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それから、一週間後ーー。
特に変わったこともなく過ごしていた。
桜とは休日も会わないし、夜少し会話をするだけの生活。
一緒に過ごしたあの一日がすごく遠い日のように感じる。
俺にとっても久し振りに楽しいと感じた休日だった。
「また行こう?」と桜に伝えたのは、本音だった。
まぁ、桜は姉ちゃんと行きたいみたいだったけど……。
今日も「STAR」に出勤をした。
いつもと変わらず仕事を終えて帰るはずだった。
新規のお客さんが来ているから、挨拶に行ってほしいと蘭子ママから言われた。
返事をし、男女四人が座っているテーブルへ行き
「初めまして。椿です。よろしくお願いします」
お客様へ声をかける。
座っている女の子からは
「えー。綺麗!男の人なんだよね?すごーい!」
驚きの言葉をかけられる。
正直、そう言われるのは慣れている。
「ありがとうございます」
営業スマイルで微笑む。
「へー。すげー。男でも綺麗って思えるわ」
聞き覚えのある声だった。同じテーブルに座っている男性を見る。
この|男《ひと》……。
どこかで見たことがある。
いつだ?
向こうに悟られないように、自分の記憶を辿る。
ドクンと嫌な鼓動が何度も鳴り始めた。
嫌な記憶が甦る時に起こる症状。
ヤバいと思い
「ゆっくり楽しんでくださいね」
それだけ声をかけ、一度カウンター裏へ戻ろうとした。
「あー!思い出した!高校の時にさ、すげーモテるやつがいたんだけど、すげー美人な彼女をフッたんだよ?後からわかったんだけど、同性愛者でさ?女には興味がないんだって。イケメンだったのに、そのことがクラスっていうか、学年中で有名になって……。昔って今よりも同性が好きだとか……。理解ないじゃん。虐めとまではいかなかったけど、なんかクラスで浮いちゃってさ?あんなにキャーキャー言われてた女子からも白い目で見られるようになって……。学校来なくなった奴がいたよ」
あぁ。やっぱり同じクラスだったやつだ。
名前、忘れたけど……。
会話が聞こえてきて、さらに体調が悪くなる。
トラウマってなかなか克服が難しいな。
「だからあいつが女装とかしたら、今みたいな……。椿さんって言ったっけ?あんな人みたいになってるんじゃないかな」
ドクンドクンと鼓動が速くなる。
嫌な汗が流れる。
「ちょっと、椿。すごく顔色悪いけど、大丈夫?」
蘭子ママが声をかけてくれた。
「いや、ごめんね。今日の新規のお客さん、高校の時の同級生みたいで。あっちにはバレてないんだけど。思い出したら具合が悪くなっちゃって……」
情けない。もう何年も経つのに。
「そうなの!?顔が真っ青だわ。もう今日は帰っていいわよ?倒れられても困るから。タクシー呼ぶわね」
大変、大変と蘭子ママがすぐにタクシーを呼んでくれた。
過去の事情を知る蘭子ママだからこそ、申し訳ないと思ったが言葉に甘えて早退することになった。
桜に連絡をしたら心配かけるから、止めとくか……。
そうタクシーの中で考える。
カギを開け、部屋に入る。
いつもよりかなり帰宅が早い。
なんて桜に説明をしようか。
ドアを開ける音で気付いたのか、パタパタと走ってくる桜の足音が聞こえた。
「蒼さん、大丈夫ですか!?」
「えっ……?」
なんで知っているんだ?
「蘭子ママさんから連絡もらいました」
そっか。姉ちゃんを通じて連絡先、交換してたんだっけ?
「大丈夫。先にお化粧とか落としてくるね」
とりあえず、シャワーを浴びたい。バスルームへ向かう。
椿から蒼の姿に戻るが、気分が晴れない。夕食も今は食べれそうにない。
リビングへ戻ると
「大丈夫ですか?蒼さん、顔が真っ青です!」
桜が心配をしてくれた。
「大丈夫。ごめん。今、夕ご飯食べれそうにない。せっかく作ってくれたのに、ごめんな?ちょっと横になるから」
寝室へ向かう。ベッドに横になる。
俺から事情も話さないでこんな態度取ったから、桜を嫌な気持ちにさせちゃったかな。
するとトントンというノックが聞こえた後
「蒼さん、水分だけ摂ってください。お水持って来ました」
コップにストローを差して持ってきてくれた。
起き上がろうとしたが
「起き上がるの大変だと思うので、私の膝に頭を乗せてください」
「えっ?」
よいしょと俺の頭を持って、自分の膝の上に乗せた。
そしてストローを口の中に入れてくれる。
「咽ないようにゆっくり飲んでくださいね?」
ゴクッと数口飲んだ。
桜は俺を元に戻し
「私、ゼリーとかプリンとか口当たりの良い物買ってきます」
そう言って出て行こうとした。
「いや、大丈夫。夜遅いし。逆に心配だから、家に居てほしい」
徒歩五分くらいのコンビニでも、もし何かあったら心配だ。