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【第一章 暁の礎(いしずえ)】
──リセリオ共和国・王都リベルニア。
その中心に建つのが、共和国士官養成機関「ラティール高等軍学校」である。
制服に袖を通すレオは、まだわずか十四歳。
けれどその眼には、同年代の誰よりも深い“炎”が宿っていた。
「……本当に、ここでやっていけるのかな」
制服の胸元を握りながら、レオは一人、門の前で立ち尽くす。
「君のような子が生き残ってくれて、僕は嬉しいよ」
かつてそう言ったのは、遊撃部隊の指揮官でもある青年──ユリウス・ヴァレンスタインだった。
──あの地獄のような夜から数週間。
レオの素質と意思を見たユリウスは、彼にこう告げた。
「だが__まずは軍学校に入学してもらおう。
何も知らないまま戦場に立たせるわけにはいかないからね。」
「ここで、知識と技術を学んでほしい。
君は“生き残った”だけじゃない。──“戦える素質”がある」
レオは頷いた。
復讐の火が胸の中で静かに燃えていた。
だがそれを制御する術を、彼はまだ知らない。
だからこそ、ここから始める。
正門を越えた先には、整然とした石畳と広々とした中庭。
練兵場では上級生たちが規律ある動きを見せ、校舎の窓からは真新しい生徒の声が聞こえてくる。
「──よう、そこの坊主」
いきなり背後から声をかけられ、レオはびくりと振り返った。
そこにいたのは金髪碧眼、長身の少年。
上級生らしき制服姿。隙のない所作。どこか冷たい雰囲気。
「名前は?
……新入生だろ」
「……レオ。レオ=ヴェレジア」
「ヴェレジア……あの“地区”の?」
「……そうだよ」
沈黙が流れる。だが、少年は嘲笑も哀れみも浮かべず、小さく頷いた。
「オレはエイデン。三年。お前がどんな理由でここに来たのかは知らない。だが──強くなりたいのなら、ちゃんと覚悟を決めろ」
それだけ言うと、彼は訓練場の方へ歩いていった。
レオは思う。
(……この学校、甘くなさそうだな)
突如背後から聞き慣れか声がする。
「やぁ、入学おめでとう。制服、似合ってるね」
石造りの渡り廊下で声をかけてきたのは、あの日レオを拾った青年──ユリウス・ヴァレンスタイン。
王家の血を引きながら、軍属として共和国に身を投じた異端の存在。
この学校にも時折顔を出す特別教官でもある。
「……あんたが薦めた学校、思った以上に規律がキツいぞ」
「ふふ、当然さ。ここは“未来の指揮官”を育てる場所なんだから。
でも、君の目──変わってないね。怒りも、覚悟も、まだ宿ったままだ」
「……まだ忘れてないからな。全部、俺の中に残ってる」
ユリウスはやや笑ってから、真剣な顔を見せる。
「だからこそ、君には“力の使い方”を学んでほしい。
怒りだけで剣を振るえば、君はいつか自分を壊してしまう。
……復讐は、君が生き残るための手段であって、目的じゃない」
「……分かってる、つもりだよ」
その目の奥に、燃えるものがある限り。
某日 訓練所にて、
「訓練科目A、熱操作系技能──標的破壊」
模擬訓練の最中、レオの前に人形型の標的が置かれる。
訓練場の隅では他の生徒たちが順々に挑戦中。
(呼吸を整えて……力を一点に……)
レオの掌に熱が集まり、白い煙が上がる。
「──っ!」
ドンッ!
爆音とともに標的が破壊され、背後の壁にまで衝撃波が到達する。
講師が眉をひそめる。
「威力は上出来だが、制御がまるでできていないな」
周囲の生徒たちがざわめく。
「おいおい、あいつ危ないって」「焦がす気かよ!」などと囁かれ、レオは拳を握る。
だがそのとき、ひとりの声が割って入る。
「いいじゃねえか。でかいだけの爆発なんて、男のロマンだろ?」
振り返ると、陽気そうな少年が笑っていた。
「ノルド・イーシュだ。お前みたいな変わり者、オレは嫌いじゃないぜ」
レオは小さく笑った。