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「腕、千切れちゃった。」
エラフィさんはそう言って、ない右腕を私に見せてきた。あまりにスッパリと、綺麗に切れている。多分、戦っている時に魔物にちぎられたとか、そういうのではないんだろう。
じゃあ、なんでだろうか?オヴェハさんも居ないし…そもそも、この人から話を聞くのは難しいか。
「うわぁ!!い、痛そう!」
「あ、ふふ、痛そう、だって!痛い?ことはないのに、ね!へへ、痛い?はよ、くわから、ないな。」
「あ…そうですか」
彼の情報を閲覧するのに必要な権限を持っているおかげで、散々過去について閲覧しているのだけれど。
昔あった色々のせいか、恐怖も痛みも感じない人間になっているらしい。色々、が起こる前は普通だったようだけれど。申し訳ないけれど、彼の事情を理解する必要はあまりない。料理を作って、魔物を倒して、それを煮込んで…そうするだけの彼が、雪山から降りない彼が、これらについて気にする必要は微塵もないからね。
さっさと手当してやろう。彼自身が食事を作って、それを食べれば腕はまぁ何とかなるし…消毒して包帯だけ巻いておけばいいだろう。
腰についた鞄から消毒液を取り出してみたが、水の音がしない。それどころか、中で何か固まっているような…。
多分、冬になって、尚更寒くなったからだろうか、鞄に温かくしてくれる機能がついてなかったか?ちょっと故障かな…まぁ、消毒液は良いや…。綺麗な布、多分綺麗な布で血だけ拭いて、包帯を巻く。
モロに骨が出ていたのでちょっとグロい気がしてならない。まぁ、いいか。
ゆっくりと包帯を巻いて…巻き終わった時に、エラフィさんが話しかけてきた。何やら言いたいことがあるそうだ。成長したね…昔は全然喋れなかったから。親ってこんな感じなのだろうか。まぁ、私が一番年下なんだけれど。
「ね、ぇ?さ、さっき、さぁ」
聞いているのか、とでも言いたげな顔をしている。
「聞いてますよ」
「お、オヴェハが、そ、こを走っ、て、壁壊して、た、けど、い、いいの?」
「壁…?あ、待った、あの人…壁って、そこの壁の事を言ってます?えっと…それはまずいのでは…」
「だよ、ね、ぇ」
壁…まぁ、魔物と人間を隔離するために、えっと…10年前くらいに村人が作ってた、もの。今は私たち以外の人間はいないし、正直どうでもいいんだけど…ただ、あれって何かの偉い人が管理してるんじゃなかった?まぁ、滅多にここに来ないし、今更心配することでもないと思うんだけど。
それはそれとして、壁を壊したことについては怒らないといけない…この人、行動範囲が雪山だけに留まってるからまだ良いんだけど、ここに魔物が出る確率が低くなれば、勝手に山から下りかねない…となったら、多分町に迷惑をかけて冒険者の立場がもっと危ういことになるだろう。
いや、私は別にいいんだけど…他から文句言われそうで、怖いよねぇ。だから、そうなった時のために壊してはいけないものは壊しちゃダメだと教えたいんだけど、エラフィさんより話通じないというか…。
「…オヴェハさん!すとっぷ!!!!」
早すぎて聞こえないかな~、と、思っていたら少し向こう側で止まってくれた。とはいえ、100m位離れてるけど…このくらいなら許容範囲だろう、多分。彼に走ってもらえば一瞬だし…。
「な、ぁ、に~~…おれ、忙しいんだけ、ど~~」
「あの壁、壊しちゃダメなんですよ!良いですか?」
「うるさ、おれの前に居る方がわるいでしょ!あ、エラフィ、腕ちゃんどうかしちゃったの?」
…話を聞いていないな。相変わらずだ。こうなったら
「もげ、た!」
「わぁぁ、大変だねぇ~~…あはっ、おれ、リエーブル、食べたいなぁ…なんてねぇ~、おれ、も、いくよ~」
「リエーブル…ちょっとぉ!!!!」
「っはは、じゃあね、うさぎさん~~~…」
走って行ってしまった…というか、高く飛んでどっかに言ってしまった。あの羊め!
