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#ロマンスファンタジー
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しかしセンティという名の、この青年。毒の里の周辺の森を一人で歩き、しかも魔物に追われるとは……無茶すぎる。
「……王子様が危険な森を一人で歩き回るなんて、何事なの」
「え? 僕、王子だなんて一言も言ってないよ」
「見れば分かる」
「へぇ、リィラちゃん、すごいなぁ」
図星だったようだが深くは詮索しない。そもそもリィラは誰とも関わるつもりはない。
愛想のよい笑顔で『ちゃん』呼びしてくるセンティに悪意がないのも見て分かる。この里を汚す目的なら毒の針で刺してやろうかとも思ったが。
「でもリィラちゃんだって一人で森の中にいたよね」
「私は平気なの。だって……」
そう言いかけた時、リィラは右足の脛にズキズキとした痛みを感じて顔を歪めた。先ほどセンティに突き飛ばされた時に足を擦りむいていた。
「あ、リィラちゃん……その足……血が!」
「触れないで!! 見ないで、大丈夫だから!」
リィラは足の傷が見えないように後ろを向いた。センティが驚いたのは怪我に対してではない事は分かっている。
恐る恐る顔だけをセンティに向けると、彼は眉を下げて憐れむような顔をしていた。……当然の反応だ。
「驚いたでしょ? ……私の血の色」
「うん。紫色なんだね」
「そう……私自身にも毒性があるの。だから魔物も近寄らない。あなたも近寄らないで」
リィラは髪も瞳も……そして血の色すらも。全身が毒性の紫色に染まっている。
センティは全身を巻いている白いマントの中から何かを取り出した。そしてリィラの前まで歩み寄ると屈んで地面に片膝を突く。
「ちょっと、近寄らないでって……!」
「大丈夫だよ。ちょっと動かないで」
センティはリィラの足の脛、足首に近い部分の傷に白いハンカチを巻こうとしている。包帯の代わりなのだろう。
リィラは大人しくしているものの、声は動揺している。
「そんな事したら、そのハンカチが……!」
「いいよ、あげる。ねぇ、この里に他に人はいないの?」
リィラは気付いた。センティは毒を持つリィラを憐れんでいたのではない。純粋に怪我の心配をしていたのだと。
そして、わざと話題をそらしてくる。センティという王子の心は汚れなく澄んでいる。毒性を持つ自分とは正反対だと思った。
全身がパープルのリィラは、なぜか頬だけを赤く染めて眼下のセンティに答える。
「この里には私しかいない。私が最後の生き残り」
「え? 一人だけなの? 何があったの?」
「何もない。みんな寿命。この里の者は毒を持つから短命なの」
「そうなんだ。寂しいね」
つまり体内の強い毒性は自身をも蝕んで寿命を縮めている。毒の種族の血筋は間もなく尽きる運命にあった。
ハンカチを巻き終えるとセンティは立ち上がり、見下ろしていたリィラは彼を見上げる形に変わる。
「王子様は早くこの里から出た方がいい。毒の花の花粉を吸い続けるのは危険……」
「ねぇ、リィラちゃんって何歳? 僕は20歳だよ」
「……18だけど」
センティはまるでリィラの忠告を聞いていないようで、自身や毒の事よりもリィラに興味を示している。
不思議な人だなとリィラは思うが、嫌悪感はない。外部の人間と話す機会もなく、里で孤独に生きてきたリィラも彼に興味が湧いてきた。
「王子様、ちょっとここで待ってて。絶対に動かないで」
リィラは小走りで花畑に挟まれた小道を真っ直ぐに進んで、その先にある木造の小屋の中に入った。
そこがリィラが暮らす家であるが、簡素な外観で物置小屋にしか見えない。
小屋から出てきたリィラは、手に小さな巾着袋を持っている。再びセンティの前まで歩み寄ると、それを差し出した。
「……これ、お守り。持っていれば魔物は近寄らないから」
「これ、ポプリ? いい香りがするね」
その巾着袋に手で触れるとカサカサとした感触と音がする。ドライフラワーが入っているのだろう。
「袋は絶対に開けないで。毒の花びらだから」
「分かったよ、ありがとう」
センティが包帯代わりにくれた『白いハンカチ』のお礼として、リィラはお守り代わりに『毒花のポプリ』を贈った。
センティはポプリをマントの内側に入れるとゴソゴソと動かす。巾着の紐を腰のベルトに結んでポプリを腰から下げた。
「じゃあ、僕は行くね」
「……帰りも一人で大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。お守りがあるし。またリィラちゃんに会いにくるからね」
「……え?」
リィラが驚いて言葉を返す前に、センティは最後に清々しい笑顔だけを残して森の方へと走り去ってしまった。
(また、来る……?)
呆然とセンティの背中を見つめていたリィラは、その言葉の意味と不思議な感覚に戸惑う。
アディール王国はポワゾンから一番近くにある国だから大した距離はない。
それでも、毒に覆われたポワゾンには人も魔物も近寄らないのに、なぜあの王子様は近付こうとするのだろうか。
ふと、センティが右足に巻いてくれたハンカチに視線を落とす。
真っ白なハンカチには紫の血が滲んでいたが、もう痛みは感じなかった。
コメント
1件
うわ、めっちゃ良い回だった…! リィラの紫色の血とか、自分から毒性があって魔物が近寄らない設定、めっちゃ刺さるわ。そんな孤独な里で一人で生きてきたのに、センティが「怪我」だけを純粋に心配してハンカチ巻いてくれたシーンでグッときた。お互いに「あげる」「ありがとう」で交換するやり取りも可愛いし、次に会うフラグも立ってて続きが気になる🔥