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相談もなしに働きに出ることを告げたら幹雄は激怒しそうだが、彼の叱責など、どうでもいい。
勝手に働きに出てやる、と美晴は意気込んでいた。
幹雄が美晴に傍にいて欲しいから仕事を辞めて欲しいという言葉に従ってきたが、ただ奴隷として使いたかっただけなのだと今になって気が付いた。彼のために尽くしてきたのに、なぜ自由を奪われ、酷い仕打ちをされなければいかないのか。そんな生活はもう終わりにしたい。
美晴は目的を反芻した。まずは『幹雄の愛人情報』を見るための500Pを獲得し、どんな女性が夫の愛人であるかを確かめることが一番だと考えた。幹雄の情報を閲覧するには、1000Pも必要だ。そこはまだ遠い。
愛人の住所や名前がわかれば、そこから手を打つことができるだろう。証拠が取れるかもしれない。
そのために相原の情報をたくさん入手し、ポイントを稼ぐ。
やみくもに情報を入手しても仕方がないので、相原のどんな情報が必要なのか、美晴はアプリに尋ねた。
――調べて欲しいというリストの中に『相原久次郎』という人がいました。彼は私の元職場の上司です。どんな情報が必要ですか? 教えてください。
『彼の写真、勤務時間、勤務中の様子など、なんでもよいので詳しくお願いします。ただし、証拠データは必ず音声・動画・画像のいずれかのデータでお願いします。虚偽情報を防ぐための処置です。ご理解ください』
なるほど。情報もいろいろあるのだな。
美晴は早速着替えて以前勤めていた『ホワイトシェル』へ向かった。その名の通り白が基調でゆったりとしたカフェスペースは、近隣のオフィスビルの商談スペースとしてもよく利用されていた。貝模様の小物が女性に人気のカフェである。
久々に自分のために外に出た。職場復帰ができると思うと心が躍る。
「久しぶりだね、元気だった? あれ。松本さん、結構痩せたんじゃない?」
事務所に通され、対面のソファーに座った相原が心配そうに聞いてくれた。
「あ、大丈夫です」
これからしっかり食べて元気をつけて夫をやっつけます、と心の中で付け加える。
書類を提出して、本日から手始めにアルバイトスタッフとして働くことになった。勝手知ったる職場であるため、初日からなにも困ることはなかった。仲間にも喜ばれ、生き生きと働くことができた。
スタッフの目をかいくぐり、相原の写真・出退勤時刻のわかるタイムカードの写真をスマートフォンに収めた。隙を見て事務所に侵入し、留守番電話のメッセージも回収することにしたい。様子を見ながら遂行しよう。
美晴は自宅に戻った後、知っている経歴などを添えて、相原の情報をアプリへと送信した。
『相原久次郎についての貴重な情報提供、ありがとうございます。ポイントをプレゼントいたしました。ご確認ください』
すぐにアプリから返信があったのでポイントを確認すると、確かに増えていた。久次郎の写真、タイムカード、経歴などのデータを合わせて30Pになったのだ。大きなポイントバックではなかったが、頑張れば以外に早く500P貯められる気がした。
翌日も指定された時間にホワイトシェルへ出勤した。久次郎は相変わらず爽やかで、アプリがターゲットにする要素が美晴にはなにもわからなかった。彼の様子を時々撮影したが、特段すごい動画や音声を撮れたわけではないため、アプリにデータを送ってもポイントはお情けで1Pしかもらえなかった。
これでは500P貯めるまでの労力が見合わない。なんとかしたいと思いながらも、彼の様子は変わらないまま時は過ぎた。
幹雄は相変わらず義母の所にいた。別に帰って来て欲しくないのでなにも連絡しなかったら、連絡もしないでどういうつもりだ、と向こうから怒りのメッセージが届いた。
社会貢献がしたいので以前の職場へ働きに出たために忙しかった、と幹雄に告げると、勝手にしろ、と言われたのでさらに彼のことは放置した。
ねちねち嫌味攻撃があると思っていたが拍子抜けだった。もっと早くこうすればよかったと後悔したほどだ。前ほど自分に興味がなくなったのだろう。愛人と過ごしているのかもしれないと思うと、怒りがわいた。