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暗黙

「まあ落ち着けって」

グルは8メートルほど距離をとって吉木を止めた。無論、近づいたら何をされるかわからない。

そんなとき、サーフィーはポンと膝を打った。

「コッちゃんはあれなんだよ、うん。幻聴が聞こえたんだ」

「そのことが何で分かる」

口角だけきゅっと釣り上げてサーフィーの方を振り向く。クルルは隣で震えながらも一歩前に出た。

「あの……グルさん……」

小声で耳打ちする。巻き気味の髪がグルの頬に当たった。

「コルトでいい。何だ?」

聞こえないほど小さな声で応じる。次の瞬間、 言われたことは衝撃的な内容であった。

「金、コープスさんって金で……ライラさんのこと脅してるのかなって。最近は支払いとかあの人してなかったらしいですよ」

「ああ、汚い話だなそれは……」

聞いて驚きはしなかった。しかし、その会話を聞き逃していない吉木は無理矢理割り込んできた。

「いま、何話してた?」

ぐい、と身を寄せて二人の間に入り込む。グルは顔を背けた。

「お前には関係ない」

「それを決めるのは僕だろう?」

鋭く言い放たれると、その場の全員が黙り込んだ。ただ、ライラとグルは冷や汗が一滴垂れていた。

「……気まずい! もう休憩させてよ……」

初めに声を上げたのはサーフィーだ。いつの間にか片手にショットガンを抱えて座り込んでいる。

「あーー、ごめんごめん。いいよ。そこらへんで寝てたら良いけど耳栓しておいて。発泡するからな」

少し低い声で呟くように言う。クルルは待て待てと掴みかかった。

「初対面ですけど待ってくれませんか、せめて俺が……」

「君がやりたいのか?」

古い小型拳銃をクルルに差し出す。クルルは悪く思う様子もなくそれを受け取った。そして弾を詰めるとカチャリと音がする。

「んじゃ、初仕事ってことで」

声は爽やかで明るかった。

「なら頼むよ」

吉木も顔は見えないが、フード越しに笑顔である。グルは異常だなと真顔で眺めていた。

ライラは「待てよ」と叫んでいる。

そんな声に耳を傾けることもなく、弾は心臓を突いた。命中である。

「片付けってどうするんです?」

脈を測りながら訊く。吉木は斜め横にある大きな冷蔵庫を指さす。

「この冷凍庫に入れといてくれ」

「あ、はい」

ライラであったものを抱きしめるようにして冷蔵庫まで運ぶ。あとは、放り込んだ。

「コルトさん、どうです! いい度胸でしょ!」

褒めてとばかりに両手を広げる。グルは抱きつかずに頭だけ撫でた。

「ここの連中が信用できないことはわかった」

不思議なことに絶望しなかった。

サーフィーは冷蔵庫を覗いて「匂いがつくから処理所に運んでもらうよ」と怒り気味の様子だ。

「でもコルパイコルトパイソン、僕は信用できるだろう?」

冗談半分でからかう。グルは不貞腐れていた。

「誰も信用してない。手遅れだ」

「あっそ」

周りの人も含まれていないのか。吉木は安心したように笑うとサーフィーにこう言った。

「料理、できる?」

思いも寄らない質問にサーフィーは唖然とした。やがて、遅れて答える。

「え、うん」

「なら適当に作ってよーお腹減った」

ポンとサーフィーの肩を叩いた。触れられることさえ恐ろしいだろうが、サーフィーは笑みを浮かべて頷いて見せる。そして、 背を向けた。

「待ってて。作ってくるよ」

「うん」

簡単な会話を交わして部屋屋をあとにする。三人だけのシンとした空間になった。

「……ねえ」

はじめに口を開いたのは吉木だ。口は笑っていなく、真顔でグルに話しかける。

「左腕、痛い?」

息を呑んだ。そんなこと訊かれるなんて、思いもしなかったのだ。怯えるような目を向けてグルは頷く。

「痛いに決まってる、お前こそ首……大丈夫なのか?」

「痛くないよ」

即答した。クルルは隣で溜息をついている。そんな様子を見て、吉木は距離を縮めた。

「AKM(クルル)、どした?」

「貴方たち仲いいなって」

悲しそうに眉をひそめて言うクルルに、浦は笑った。二つの意味で、だ。

「お前もデザートイーグル(サーフィー)と仲いいじゃん」

クルルは首を大きく横に振った。信じられないとでも言うように。

「今のあいつは怖いですよ? 目が正気の沙汰じゃねえ」

それを聞いてグルも思い返す。確かに、少し殺気が混ざっているような獣の目だった。

「襲われても仕方ないだろうね」

冗談っぽく吉木が言った。だが、一ミリたりとも 冗談に聞こえずクルルは恐怖する。

「もしそうなったら終わりですね。あの大型犬に構えるやつはコルトさんくらい……」

「コルパイは喰われて終わりさ」

「喰われてたまるか」

そんな軽口を叩きながらも雑談して数十分。サーフィーが扉を開けて顔をのぞかせる。

「俺の愚痴はいいから〜できたよー」

グルらは違う部屋へと移動して食事を済ませた。それからは雑談をすることもなく、パソコンに送られた本部の説明書きを見る。案内などは無く、ただ構図を見ていた。建物は信じられないほど60階はある。

