「今日も今日とて張り切っていきますか」
ばいとをはじめてから早1週間が経った。普通に楽しいし何より店長が頑張ったお礼にお昼シュークリームをくれる。お金くれるより嬉しい。
「シューはシュークリームのシュー♪」
鼻歌(?)を歌いながら店の準備をする。
1週間もやっていればさらさらとできるものだ。あとはエプロンをつけるだけ、そんな時…
カランカラン…
お客さんだ、あ、エプロンまだつけれてない。
「い、いらっしゃいませ…あ」
「…」
いつものあの人だ。
この1週間、いつも来てくれる人。
いつも同じ注文だから覚えやすい。”いつもの”でまかり通ってしまうほどには
「また来てくれたんですね」
「…あぁ」
そして、一言二言話す間柄になった。
名前も何もかも知らない人、知ってるのはうさぎが好きということだけ。
…名前、聞ければいいけど…そんな勇気、僕には無い。もし気持ち悪いとか思われたら立ち直れない気がする。
「いつものでいいですか?」
「あぁ、構わない」
コーヒーを作っている間にふと、思い出した。…..そういえば、この間レモンちゃんが持ってたコーヒーカップに絵が書いてあったことがあったな。…レモンちゃんの名前と一緒に…
「…ハッ」
そうだ、どさくさに紛れて名前が聞ける…と思ったけど、別に名前なんて入れなくていいことに気がついた。
じゃあせめて、うさぎの絵でも描こうかな。
「ペンペン…(パタパタ」
「…?(いつもより長いな…)」
キュッキュッとペンを走らせていく。
…するとできたのは等身が凄いことになっているうさぎ。…我ながら上手くできた
「どうぞ」
「…….なんだこれは」
渡したら眉間に皺を寄せていた。あれ…?失敗しちゃったかな…
「うううううううさぎです…」
「…うさぎは5等身じゃない…せめて2頭身だ。」
「あ、え、あ、はい」
普通に叱られた。
するとお客さんはポケットから名刺を出して、裏になにか描き始めた。
「うさぎはそんなにごつくない。小さくふわふわしている。」
「は、はい」
「あと、指は5つ描くな、丸く書いたらそれっぽくはなるだろ、ただのクリーチャーだぞ、それは」
「…はい」
うさぎのこととなるとすごく熱が伝わってくる。本当に好きなんだな…
そうして名刺の裏に出来た可愛らしいうさぎを見て思った。
…あれ、これ名刺…ってことは…
「それじゃあ俺はこれで…」
「ま、待ってください!」
「?、なんだ」
「こ、この名刺、見本として貰ってもいいですか!」
「…..好きにしろ」
またぶっきらぼうに言い放つ。
その人の目を盗んで表にある字を見る。
…….レイン・エイムズ…
「…レインくん…(ボソッ」
かっこいい人は名前までかっこいいのだろうか、やっと名前が知れて嬉しかった反面、僕が手を出してよかった人なのか、少し気になってしまった。
…..よく見ると、電話番号のような数字を見つけた。…あれ、もしかして電話できるのかな…..
「…..それは会社の電話番号だぞ」
「えッ!?」
あ、あれ、まだ帰ってなかったの?と、多分顔に出ていたのだろう、しかめっ面だ。
「………俺の電話番号はこれ」
そう言って彼は…レインくんは可愛らしいうさぎが描かれたのと違うところに数字を書いていく。
「かけるならこっちにしろ、いいな?」
「えっと…はい…」
「それじゃあな、また来る…..マッシュ」
てことは電話かけてもいいってことなの?…….ていうか…いま…名前呼ばれた…?なんで…教えてないのに…
「…あ、名札…」
エプロンに着いている名札に気がついた。そうだ、そういえばあった。…..この時はじめて、名札に感謝した気がする。
「………….顔…あつい…」
名前と一緒にわかったことがひとつある。
………..レインくんはずるい人だ。
コメント
2件
ドチャクソ好きです💪