リエーブルって…野うさぎの肉のことですよねぇ!あの人!私がうさぎだって知って言ってますよね!明らかに!
イライラしながらエラフィさんの事を見ると、うさぎ…とつぶやいていてかなり怖い。ま、まさか狩ってこいなんて言わないよね…?私、同族殺したくないし、そもそも…共食いになるんじゃないの!?
「…ラゴー、ス…うさ、ぎ、と、ってきてく、れるね?」
エラフィさんがゆっくりと、顔をこちらに向けた。
勘弁してほしい、そう言おうと思ったのだけれど、案の定私の口からそんな言葉は出なかった。
「………う、うわぁん!!」
雪山の外において、私は気が強い方らしい。
それでも、彼らがおかしくて、話が通じなくて…圧が強いせいか、私はまともに抵抗できない。
そろそろ山から下りようかな…と、思いながら腰の鞄から斧を取り出した。仕方なくうさぎを狩ることにした。
ゆっくりと歩いていたら、すごい速さでオヴェハさんが横切って行った。彼のパッシブのせいか知らないが、うっかり走ってる彼に近づいていたりするととんでもない苦痛が訪れたりするが、まぁ、今回は大丈夫だった。
ほのかに吐き気がしただけで済んだので、良いとしよう。
ここ最近雪山に魔物と動物が増えた気がする。まぁ、ありがたい話だ。魔物も食べられないことはないから…。
最近冒険者ギルドの方まで行ってないなぁ、だって遠いし…しょうがないか!なんて考えて数か月。なかなかあそこまで行けないのだ。
「…お、居た」
あまりにも怠惰になってきているなぁ、なんて思うけど、だって怖いし…。小さくてか弱そうな冒険者なんて、普通の市民に狙われたらすぐ虐められるに決まってる!だから毎回怯えながら歩かなきゃいけないんだ。
と言っても、あの二人を行かせるわけにもいかない。スタンピート、しかも強い魔物ばかりが集まるものでなけらばわざわざ連れて行ったりしたくないし…その場合、彼らはとっても頼りになるだろうけど、普段の場合どうしようもなく迷惑な人でしかないんだ。
まぁ、変なことを考えて居る場合ではなかった。ぼーっとしながら斧を振り落としたせいで、思ったより酷いことになってしまった。
これを引き摺って行くのかぁ…別に鞄の中に入れても良いんだけど、正直言ってこの真っ赤なものをしまい込むわけにはいかない!せっかく貰った贈り物だ、汚したくない。いやまぁ、この間ボルシチをひっくり返したけども。
あれのおかげでボルシチが嫌いになったりしたけど…まぁ、それは良いよね?
雪に埋もれた足が冷たい。そろそろ靴を変えるべきなんじゃないか?
「エラフィさん、持ってきてあげましたよ…」
「オヴェハ、も、もう、居るよ、お、そかったね」
「遅いよぉ~!もう、君の分まで食べちゃうぞ~~……」
なんかいろいろ言われている。
「オヴェハさん…自分は今日は良いです…」
「あり?そう、じゃあ勝手に食べよ!」
楽しそうで何よりだけど、私は普通に食べたくない。水浸しの靴で、山のふもとまで降りて…タチアナさんの所にパンを買いに行こう…。
美味しそうな匂いがするけど、この中に同族の肉の匂いが混じっていると思うと、吐き気がする。
まぁ、パンを食べられるならいいか…。
荷物をまとめて、さっさと走る。風邪が冷たいものだから、ちょっと嫌な気分になるんだけど…これはまぁ、さっきのスープの香りのせいでもあるかもしれないね。
山を滑り落ちるように下るの、楽しみだ。パンを食べることについては…もっと楽しみだ。