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ゆゆゆゆ
#doublefedora
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#Paycheck
静かな夜が、ゆっくりとほどけていく。
壊れたドアの隙間から、淡い光が差し込む。
夜の色が、少しずつ薄れていく。
まるで――
世界が静かに目を覚ますみたいに。
ピザ屋の中。
床に残る戦いの跡。
でももう、音はない。
エリオットはカウンターに突っ伏している。
寝ていた。
金髪が朝の光に透けている。
チャンスは椅子に座ったまま。
起きている。
コインを指で転がす。
くる…くる…
静かな朝。
チャンスが小さく言う。
「……平和だな」
エリオットが少し動く。
「ん……」
ゆっくり目を開ける。
「朝?」
チャンス。
「朝」
エリオットはぼんやりしたまま。
それから。
手を伸ばす。
ネクタイ。
ぐい
チャンスが少し前に引かれる。
「……起きてすぐそれか」
エリオットはまだ眠そうに笑う。
「癖」
チャンスは少しだけ笑う。
外から差し込む光。
やわらかい。
店の空気が変わっていく。
夜の緊張が消えていく。
エリオットがゆっくり起き上がる。
「お腹すいた」
チャンス。
「だろうな」
エリオットはキッチンへ。
「ピザ焼く」
チャンスが言う。
「朝からか」
エリオット。
「朝でもピザ」
チャンスは笑う。
「一貫してるな」
エリオットが準備を始める。
生地。
トマト。
チーズ。
その手はやっぱり優しい。
チャンスがぼそっと言う。
「……なあ」
エリオット。
「ん?」
チャンス。
少しだけ間を置いて。
「帰らない」
エリオットの手が少し止まる。
それから。
にこっと笑う。
「うん」
チャンスはコインを取り出す。
それを見て。
少し考えて。
――ポケットに戻す。
エリオットがそれを見る。
「コイントスしないの?」
チャンスは肩をすくめる。
「今日はいい」
エリオット。
「珍しい」
チャンスが言う。
「もう決めた」
エリオットは少しだけ嬉しそうだった。
それから。
ネクタイ。
ぐい
チャンスが言う。
「だからそれやめろ」
エリオットは笑う。
「やだ」
オーブンにピザを入れる。
ガチャン
朝の光。
焼ける匂い。
静かな時間。
「一人で食べるピザは美味しくない」
その言葉の意味が、少しだけ残っていた。
チャンスはカウンターに肘をつく。
「なあ」
エリオット。
「ん?」
チャンス。
「今日もここ?」
エリオットは振り向く。
にこにこ。
「うん」
それから。
少しだけ近づいて。
ネクタイ。
ぐい
「ずっと」
チャンスはため息をつく。
でも――
少し笑っていた。
朝のピザ屋。
光の中。
逃げないギャンブラーと。
ピザ屋。
そして。
ネクタイはまだ。
エリオットの手の中だった。
― 完 ―
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