窓からベッドに日差しが差し込んだ。
眩しくて腕で目を塞いだ。
華奢な体つきの紬の体は白かった。
左隣から目が覚めた紬を見て、彼はぎゅっとハグをした。
素肌と素肌がくっついて温かかった。
季節は冬。遭難した時は人間裸同士で密着する方がいいとかある。
特に遭難してるわけじゃなく、普通に暖房がついてる部屋の中である。
それでも人恋しくて密着したくなるのだろう。
どうしてこういう状況になったか。
入社してちょうど9ヶ月は経った。
会社の忘年会に参加することになり、今までお酒を飲み交わしたことのなかった紬は飲みすぎて記憶が飛び、
自分が自分ではないくらいにはっちゃけてしまった。
決まって、最後まで酔っ払いの相手をするのは優しさゆえの拓海だった。
会社の愚痴から始まって、一人暮らしをしたくてもできないとぼやき、
目がとろんとし始まった時に告白してしまう大胆な発言も繰り広げていた。
意識が一瞬戻って、何か変なこと言ってると慌てて
「すいません、酔っ払って変なこと言いました。今の忘れてください!」
「……その話、忘られないんだけど。言うなら俺から言えば良かったな。言わせちゃったよ」
「え、それってどう言う意味ですか?」
「俺も気になってたから君のこと。入社して来た時から知り合いの娘って知ってたんだけど手出しちゃダメだって思っても
気持ちは変えられないもんなんだよな。いい年して、みっともない」
「みっともなくなんて、ないです。気持ちに素直に生きるの大事じゃないですか!」
「だって、俺でいいの? お母さんと同い年だよ? おじさんだよ?」
「私、年齢で決めないです。と言っても、初めてなんですけどね。男性とお付き合いするの。
何か運命的な感じするんです。ビビッと来たって言うか……」
「ビビッとねぇ……。もしかして、初めて会った時からってこと?」
「え? 初めて……?」
「覚えてないかもしれないけど、君のお母さんと一緒にデートしてた時に何故か君も一緒にいてさ、ゲーセンで遊んだんだよ。それで俺がふわふわの大きいぬいぐるみ取ってあげたんだよ」
「えー、あー、あの時のお兄ちゃん?! ゲーセンで大きいぬいぐるみ取ってもらうのってあの時くらいで何回行っても
取れなくて……。今でも大事にしてます。クマのぬいぐるみ。その時と比べたら、おじさん化しましたねぇ」
「お、おじさん。そりゃあね、長く生きてますから」
「私はおじさんでもいいですよ。小さい時に拓海さん、カッコイイって思ってましたから。まさか、会えるなんて思ってなかったです」
グラスに入った氷が楽器のように響いた。拓海は心を射抜かれた。満面の笑みでこちらを見ている。
大人になった紬と子どもの時の紬を頭の中で思い出す。
あの瞬間にあの関係で会わなければ今の自分の気持ちにはならなかったのかもしれない。紬は腕時計を見た。現実に一気に戻された。
「あ、終電、行っちゃった」
「……いいよ。ウチ来ればいいじゃん。コタツあるよ。あと、みかんあるよ。ペットはいないけど、猫のフィギュアなら飾ってるよ」
「部長、それ、田村さんの影響ですよね?」
その話を聞いて、紬は笑いが止まらなくなった。年をとっても若い人には負けないぞ精神が強いことに感心した。
「あ、ああ。確かにガチャガチャで引いたものだけどな」
また笑いこらえる。
「頼むから普通に笑って。そんな震えて笑う必要ないから」
拓海と紬は、しばらく談笑して忘年会の会場であった居酒屋を後にした。
会社のみんなは2時間で帰って行ったが2人はラストオーダーになるまでお酒を飲み交わしていた。
タクシーで移動してマンションの拓海の家に着くとタガが外れたように2人は荷物や着ている服はそっちのけで磁石のようにディープなキスをした。果実系のチューハイの香りが残っている。
ベッドの方へ誘導して彼女の肌をひとつひとつ丁寧に愛撫する。
同じ間違いはしない。心も体も満たせる男でいないといけないなと強く感じた。
骨の髄までとろけるように愛し合った。
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