風呂場は、一室に一つのようだった。その中で体を洗いに行ったのはサーフィーとクルルのみ。何かあるなと吉木は察したが、監視カメラも盗聴器も仕掛けていたため無視することにした。

「何かあるだろうな」

グルが話しかける。吉木はニヤリと口角を上げて「分かる?」と訊いた。

「まあな。お前を狙ってるんじゃないか?」

「心配?」

冗談交じりに問いかけたものの、グルはフフッと笑った。

「ザマァ見ろと思う」


サーフィーは監視カメラと盗聴器があることを知っていた。故に、クルルに頼んでデータを消してもらったのだ。高度な技術はよく分からなかったが、パソコンを操作してウイルスを仕掛けているクルルには安心感があった。

それから、風呂でトランシーバーを使い会話した。

『コープスって吉木浦でしょ? なんで兄ちゃんと仲よさげにしてるの?』

焦った様子を隠しながら、サーフィーはゆっくりとした口調で言った。クルルはふぅと吐息を漏らす。

『あの人なら分かってたはずだ。だから、脅されていたか共犯か。味方か敵かなんだよ……。敵なら好きだとしても暗殺する』

声は落ち着いていた。サーフィーもまた、正常心を取り戻して沈着していた。

『……本気なんだね。でも、それをするのは俺だから、クルルがやるべき相手は吉木浦だ。このことがバレないようにしなきゃいけない 』

真剣な言い方で、クルルに忠告する。クルルは笑い声を微かに上げて返事をした。

「グル君、クルルのウイルス全消しできたってマジ?」

パソコンを叩いているグルに抱きついて訊く。

「ああ。かなり単純だったからな」

パソコンのキーを押して、録音を流した。二人は表情を何も変えず、全て聞く。

予想通りだった。

「やっぱりね。始末しないと」

注射器に毒を入れながら、クックと笑った。坐っていたグルはその間に、色々なことを考えながら返事をする。

「……そうだな」

サーフィーらが帰宅すると、二人は何も聞かなかったかのようにしていた。ただ、扉の前に立ちクルルを軽蔑するように見つめていた。

「……そんなに見つめないでくださいよ、グルさん」

目が笑っている。いや、目の奥が笑っているのだ。まるで心底爆笑しているように見え、グルはフンと鼻を鳴らした。

「あんまり下手なことはするなよ」

鋭く言い放つと、クルルの胸ぐらを掴んだ。その場の空気は一変して吉木さえもが驚愕したのだ。

「出来るんだ。意外だよ」

ポツリと吉木が口を開く。──何故なら、グルがクルルの右腕を折ったからだ。慟哭しながらグルの腰にしがみついているクルルは負け犬のようにも見えた。

「躾けろと言われたからな、サーフィーもこうなりたくなければ黙って従え」

鈍い音が鳴り、グルはみぞおちから足を離した。サーフィーのみぞおちを強く蹴ったのだ。

「なんで? 脅されたの?」

涙を流しながら、サーフィーが訊く。喉笛が鳴って体は震えていた。それを見て、何も思わなかったのだろうか。グルはその場に立って、見下ろしたまま黙り込んでいた。

「手当てしてやるから、今から寝ろ」

クルルの背に手を回し、立ち上がらせる。その隙を見てナイフを出したが、左手首も折られた。

「ダルマにされたいのか」

脅されながらも、添え木を当てたり包帯を巻いたりして治療される。クルルは言い返すことも出来なくなった。

後、二人は最上階の部屋で話をしていた。

「この際だから訊くけど、君は僕のこと認めてくれたんだよね?」

「ああ」

「嘘だ。証明してよ」

クスクスと吉木が笑う。グルは考える仕草をして、口角を上げた。

「ならサーフィーを手にかけてもいい」

毒薬の液を吉木の目の前に持っていく。吉木はニッコリとした。

「……そ、思い通りになってくれて僕は嬉しいよ。これからもよろしくね?」

手を差し出す。グルは抵抗せずにその手を握った。

そのストレス、晴らします0

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コメント

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グル先生…あなたはどこへ向かっているのか…😌 ドロドロですね、いつも通りですが😇(交通事故と書いて通常運転と読む())(幸せなんてなかったんだ🙄) サーフィー生きてくれ…じゃないと悲しすぎる😭()

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