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「おはようございますー」


翌朝、夏菜が社長室に行くと、有生ゆうせいが、

「言われた通り早くに来たのか。

感心だな」

と言ってきた。


褒めてくれているようなのだが、口調は妙に感情を押し殺したように淡々としていた。


「あ、そうだ、社長。

雪丸さんは無事、うちにたどり着いて、住み込みで働いてますよ」

と教える。


「……誰だ、雪丸って」

「シスコンさんです」


ああ、と言った有生に雇ってもらえるよう売り込んであげようと、夏菜はその働きぶりを伝えた。


「雪丸さん、昨夜は薪でお風呂沸かしたり、湯加減まで訊いてきたり。

朝は朝で、早く起きて道場の掃除とかして。

せっせと働いてますよ」


微笑ましく思いながら、そう言ったのだが、何故か、有生は、

「……やはり、殺しておくべきだったな」

とぼそりと言ってくる。


ひっ、と夏菜は、銀次以上のその迫力に固まる。


いや、殺しに来たの、あっちですよね……?

と思いながら、


「失礼しましたーっ」

と飛んで逃げた。




夏菜が逃げ去ったあと、横にいた指月が有生に言ってくる。


「……社長も藤原の道場に入門しますか?

お風呂入ってる藤原に、窓の外から湯加減訊けるかもしれませんよ」


「何故、この俺がっ。

莫迦じゃないのかっ」


もう出るからなっ、とデスクの上の鞄をつかんだ。


「はいはい」

不遜ふそんな秘書は適当な返事をし、見送りについてくる。




まったく莫迦じゃないのか。

この俺があんな小娘に気があるみたいに指月の奴。


焼きが回ったな、と思いながら、有生ゆうせいが新幹線に乗っていると、向こうからマフィアがやってきた。


いや、マフィアでなかったら失礼なのだが。

そうとしか見えない男がやってきた。


実際にはボルサリーノのハットもかぶってなければ、首にマフラーもやってなかったのだが。

その顔つきだけで、今にも禁煙の車内で葉巻をくゆらせそうに見えた。


……目は合わせまい、となんとなく視線をそらす。

だが、ぴたりとそのマフィアは真横で足を止めた。


空いてません、と思わず心の中で言う。


グリーン車なので、席は指定だし、隣は指月だ。

座るはずもないのに、らしくもなくビクついてしまう。


そちらを見てはいないのだが、眼光鋭く自分を見ている気配がしたからだ。


……見られている。


見られている。


何故だ、と思う。


そのとき、トイレから戻ってくる指月の姿が見えた。

まるで、指月が自分の連れだとわかっているかのように、マフィアは、すっといなくなった。


車両からもその気配が消えたころ、指月が席に戻ってきたが、指月は座らずに、今、マフィアが消えた方向を見ていた。


「……今の男、かなりの手練てだれですね。

何者でしょう。


社長をずっと見ていたようですが」

と警戒して言ってくる。


「まあ、殺し屋なら、あんな目立つ感じに現れたりはしないと思いますが」

とちょっと笑って指月は腰を下ろした。


「そうだな」


自分を狙ってくる人間にしては、いきなり突っ込んで来るでもなし。

隠れて見張っているでもなし。


だが、そのとき、ふと不安になった。


「上林みたいに用意周到な奴じゃなくて、行き当たりばったりに突っ込んでくる奴がいたら。

俺が不在なのも知らずに、社長室にいきなり鈍器持っていったりしないだろうか」


頭の中では、藤原夏菜が暴漢にやられて、きゅう~と目を回したハムスターのように社長室に倒れていた。


「あの……藤原は下手したら、私より強いですからね。

見た目はあんな風ですが」

と頭の中を読んだように指月が言ってくる。


「社長がボディガードの心配してどうすんですか」


「別にあいつの心配なんてしていない。

今のマフィアみたいな奴を見て、会社が心配になっただけだ」


そう言い返したあとで、ふと有生は呟いた。


「今の男、まるで、マフィアみたいだったのにな。


何故だろうな。

真横に立たれたとき、子どもの頃、親戚のうちでやったゲームのスリの銀次って奴を思い出したよ。


新幹線だからかな」


スリの銀次は新幹線でいきなり金をスッてくるからだ。


指月も意外にも同じゲームをやったことがあるらしく、ああ、と言って笑っていた。




……ああ、怖かった。


銀次は離れた位置から有生たちのいる車両を窺いながら思う。


あれがお嬢を祟り殺すとかいう、向こうの七代目か。


坊っちゃん育ちのボンクラかと思っていたのに。

気を抜いたら、食い殺されそうな気配を発していた。


後から戻ってきたあの秘書も怖い。

ほとんどの人が寝ているグリーン車で、あの二人だけが起きてる猛獣というか。


あそこだけサファリパークみたいだ。


お嬢は、あの男を見張るためなのか知らないが、今日もいそいそ朝も早くから仕事に行かれたが。

そんな会社で働いたりして大丈夫なんだろうか。


銀次の頭の中では、可憐な夏菜が二頭の猛獣の餌食になっていた。


指月がいたら、

「いや、襲いかかったら、こっちが食われますから」

と言うところだっただろうが。






今夜、あなたに復讐します

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