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それから三日も経たず、待ちかねていた朗報が入ってきた。
騎士団の資金が不正に抜き取られ、倉庫から武器がごっそりと盗み出されたらしい。そこには騎士たち個人の剣なども保管されており、物によってはとてつもない値がつくそうだ。
その容疑者として名が挙がっているのが、ネビル・ブレイドであった。
彼は事件当時のアリバイとして、メリーティアと会っていたと証言したらしい。
だが犯行が起きた昨日は顔を合わせていない。おそらくネビルは、メリーティアならば自分をかばってくれると考えたのだろう。
ハイゼンベルグのタウンハウスにやってきた騎士から説明を受ける間、こみ上げる笑いを堪えるのが大変だった。
金を貸してくれるところもなくなり、追い込まれたネビルが問題を起こすことは想像に易かった。だがまさか騎士団の金品に手をつけるとは浅はかな男だ。
しかし前の人生でもグウェンダルの剣を盗み出したのだから、彼にとってこれはそう難しいことではなかったのだろう。
結果的に何が起こったのかを思い出すと嘲笑が怒りへと変わる。
そのときは上手くはぐらかしたか、皇后がかばったのだろうけれど、今回はそうはさせない。
メリーティアは参考人として騎士団の詰所へと招集されることになった。
ドレスの隠しポケットにあるものを忍ばせて馬車に乗る。
ネビルはメリーティアが来るまで動かないと主張し、現場となった倉庫で抵抗を続けているそうだ。
現れたメリーティアを目にした途端ネビルはぱあっと表情を明るくして、騎士たちに押さえつけられながら這い寄ってきた。
しかし間にグウェンダルが立ちはだかると、憎々しげに顔を歪める。
騎士団内で起きた問題なのだ。彼も捜査に加わって当然であった。
「どけよホールトン! なんだよみんなしてっ、証拠もないのに仲間の僕を疑うのか!?」
「ネビル、何度も言うが騎士団の金庫を開けられるのは団長であるわしと会計係、そして副団長のおぬししかおらんのだ。会計係は昨日ずっとわしと皇宮に出向いておった」
「団長もどうして僕を信じてくれないんですか! だから鍵は盗まれたって言ってるじゃないですか!」
「倉庫の鍵を持っているのもわしとおぬしのふたりだけだ。それも盗まれたというのか」
「そうですよ。それしか考えられません」
「だが盗まれた剣をおぬしの家の使用人が売りにいくところを見たという者がおる」
老齢の騎士団長に諭されるが、ネビルは決して犯行を認めようとはしなかった。
「状況証拠しかないじゃないですか! それだけで犯人だと決めつけるのは遺憾ですよ。きっと誰かが僕をハメようとしてるんです。それに僕は昨日メリーティアと会っていたんだ! そうだろう、メリーティア!」
希望に満ちたまなざしで見つめられ、メリーティアは怯えたふうに騎士たちの背に隠れた。
「そうだと言ってよメリーティア! お願いだ! 僕を愛しているんだろう!」
(そんなわけないでしょう)
メリーティアはタイミングを見計らい、突然「あ!」と声を上げる。
それから倉庫の奥のほうへ走っていって物を拾うような仕草をした。
「……おい、現場を荒らすな」
追いかけてきたグウェンダルに強く腕を引かれる。
彼はメリーティアが何かを持っているのに気がつくと、強引に手を開かせてきた。
「――これは」
ネビルのカフリンクスだ。
毎日仕事のシャツにもつけていると言っていた。ネビルがグウェンダルにも見せつけたと言っていたため、彼も見覚えがあるはずだ。
「ここに落ちていたわ」
「……おかしいな。さっきはこんなもの落ちていなかったんだが」
それもそのはず、隠しポケットに忍ばせていたものであった。
拾ったように見せかけて素早く取り出したのだ。
「……わたしがネビルにプレゼントしたものだわ。オーダーメイドだから、世界にひとつだけしかないのに。あぁそんな……それじゃあまさか本当にネビルが犯人なの……?」
こういったこともあろうかともう一セット用意していてよかった。言い逃れできないように追い詰めてやれる。
グウェンダルはメリーティアの手からカフリンクスを取ると、ネビルの目の前に突きつけた。
「これはあなたのものか?」
「なんでこれがここに……? 僕は昨日カフリンクスをつけていなかったのに――――あ」
「昨日ここにいたことを自白したな。連れて行け」
グウェンダルの指示でネビルが騎士たちに引きずられていく。
彼はメリーティアに縋ろうとしたが、グウェンダルに阻まれて手が届くことはなかった。
「メリーティア! メリーティア! 全部君のためにしたことだ! 君の心を繋ぎとめておきたかったから! メリーティアを愛しているんだ! 僕が釈放されるまでどうか待っていてくれ……!」
しつこく食い下がるネビルに向けて、メリーティアはポケットからカフリンクスをもう一個取り出してみせた。そして口の片端を吊り上げて小馬鹿にしたように笑う。
