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「んっふっふ……」
「アッハッハ……」
暗い笑顔で睨み合うミューゼとパフィ。それぞれ杖とフォークを握り、鍔迫り合いをしている。
「オマエら、フダンのゆずりあいはどうした」
「あたし達にだって」
「譲れないものはあるのよっ」
とか言いつつ、魔法やナイフを決して使わない所に、仲の良さが伺える。
なぜ2人が睨み合っているのかと言うと……
「いやホント、今日のグループ分けで、ミューゼとパフィ分けたのは本当に悪かったけどさぁ……」
「アリエッタと行くのはあたしよ」
「いーや、私なのよっ」
目的はアリエッタと同行する権利である。
サイロバクラムはまだ2日目。当然知らない事だらけ。そんな初めての場所を一緒に散歩する楽しさを、これまでの仕事や旅行で知り、今回も一緒に楽しもうと思っていたのだ。
そこへ、ネフテリアとピアーニャから言い渡された別行動。2人は驚愕で目を見開き、武器を手に取ったのだった。
「だから、シゴトもそれくらいマジメに……」
「まぁこの2人には、アリエッタ以上に大事な事なんて無いだろうし」
しばらく説得しようとしたり宥めたりした結果、最終的に恨みっこ無しの運勝負に落ち着いた。
ネフテリアが、握った棒を2人の前に差し出した。
「……なんで3本?」
ミューゼとパフィの2人に対して、握られた棒は3本。明らかに1本多い。
「1本はアタリ、1本はハズレ、1本はスペシャルよ」
『スペシャル?』
「相手が引いた棒がアタリだったらハズレ扱い、ハズレだったらアタリ扱いなんだけど、褒美としてわたくしが後ろから胸を揉みます」
『折ってしまえそんな棒!』
ミューゼとパフィだけでなく、ピアーニャ、ムームー、クォンからも絶叫交じりのツッコミが入った。
なお、アリエッタはというと、アーマメントやパーツに夢中になっている。クォンから武器ではない安全な道具をいくつか与えられ、争う2人から気を逸らされていた。
「ええ~、特別賞なのに」
「オマエにとってはな」
「細いのに折れないのよ、この棒……」
「そりゃそうよ。クリエルテスでも特に硬い貴重な鉱石で作ってあるもの」
「なんですかその変な無駄遣いは」
なぜかくじ引きの棒になっている鋼よりずっと硬い石だが、元はパルミラのおやつである。クリエルテス以外のリージョンではかなり貴重な鉱石となるが、仕事の差し入れにおやつとして気軽に貰ったものなのだ。
そんな会話をソルジャーギアの玄関ホールでやっているので、見送りや通りすがりの人々にも会話は丸聞こえである。
「くっ、お姫様に胸を揉まれるとか、なんという栄誉」
「俺も揉まれてぇ」
「そんなやせ細った男の胸を揉ませようとするなよ……」
「せめてムキムキの胸板じゃないとな」
「それもどうなの」
変な視線を浴びてはいるが、元々たくさんの視線に慣れっこなネフテリアにとっては何という事はない。ただ、せめて可愛い女の子の胸だったらいいなと思うお姫様であった。
結局、スペシャルの棒は除外され、アタリとハズレだけの1回勝負となった。
「よーしっ! 今日の探索開始っ!」
『おーっ』
「おー……」
元気なネフテリアの号令で、一同は二手に分かれ、それぞれ反対方向に歩いて行った。
その中でただ1人、ミューゼのテンションがとにかく低い。要するにハズレを引いたのだ。
