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設楽理沙
1,530
「あなたは私の婚約者なのよ!?なぜ触れないのよ!」肌着姿のジョセフィーヌ様の絶叫が響き渡る。
私は思わず耳を塞いだ。
ギルフォードが私を庇うように背後に隠す。
私は知っている————ジョセフィーヌ様とギルフォードが婚前交渉をしてしまえば、この結婚からはもう絶対に逃れられないのだ。
ジョセフィーヌ様は既成事実を作りたいがために、ギルフォードとの接触を何度も何度も試みている。
(心がない相手との結婚なんて……誰も幸せにならないわ!)
私はジョセフィーヌ様を見つめた。
——————————————————
「殿下、お迎えありがとうございます」
ジョセフィーヌは深々と頭を下げる。
ギルフォードは腕を組みながら不機嫌そうに「……まあ、体裁が悪いからな」と言った。
ミラはそれを聞いてピクリと眉を動かす。
ジョセフィーヌは眉を下げた。
わざわざミラの前で言わなくても——と。
ミラはジョセフィーヌのことをかなり慕ってくれているのか、四六時中傍にいてお世話をしてくれている。
小説によると今までジョセフィーヌはかなりキツく当たっていただろうに。
ギルフォードは形だけのエスコートをして馬車にジョセフィーヌを乗せると隣に座り、彼女の肩を抱いた。
(…………)
「あの……」
ギルフォードをジョセフィーヌが見上げると、彼は何を思ったか……その唇に触れるだけのキスをする。
(!!?)
「……こ、婚約者だからな」
ギルフォードはジョセフィーヌの肩をギュッと抱き寄せて、小さな声でそう言った。
(…………どうしよう!キスまで進んでしまうとは!)
ジョセフィーヌは必死に小説の内容を思い出していた。
ジョセフィーヌに処刑の前————何があったかを。
(思い出して……ジョセフィーヌは何がきっかけで処刑されてしまうんだったか……)
「気を付けろよ、足は大丈夫なのか」
ギルフォードはジョセフィーヌに手を貸すと、下車する彼女にそう声をかける。
「だ……大丈夫でございます。ご心配お掛けし申し訳ございません」
「…………」
ギルフォードはジョセフィーヌの腰を抱き寄せると無言で歩き出した。そしてジョセフィーヌは思い出していた。
(そうだ——ちょうどこの時期、結婚を間近に控えた頃にジョセフィーヌは殿下に媚薬を仕掛けるのだわ)
それが処刑のきっかけだった気がする。
このままではジョセフィーヌが仕掛けない代わりに、ギルフォードが自ら媚薬をゴクゴク飲み干す気がしてきた。
挨拶を終え、ジョセフィーヌは出来るだけギルフォードの邪魔にならないように気を付けていた。なぜなら……自分のせいでアイリスとギルフォードがあまり親密になれていないような気がしたのだ。
(でも……離れようにも……)
ギルフォードはジョセフィーヌの腰をガッチリとホールドしている。
「殿下、私夜風に当たってまいります♡」
「……落ち着かん女だ」
ジョセフィーヌが庭に行こうとすると、ギルフォードもキレながらついてくる……
「殿下あの……私一人で平気でございますゆえ」
「危ないだろうが」
(ち……違う!違うの!違うのにぃ!)
「…………お優しいんですね♡」
「…………体裁が悪いからだ」
(婚約者を処刑するほうがよっぽど体裁が悪いんでございますぅ!殿下!お願いします!抵抗せず素直に幸せになってくださいまし……!あ)
「殿下はどのような女性がお好きですか?」
「…………下らん、なぜいまさらそんなことをきくのか」
ジョセフィーヌはまだギルフォードがアイリスへの愛に気付いていない可能性がある、と話しかける。
美しく整えられた庭には、夏の花が満開に咲いている。
「気になりますゆえ」
「……聞いてどうする」
「………………参考にさせていただきたく」
前を向いたままのギルフォードにジョセフィーヌは小首を傾げて言った。
「ふ、なるほどな」
「髪の色のお好みはございますか?」
「……まあ何色でもよい。好きな色にしろ」
「なるほど……好いた女性の色がお好きになられるということですか?」
ジョセフィーヌは脳裏にアイリスを思い浮かべる。
彼女は貴族にしては珍しい髪色をしている。
「茶色とか……」
「まあ、いいのではないか?」
ジョセフィーヌはギルフォードの言葉に(恋心に気付いてきてる……!)と確信する。
「性格はどうですか?可愛らしい方がいいですか?」
「……ありのままで問題ない」
なんと心の広い……愛する女性の全てを受け入れようとするギルフォードの姿勢に、ジョセフィーヌは感動してしまった。
「明るい性格の女性は素敵ですよね?」
「まあそうだな。ニコニコしている時は安心するな」
「やはりそうでございますよねぇ」
ジョセフィーヌはうんうんと頷いて秒読みであろう恋の始まりに甘酸っぱさを感じていた。
「…………」
ジョセフィーヌがニコニコしているとギルフォードがハッとしたように立ち止まる。
「殿下?」ジョセフィーヌはギルフォードを見上げた。
「こっちに来い」
ギルフォードはジョセフィーヌを引っ張ると木の陰に隠れた。(どうしたのかしら……?)
