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「さてと、お礼と言っちゃあなんだけど、粉微塵にして上げるね♪ 蛆(うじ)虫みたいにちっちゃくな~れ!」
『ぐっ、あ、『鉄盾(アスピーダ》』…… はぁ、はぁ、ば、『重守護(バリス)』……』
「アクセル」
今にも絶命しそうなパズスがラマシュトゥを守るために、気力を振り絞って送った防御系のバフであったが、予想通り間に割り込んだコユキが掻(か)っ攫(さら)ってしまった。
オレンジ色の保護膜を体に纏(まと)いながら、濃いオレンジ色で浮き上がった魔法陣を全身に浮かべ、その効果でゴリゴリのガチガチに鎧化させたコユキが言った。
「うほぉ、いいね、これ! やられる気がしないって、こー言う事なんだろうネェ!」
そう気安い感じで言いながら、怯えて固まっているラマシュトゥの顔を、無造作に掴んで続けた。
「ところで、パズスだっけ? そろそろ死ぬんじゃない? いいのん?」
『っ!! ……くそっ、やむをえない、『再生雨(エピストロフ)』』
ラマシュトゥの呟きと共に、淡いピンクの雨が、周辺一体に降り注ぎ、コユキとラマシュトゥの肥大化した部位を元通りに戻して行った。
少し離れた場所で、瀕死だったパズスも起き上がってこちらを見ていたが、コユキたち同様、強化された筈の背中は元通りに戻っていた。
「なるほどね、敵味方関係なく回復し続ける再生の雨か。 この中では改造系のスキルも元に戻しちゃうって訳ね、まぁ、予想通りだね~」
そう言いながら、パズスの方へと数歩移動したコユキは立ち止まって言葉を続けた。
「さて、これでお互いにズルは無しだね、掛かっておいで、臆病君と痛がり屋さん♪」
『『なっ?』』
コユキの挑発が我慢出来なかったのだろう、ドスドスと決して素早くは無いがパズスとラマシュトゥは力一杯コユキへと襲い掛かるのであった。
肉と肉と肉のぶつかり合い、まさに肉弾戦。
デブに素早く繰り出された拳をデブは鼻先ギリギリで何とか躱(かわ)す。
そこへ間を置かず、もう一方のデブからの強烈なローキックが膝下に唸りを上げて襲い来る!
サッと身を翻しデブがそれをかわし、反撃の体当たりをデブにカマし、それを受けたデブは堪らずにドウッとその身を地に伏せる。
倒れこんだデブに、デブが一瞬注意を逸らした瞬間、脇から走り込んだデブが、デブにラリアートをお見舞いしたかに見えた。
デブは自らの太い腕でラリアートを受け止めると、巻き込むように抱え込んだデブの太い腕を取り、捻り込みながら体重を掛けて押し倒していく。
うつ伏せに倒れた体勢から、自ら横向きに転がり込む事で、デブのアームロックから脱出する事に成功したデブは、肩で息をしながら立ちあがった。
拮抗(きっこう)する二体のデブのパワーだったが、デブの方がデブを少しだけ上回っているかにも見える。
絡み合う互いの殺意を帯びた視線。
そこへ先ほどまで痛みに唸っていたデブが復活し、隙を付いてデブにボディアタックで飛び掛り、辛うじて避けたデブの反撃の裏拳がデブに打ち付けられた。
波打つ腹肉、震える背肉、まるで意思を持つかの様に揺れ続ける尻肉…………
飛び散る汗、立ち昇る臭気、荒い呼吸と共に鳴り響き続けるブタ鼻音…………
デブがデブとデブにデブのデブによるデブのためのデブでデブに…………
どれほどの時間が経ったのだろうか?
体感では長く感じられた時間も、実際には存外短かったのかもしれない。
お互いギリギリで、やせる思いで戦っていたが、所詮思いなので、実際には太ったままであったが……
一進一退の攻防が繰り返されたが、ほんの僅(わず)かな差でデブが勝利を収める事となった。
その差とは、顔面の贅肉の量、そのほんの僅かな重量の違いだけであったのだ。
二体のデブは夜な夜な、口を大きく開ける練習に勤しんでいた為、表情筋が自然と鍛えられ、贅肉を失っていたのであった。
かたや、笑おうが、怒ろうが、腹が空こうが、表情が変わる事が無い、筋金入りの贅肉フェイスの持ち主である。
その差は歴然であった、悲しい事だ……