「ええい、おちこむな。アシタはオマエとアリエッタがセットだからな?」
数日はサイロバクラムにいる予定なので、パフィと交代でアリエッタと同行する話になっている。その説明をした事で、なんとかミューゼが動いてくれたのだ。
ピアーニャはクォンとミューゼを連れて、意気揚々とアリエッタから離れていった。さっきまでくっついて心配されていたので、解放感に満ち溢れている。
一方、ネフテリアはちょっと残念そうにしている。アリエッタと一緒なのはいいが、ミューゼとデート出来ないのだ。その分明日は堪能する気満々だが。
「ピアーニャ達はコロニーの外を中心に見るらしいから、わたくし達はまた色々なお店でも見てみよっか」
「分かったのよ」
「それじゃまずは商店エリアに向かいますか」
ある程度コロニーの事を知っているムームーの案内で、楽しいショッピングに向かうのだった。
そんな2組をホール内から何気なく見ていた者達が、動き出した。
「目標は東方向へ向かいました」
『了解。そのまま追跡を頼む。こちらも出る』
同時に、ビルの上から見ていた者達も動き出す。
「あの美女と料理人はトランザの中心の方へ」
『分かりました。では現地で』
そして、ソルジャーギア内の司令室でも、
「あいつら……やれやれ……」
総司令ハーガリアンが、呆れながら立ち上がった。
ムームー達は商店街へとやってきた。
ここは住民達が愛用する場所。いくつもの大きな建物の中に、それぞれ沢山の店が立ち並ぶ、いわばショッピングモールの集合地帯である。
「今日は何事も無くたどり着いたね」
「なのよ」
「何事かあるのが前提なのが気になるけど、まぁ良かったじゃない」
離れた場所に見える林を見なかった事にして、ネフテリアは安堵した。
(昨日の場所かー。何か面白い物あるといいなー)
「アリエッタにも何か買ってあげないとなのよ」
「そうね、なんかワクワクしてるみたいだし」
4人は早速店を見て回った。4人にとって知らない品物だらけの買い物なので、何を見ても楽しい。何に使うのか推測し、店員に詳しく聞き、ムームーが試しに使ってみる。
ムームーは先に何度かサイロバクラムに来ているので、アーマメントやエーテルを使用した道具などの使い方をそこそこ知っているのだ。
見た目から違う異世界人がテンション高く楽しんでいるので、とにかく目立っている。ネフテリアとムームーは慣れていたが、パフィとアリエッタが周りを気にしなくなるまで、少しの時間を要したのだった。
そんな調子で1つ目の建物を見て回る、それだけで満足して休憩に入るくらい楽しんでいた。
「いやーいきなり疲れたね」
「どれもピカピカ光って面白いのよー」
まだ買い物は始まったばかりという事もあり、実は1つだけ購入した。立方体のブロックで、ブロック同士がくっつく玩具である。エーテル起動するとちょっと光ったりする。
(くっつくブロックが実在した。これを集めたら建築できるんじゃなかろうか)
アリエッタは前世のゲームの経験もあって、すっかりそれが気に行っていた。
ちなみに、購入する為のお金はというと、ファナリアやクリエルテスの物品をソルジャーギアで交換してもらい、それなりに持っている。
サイロバクラムではカード状のタグに所持金が記録され、機械や他のカードにタッチする事でやり取りをするのだ。
(あの電子マネーみたいなカードがあれば、もっと買えるのかな……おねだりしちゃマズイかな?)
