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「ん~……。誰も来ねえな」
洞窟の前で死骸を埋め終わってしばらく経つ。ルーザーさんがうなだれながら呟いてる。
日が落ちかけてるから僕らも帰らないと暗くなっちゃうな。
「……マスター。一度帰った方がいいと思います」
「ジャネット……。そうだね。ルーザーさん」
「ん、ああ……」
洞窟の中を調べるのを諦めて帰還することにした。冒険者ギルドの前に着くころには日が落ちて真っ暗になった。さっきと同じようにジャネット達は帰ってもらってる。
町の街灯の松明の火が零れ落ちて、小さなモミジの葉のような光を見せて消えてく。
「ははは、それでよ! ん? ほら言っただろ? 待ってればこいつらのあほ面が見れるってな」
冒険者ギルドに入ると併設されている酒場からエクスの声が聞こえてくる。
彼は仲間の冒険者と一緒に飲んでいたようだ。
「エクス……。あほ面ってどういうことだ?」
「閃光のルーザー先輩。仲間が来るのを待って洞窟で待ちぼうけだったでしょう。その依頼を受けたのは俺達で~す。がははは!」
ルーザーさんが憤りを握りこぶしで見せる。こらえる彼を他所にエクスは楽しそうに語ってくる。
彼らは洞窟に他の人が来ないように独占して依頼を取ったみたいだ。そして、洞窟には姿を見せなかった……。僕達を馬鹿にするために。
「エクス。やりすぎだよ」
「うるせえよムラタ。閃光のルーザー先輩に気に入られたからって図に乗るなよ! 雑魚が!」
さすがに許せない僕は声を上げた。だけど彼は僕を相手にもしない。酔っぱらっている彼は剣を抜いて切っ先を向けてくる。
「エクス。冗談じゃ済まねえぞ。仲間に剣を向けるなんて」
「はっ! こいつは仲間じゃねえよ。仲間はあんただった。でもあんたはムラタを選んだ。俺にはクズな姿しか見せなかったくせによ!」
ルーザーさんは僕をかばうように前に立ってくれた。それが更にエクスの癇に障ったみたいだ。声を荒らげて剣を振り回す。
「お、おいエクス」
「流石にやりすぎだ」
エクスの凶行に彼の仲間達も困惑してる。その様子が更にエクスを刺激する。
「ああ? お前たちが弱いから俺が意見を言ってやってるんだろ! ルーザーさんは強くてカッコいいんだ。俺はこの人を目指してオルクスに来たんだ。ルーザーさんの故郷のオルクスにな! 姉さんを殺した魔物を一匹でも多く倒せるようになる。そのためにルーザーさんに近づいて……ゴクゴクッ! ……」
バタンッ! エクスはエールの入った木のコップを一気に飲み干すと前に倒れる。いい音を立てて倒れる彼を見てルーザーさんは頭を抱えた。
「はは、俺が強くてカッコいい?」
彼は悲しそうに呟いて顔を両手で覆う。そして、何も言わずにエクスに肩を貸して立たせる。悲しくて怖い顔のルーザーさん。僕は見ていられなくてエクスの肩を持ち上げる。
「……ムラタ。俺って強いか? カッコいいか?」
「……」
エクスを引きずるようにギルドを出る。するとルーザーさんが問いかけてくる。僕は無言で考え込む。
「カッコよくねえよな。強くねえよ。お前の方が何倍も強い……。そうだろ?」
彼は鼻をすすりながら聞いてくる。僕はエクスの肩を離して彼の前に立った。
「僕なんかよりも強いに決まってます。何弱気になってるんですか! エクスを元に戻すために強くなるって言ったじゃないですか! もっと自信を持ってください。僕と比べてないでエクスを見てあげてください!」
僕もいつの間にか涙を流していた。声が裏返りながらもなんとか言葉を紡ぐ。ルーザーさんは僕を真っすぐ見つめると鼻を拭ってニッコリと笑う。
「はは、こんなに慕われてたなんてな。驚いた……。弟も守れなかった男なのに慕われていたのか」
「……ルーザーさん、弟さんは守れなくても」
「エクス? 起きてたのか?」
ルーザーさんの声に答えるようにエクスが呟く。驚くルーザーさんに彼は目を見開いて見つめる。
「俺は助けてもらいました。俺の故郷を襲った魔物を倒してくれた。あの時俺はあんたに……ルーザーさんに『もっと早く来てくれれば姉さんも』って言って責めた。でも、間違ってたんだ。俺がもっと強ければよかったんだ。だからルーザーさんを目指して……冒険者になった。それなのにあんたは!」
「……」
エクスの言葉に僕もルーザーさんも言葉をなくす。
そんな過去があったんだ。ルーザーさんは色んな所で伝説を作ってきたんだ。
彼は涙を流してルーザーさんの両肩を掴んで見つめる。懇願するような、最愛の友にあったような、そんな顔で見つめる。
「すまない」
「謝らないでくれ」
ルーザーさんは謝ることしかできずにいた。エクスは涙を拭うと僕の剣を見つめる。
「酒場に俺の剣はおいてきたみたいだな。借りるぞ」
「あ、そういえば……。って借りるって何に使う。え!?」
エクスが一瞬で僕の剣を抜いてルーザーさんに切りつける。松明だけの明かりの中、鉄と鉄が光を放つ。閃光がいくつも目に入ると火花のように残像を刻んだ。
「やっぱり強い。俺なんかより」
「そんなことはない。エクス、お前は強いよ」
ルーザーさんは不意に切りつけたエクスの剣を受け止める。その強さにエクスは満足して笑顔を作る。
剣舞を舞う二人が作り出す閃光が激しさを増す。会話をしながら剣を交える彼らは僕とは別世界の人だ。ステータスが高くなってもできる気がしない。
「エクス。俺に憧れるな。お前は俺を超えられる男だ。終着地点に俺を飾るな」
「そんなに褒めても何もあげないですよ」
「茶化すな。俺で終わるな。もっと世界を見てこい」
激しい光と音の中、彼らは会話を重ねる。ルーザーさんの説得でエクスの顔が歪む。
エクスはルーザーさんで終わらせたいと思っているんだろう。もっと強くなれるのに目指していないとルーザーさんに思われてる。
エクスはそれを聞くと大きく距離を取るために後方に飛んだ。
「俺はあんたを超える。見てください」
エクスは目を輝かせると突きの構えをした。一瞬の静寂の後、街灯の松明の火花が彼の起こした風によって横向きの竜巻に変わる。
高速の突き……僕にはそれしかわからなかった。
「はは、超えるとか言っておきながら防がれた。カッコ悪いな俺。自慢の高速の突きからの三段突きだったんだけどな」
「……まあ、まだまだ追い抜かれないな」
エクスの突きを剣の腹で受け止めたルーザーさん。
ただの突きじゃなかったみたい。エクスは苦笑いで握手を求める。ルーザーさんは握手に答えると急にずつきをした。
「仕事に私情を挟むな!」
「……ここは握手で終わりでしょ!」
どうやら、ルーザーさんは洞窟の依頼を放置したのが嫌だったみたいだ。エクスが弁明しても許す気配がない。僕はヤレヤレと思いながらもよかった、と呟く。