ネビルはハメられたことにようやく気づいたらしく、呆然とした様子でがっくりと項垂れる。
その後は抵抗することもなく、騎士たちに連行されていった。
(拍子抜けするくらいかんたんだったわね)
メリーティアに夢中になるあまり借金をし、盗みまで働いたのはネビルの自業自得だ。
しかしここまで目論見どおりになるとは思わなかった。幸先がよすぎて怖いくらいだ。
「……私と別れてまで君がしたかったのは、こんなことなのか?」
一連のやりとりを盗み見ていたらしいグウェンダルに静かに問われ、メリーティアは肩を揺らした。
「そうよ。愚かな男が破滅していくさまほどおもしろいものはないわ」
うっそりと笑うと、グウェンダルに手首を掴まれ至近距離まで迫られた。
鋭い眼光に貫かれ、メリーティアは密かに息を呑む。
グウェンダルにこのような表情を向けられたのは初めてだった。
しかし彼が怒るのも当然だろう。前回のことを知らないグウェンダルからしてみれば、メリーティアはネビルの心を弄び、盗みを働くに至るまで散財させた諸悪の根源だ。
そのうえ見捨てたのだから、彼の目にはメリーティアがとんでもない悪女に映っているだろう。
言い訳をするつもりはない。罵られても仕方がないと腹を括っている。
それでもグウェンダルを守りたいから、どんなに悪く思われようと今さら足を止める気は一切なかった。
「満足したか? それとも、まだほかの男を彼のように弄ぶつもりか?」
「……離してよ。あなたには関係ないわ」
「もうやめろ。いつか君が身を滅ぼすぞ。弄びたいなら私を弄べばいい」
「あなたを弄んだっておもしろくないわ」
グウェンダルの手を振り払い、メリーティアは騎士団の詰所をあとにした。
*
その後ネビルは横領と窃盗の罪で捕まり、獄中で自ら命を絶った。借金までして貢いだ女に捨てられ、生きる意味を見失ったらしい。
そしてトリーには、ネビルの借金だけが残った。
期限までに返済が間に合わず屋敷を奪われ、爵位を売り、首が回らなくなったトリーは最終的に実家に助けを求めた。しかしネビルがよりにもよって高利貸しに金を借りていたため、そのときには借金は倍以上に膨れ上がっていたそうだ。
実家からも見捨てられたトリーは借金取りから逃げる生活を余儀なくされ、風の噂によると今はスラムにいるらしい。
その日暮らしていくだけの蓄えもなく、かといって娼婦として働けるほど見目もよくないため、そこで単価の安い立ちんぼをして日銭を稼いでいるとか。
トリーの落ちぶれた姿を目に焼きつけたかった。
あの日メリーティアを嘲笑ったように、彼女を笑ってやりたかった。
トリーが立ちんぼをしているという路地にわざわざ出向く。
蹲っているトリーは薄汚れた布切れのようなものを着て、髪も肩より短くなっていた。何日も洗っていないのか皮脂でべとついており、異臭が漂っている。
彼女の前に銅貨を落とすと、目の色を変えてそれを拾ったトリーが弾かれたように顔を上げる。
客だと思ったのだろう。へらへらとした笑みが途端に凍りついた。
「……メリー、ティア……?」
「ごきげんよう、トリー」
「――なに笑ってんのよ」
「愉快だからよ」
「愉快ですって? 全部あんたのせいなのに! あんたのせいでネビルが死んだのよ? 人をひとり殺しておいて笑っていられるなんて信じられないわ! それにあたしをこんなに惨めな姿にしたのもあんたよ!」
メリーティアはトリーを鼻で笑い飛ばした。顎をツンと上げ、ゴミを見るようなまなざしでトリーを一瞥する。かつて彼女がしたように。
「不幸を招いたのはあなたとあなたの夫自身よ。身の丈に合わない地位を望んだあなたの夫と、わたしへの劣等感にまみれたあなたの汚れた心が自分たちを地獄へ堕としたの。こんなこと、今のあなたに言ってもわからないでしょうけれど」
にっこりと微笑むメリーティアの顔を両目に映して、トリーは何の言葉も出ない様子だった。
トリーのこの顔が見たかったのだ。あの日グウェンダルが処刑された場で、死んだ彼とメリーティアをトリーが嘲笑ったように、彼女にも絶望を味わわせたかった。
人を死に追いやった罪悪感がないとは言わない。今はまだ罪がないからといって彼らを放置したままだったら、またあの悲劇が起こるのだ。だから心は晴れやかだった。
踵を返してその場を去る。背後からはいつまでも恨みのこもった叫び声が聞こえていた。
もあ
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鬼霧宗作
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#復讐
りう。
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さぶれ-SABURE-
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