ブロック遊びにハマりかけているアリエッタであった。
貯金だけならアリエッタはミューゼよりも遥かに多くなっているのだが、本人は知らない。絵画などの美術が発展していない世界では、絵や服のデザインは高値で取引されているのだ。
「さーて、そろそろ次いきますか」
「そういえばここの服とかないのよ?」
「それだったら隣の建物だったかな」
「あの、すみませーん……」
次の行き先を決めていると、横から声がかかった。
「はい?」
そちらを向くと、先日一緒に?大暴れした、ツインテールの少女が1人で立っていた。
「貴女は……」
「あら、知り合い?」
ネフテリアの問いに、ムームーとパフィは考えた。そして、
「いいえ」
「知らない人なのよ」
息ピッタリで答えた。
「えっ、ちょっ!? あのあの! 昨日その辺でっ」
少女は大慌てで自分の存在をアピールする。
「冗談ですよ。昨日ぶりですね」
ムームーはほんの少しだけ、昨日巻き込まれた仕返しに揶揄っただけだった。
「え? 知り合いなのよ?」
「えっ」
パフィは本気で忘れていた。昨日は後ろでアリエッタを守っていて、ほとんどミューゼが対応していたのだ。周りの事は印象が薄かったのかもしれない。
「えと、あの、昨日はどうもすみませんでした」
気を取り直して、少女はムームーとアリエッタに深く謝罪した。関係の無いムームーを巻き込み、小さな少女に危害が及んだのだ。昨日に比べてしおらしくなるのも無理はない。
「まさか歓迎会で再開して、しかも王女様一行だったなんて……」
「ああ、貴女ソルジャーギアなのね」
「はい、私はラクス・メタ。ラクスとお呼びください」
ツインテールの少女ラクスはソルジャーギア隊員で、クォンの少し先輩である。昨晩は声がかけづらく、ようやく思い切って謝罪に出てきたというわけなのだ。
「あの、昨日のお詫びですけど、よろしければ私が案内しましょうか?」
「それは助かるけど……」
ラクスの提案に、ムームーは迷ってネフテリアを見た。
「何かあれば上にチクればいいから、良いと思うわよ」
「にこやかに辛辣な意見言いますね」
こうして、ラクスは上司の影に怯えながら、憧れの王女様の案内をする事になったのだった。
「ところで、道すがら相談したい事があるのですが……──」
「またか、そのハナシはことわったハズだが?」
「ええ、そうハッキリ言われ、引き下がりました。しかしクォンさんを見逃す手はありません。改めて交渉したいのです」
もう少しでコロニーの外……という場所で、ピアーニャ達は昨日出会ったスレッドに止められていた。
勧誘に失敗したものの、ピアーニャとクォンの顔をハッキリ知っている人材はスレッドしかいないという事で、再び交渉にやってきたのである。派閥の中で、最も交渉に長けているので、他の誰も立候補しなかったというのもあるが。
「改めてクォンさんを我が派閥に迎え入れたいと、リーダーと仲間全員からのお達しですので。いや申し訳ない」
「全会一致て……」
「クォン、一体何したの?」
「いやぁ……したと言うか、してると言うか……あはは」(いつもの癖でやっちゃったけど、変えるんだった)
今回スレッドは、周囲に仲間を配置している。それはクォン達を逃がさない為ではなく、人々を近寄らせない為。
つまり、本気で交渉するつもりである。
「わちらはいそがしいのだがな。1かいだけ、ハナシをきいてやろう」
「では、まずは単刀直入に」
昨日交渉に失敗しているので、グダグダした話は不要。横に置いた大きな交渉材料に賭けられた布を取り除いた。
布から姿を現したのは、値の張る数々のアーマメント。新人ソルジャーギアの給料ではそうそう買えないものばかりである。
そしてスレッドは即座に土下座。そのまま叫んだ。
「どうか、我々ツーサイドアップ派にご協力いただきたいっ!」
「嫌ですごめんなさいっ」
ヘアスタイルをツーサイドアップに決めているクォンは、即答していた。
「えっとつまり……」
「はい。ムームーさんの美しさに、私達は惚れたんです。ぜひ我がツインテール派に来ていただきたくて」
「……やっぱり」
何の派閥なのか、昨日スレッドから聞いていたネフテリアは、深いため息を吐いた。
常時ツインテールのムームーは口を開けてアホ面になっている。
「どうでしょうか?」
「えっと、なんて言うか……その……」
ムームーが言葉を選ぼうとしているが、思考が定まらない。
「えっ、昨日やってた派閥戦争って、こんなにしょーもないのよ?」
その代わり、パフィの口から本音が漏れていた。