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追憶のマッチング
人混みを抜けたふたりは、静かな住宅街へとたどり着いた。 手嶋は、吐夢の手を握りながら、迷いなく歩いていた。
「ここ…俺の家だ」
吐夢は驚いたように目を見開いた。
「戻ってきたの?こんな状況で…」
手嶋は、鍵を差し込みながら答えた。
「最後に、ここに帰りたかった。俺が生きてきた場所を、君に見せたかった」
玄関を開けると、懐かしい匂いがふたりを包んだ。 木の床、古いソファ、そして壁にかけられた家族の写真。
吐夢は、静かに部屋を見渡した。
「…あたたかいね。こんな場所で育った君が、どうして俺を選んだのか、少しだけわかった気がする」
ふたりは、ソファに腰を下ろし、しばらく何も言わずに過ごした。 その時間は、まるで世界がふたりだけになったようだった。
だが――
外から、複数の車の音が聞こえた。 無線の声、足音、そして…玄関の前に立つ影。
「手嶋淳之介、永山吐夢。出てきなさい。これ以上の逃亡は許されない」
吐夢は、静かに立ち上がる。
「終わりだね」
手嶋は、吐夢の手を握り返す。
「でも…君とここに来られてよかった」
ふたりは、玄関へと向かう。 扉の向こうには、現実が待っていた。
吐夢は、最後に手嶋の頬にキスを落とした。
「ありがとう。君がいてくれて、俺は…生きてる気がした」
手嶋は、何も言わずにその言葉を胸に刻んだ。 そして、扉を開けた。