校などはしたものの、気恥ずかしくてまともな会話をした覚えがない。今でも思い出しただけで恥ずかしい…。過去のイタイ自分を振り返っていると、隣からふふっと笑い声が聞こえてきた。
「なにさ。」
「ごめんね。春樹くんの顔がコロコロ変わるのが面白くて。」
そのまま楓は笑い続ける。前に僕と付き合っているときの楓は微笑むだけだった。多少は声を出して笑うときもあったが、こんなに笑っている楓は初めてだ。変わっていないと思っていたけれど、そうでもないのか?
「楓、好きだよ。」
「突然!?えと、私も好きだよ。もしかして、疑ってる?」
「いや、言いたかっただけ。」
変わったか変わってないかなんてどうでもいい。僕は楓が側に居る、それだけでいいんだ。それに…。
「付き合ってるときって、みんなこんな感じなのかな…。でも確かに好き好き言ってる気が…。」
この初々しさも僕には結構刺さる。まぁ、僕も傍から見たら初々しいんだろうけど。
「ほ、他のカップルもこんな感じなのかな!?」
「ん?なにが?」
聞きたいことはわかるけど、意地悪で聞いてみる。
「え!?えっと…他のカップルもお互いに不意に好きって言い合うのかな…って…。」
「僕にはわからないけど、他のカップルと同じじゃなくてもいいんじゃない?」
「で、でも、私にはわからない…。」
自分に自信がそんなにないのか?楓らしくない。
「僕もわからないから大丈夫だよ。」
「う、うん…。」
楓の言葉、行動の全てが愛おしい。この春がずっと続けば、今の楓をもっと楽しめるんだけどな。
それから暫くして、僕たちは夏を迎えた。