テラーノベル
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それからの日々は、驚くほど静かに、そして規則正しく過ぎていった。朝は訓練。
剣を振るい、足運びを確かめ、呼吸を整える。
身体は正直で、迷いがあれば刃先に滲んだ。
だが、振り直すたび、何度も繰り返すうちに、揺れは少しずつ形を変えていく。 消えるのではなく、内側へ沈んでいくように。
昼は学舎での勉強。
法、歴史、戒律。 「正しさ」を言葉として学ぶ時間。 かつては疑いなく受け入れていた教えを、今は一度胸の奥に落とし、確かめるようになっていた。
夕方、再び訓練。
汗と埃の匂いの中で、仲間たちの声が近くなる。
笑い、冗談を交わし、剣を交える。
彼らとの距離が、以前よりもわずかに近づいていることに、少年は気づいていた。
――守りたい。
その感情が「正義」から来たものなのか、 それとも、ただの情なのか。 もう、切り分けることはできなかった。
そして夜。
灯りの落ちた回廊を抜け、 決まった足取りで地下へ向かう。 鎖が小さく鳴る。サリエル が、こちらを見る。
「やあ。今日もお疲れさま、天使さん。」
「…アゼリアだ。」
「はいはい。」
それだけの会話。
問い詰めることも、踏み込むこともない。
ただ同じ時間に、同じ場所で言葉を交わす。
それが、いつの間にか「当たり前」になっていた。
だからこそ――
その呼び出しは、唐突だった。
「アゼリア・エリオス。 大天使ミカリス様がお呼びだ」
胸の奥が、静かに冷える。
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