ジョセフィーヌが口を開こうとしたのを察したのか、ギルフォードが口を手で覆う。
ジョセフィーヌは慌てて言葉を引っ込めた。
「こっちに来たのを見たのですが……」
「いない。いや、ここでする会話じゃないな」
男女のコソコソとした話し声が聞こえる。
ジョセフィーヌは気付かれないように息を殺した。
ギルフォードが辺りを伺っているのを感じる。空気が張り詰めている。ねっとりとした真夏の空気がジョセフィーヌを包んだ。
「斜め後ろと12時の方向に影がいる」
「……え?」
ギルフォードがポツリと呟き、ジョセフィーヌを抱き上げて走り出した。
「で、で、で、で、で、殿下」
「強行突破しかあるまい」
ギルフォードは庭を駆け抜けると作業道具が入っているであろう小屋に飛び込んでジョセフィーヌに覆いかぶさる。
ギルフォードはジョセフィーヌの唇を割って、舌を差し込むキスをした。ぬらぬらと絡み合う粘膜にジョセフィーヌの脳はトロリと蕩けていく。
小屋の中はむせ返るように湿気を帯び、暑い。
ギルフォードがガチャガチャとベルトを外すとジョセフィーヌの下着を脱がす。
(え……!)
「すまん、こうするしかない」
「殿下……お、お辞めくださいまし」
(こんなことをしては私と婚約解消出来なくなってしまいませんか!?)
「俺の幸せを願ってくれておるのだろう……」
ギルフォードはジョセフィーヌの目を覗き込むように言うと彼女にキスをして、彼女の陰部に陰茎を当てた。
————————頭が痛い————————
「ジョセ?ジョセ……」
「…………お母様…………」
ジョセフィーヌが目を開けると涙でぐちゃぐちゃの母親が手を握っていた。
あれから小屋に警務隊が突入してきた。
ディードリッヒが指揮をとる中、ギルフォードは拘束されジョセフィーヌは保護された。
——ギルフォードはアイリスと結婚するためにジョセフィーヌに毒を盛っていたことが判明したそうだ。
ジョセフィーヌの昏睡はそれが原因だったそう。
小説も全てギルフォードが仕込んでいたもので、毒で朦朧としたジョセフィーヌの記憶を曖昧にし、アイリスとの関係を認めさせるための策略だったそう。
そしてその協力者はミラだった。
ミラはアイリスの実母で、男爵と不倫の末身籠ったアイリスを後に男爵家にとられている。実の娘を幸せにしたいと願ったゆえの犯行だったようだ。
「ギルフォード様が……」
「気付かなくて悪かった……」父はガックリと項垂れている。
「そもそもミラは初めからおかしかったのよ……!ミラが使用人になった瞬間、他の専属使用人が辞めてしまったのよ。その時は自分一人で三人分の働きをするからって……その時にもっと疑っていれば……うう。他の使用人もミラが辞めさせてしまったんだわ」
それも全て犯行を行いやすくするためだったようだ。
ジョセフィーヌは胸が押しつぶされそうになる。
ギルフォードが……自分を殺そうとした?
「うう……」
一人になった部屋でジョセフィーヌはギルフォードから貰ったぬいぐるみを眺め、大きく振りかぶってそれを壁に投げつけようとした。
————けれどやめた。
涙で前が霞んで見えないし、何よりも……このぬいぐるみはかわいいからだ。
「う…………ギルフォード様、嘘だと言ってくださいまし」
ジョセフィーヌはぬいぐるみをギュッと抱き寄せてそう呟いた。
「ウソだ」
「…………え?」
ジョセフィーヌは驚き……ぬいぐるみから身を離す。
空耳だろうか……
ブルリとぬいぐるみが震えた気がして……ジョセフィーヌはそれをそっとベッドに置いた。
(怖すぎる…………)
するとぬいぐるみはゆっくりと起き上がり——「動きづらいな」と言ったのでジョセフィーヌは静かに目を閉じたのでした。
コメント
1件
うわあ…めっちゃ重い展開になったね…。ギルフォードがジョセフィーヌを♡♡♡うとしてたって…しかもミラまで協力者だったなんて衝撃的すぎる。でもぬいぐるみに「ウソだ」って言われて閉じちゃうラスト、なんだか不気味で鳥肌立ったよ…。ジョセフィーヌの「嘘だと言ってくださいまし」に胸がギュッてなった。続きがすごく気になる…