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──久我 貴仁さんと会ってから、ひと月余りが過ぎて、気になっていた彼のことも、少しずつ記憶から抜け落ちようとしていた。
ネットニュースなどでは、時折『KOOGAの若きトップの手腕』などという、彼のことを評価する記事を見かけたけれど、自分には関わりがないからと思えるようにもなっていた。
「……彩花ちゃん、どうやら何も心配はないみたいで、よかったわ」
作業中に菜子さんから、そう声をかけられて、
「ええ、もう大丈夫ですから」
笑って返した──正直、くすぶっていた胸の内も、ようやく吹っ切れそうな感じだった。
「そうだ、さやちゃん、お昼はいっしょに食べましょうか?」
「はい」と頷く。菜子さんとのランチは久しぶりで、単純に楽しみに思えた。
会社近くの定食屋さんに入って、注文をし終えると、
「そういえば、」と、菜子さんが口を開いた。
「久我さんの息子さん、二代目を継いだわね」
いきなりの話題に、グッと言葉に詰まる。
「久我さんとは、あなたのお父さんの慎一社長と、お母さんの友梨恵さんと、揃って同窓生でね」
ああそういえば、そんな話を父もしていたっけと思う。
「息子の貴仁君と、彩花ちゃんも、ちょうど同い年くらいでしょう?」
「そ、そうですね……」苦笑いを浮かべて答える。
「まだ若いのに、凄いわよね。あの巨大企業を背負うなんて」
「えっ、ええ……」確かにそれは凄いと思うし、あることないこと書かれるネット記事にも、批判するようなことが何も噴出していないのは、やっぱりそれだけ大した人なんだろうなとは思っていた。
ただ、あの出会いが思い浮かぶと、彼の本性って一体どっちなんだろうという疑問が、またむくむくと頭をもたげるようだった……。