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「悠ぅー。お前、何、女子高生ひっかけてんだよー」と、乗っていた自転車から降りて、男性が話しかけてきた。
「おー!昭彦ー!今、保育園の帰り?」
「そう。こっちはお前の穴埋めんの大変なんだぜ」
「わりーわりー」
「でも、まぁ。今はゆっくり休んでくれよな」
「ありがとうな、昭彦」
二人は、親しげに話している。
「あ、そうだ!自己紹介がまだだったね。俺は犬塚悠。んで、こいつは俺と同じ保育士やってて友達の八満昭彦」
「うっす」と、昭彦さんが手をあげる。
「確か、君の名前、まだ聞いてなかったよね」
「私は、椿朝陽です」
「朝陽ちゃん。とってもいい名前だ」と、悠さんがにっこり笑った。
「ところで、悠と朝陽ちゃんは何?どういう繋がり?まさか、悠に声かけられて着いてきちゃった?ダメだよー、知らないおじさんに着いて行ったら」と、冗談めかしく昭彦さんが言う。
「お前の、絡み方のほうがおじさんだろ」と、悠さんが吹き出すと、昭彦さんも釣られて笑う。
「あ、あの。違うんです。私、金白駅の交差点で飛び出しちゃって、そこを悠さんに助けれられて。さっきも、迷子の子どもがいて、私がどうしようもなくなってしまった所を助けていただいたんです」
「俺は、てっきり悠に着いて来ちゃったのかと思ったよー。こいつ人たらしだから気をつけなよー」と、昭彦さんが言うと「はいはい」と、悠さんが笑った。
でも、悠さんに着いて来たのは間違いない。私は、悠さんを探しに桜舞公園に来たのだ。
保育士の二人に、偶然にもここで出会えたことは、私にとって、またとない幸運。
お仕事の話など聞けないかと思って「私、将来は保育士になりたいんです」と、打ち明けた。
「おおー!朝陽ちゃんなら、絶対できる!応援するよ」と、悠さんが目を輝かせる。
「ありがとうございます。でも、さっき迷子の子に声かけた時も、私、何もできなくって」
「朝陽ちゃんは、俺より凄い。だから、自信持って」
木漏れ日のように、温かく優しく微笑む、悠さん。
私なんか何もしていないのに、悠さんは、なんでそんなことを言ってくれるのかわからなかった。
「ところで、なんで朝陽ちゃんは、保育士になりたいって思ったの?」と、昭彦さん。
「私、小さい頃、この公園で迷子になったんです。その時、私の記憶だと、ギターを持った女性が私を助けてくれて。その女性が保育士になると言っていたんです。綺麗で、可愛くて、優しくて。私、その女性に憧れているんです」
私が、説明し終わるとすぐに「うっわー、それ、晴ちゃんみたいじゃんっ」と、昭彦さんが目を丸くして言った。
昭彦さんの言葉から、忘れていた一番古い記憶を、私は呼び起こす。
そうだ。あの女性は…、私に、確か名前を名乗っていた。今まで忘れてしまっていた。
確か、その名前は…。
「ねこもと、はる」
私がそう呟くと、悠さんの肩がぴくっと動いた。
「昭彦。お前、家で明里さん待ってんだろー。油、売ってていいのかー?今日はもう帰れよ」と、悠さんが話を変えた。
「お、いっけねー。ネギ買ってかなきゃ。遅くなると、明里、機嫌悪くなるんだよ。じゃあなっ」
そう言って、昭彦さんは自転車に乗って帰っていった。
「朝陽ちゃん、せっかく来てくれたのに、ごめん。俺も、この後、やることあるから帰るわ」
さっき話を変えた時の悠さん。何か変だった。何故だろうと、一瞬、疑問に思ったが、すぐに頭から消えた。
悠さんに、また会えるか聞いておかなければ。
「悠さん。私、月曜と水曜は塾がないんです!良かったら、水曜日も来ていいですか?」
「おっけー!水曜日も夕方にこの公園いるから、声かけてー。今日はごめん。バイバイ」
悠さんは、私に手を振って歩いて帰っていった。