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ゆゆゆゆ
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ゆゆゆゆ
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「あと制服もね」
エリオットがそう言った瞬間。
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偽Builder Brother’s Pizzaの連中はようやく状況を理解した。
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「待て待て待て!」
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リーダー格の男が慌てて叫ぶ。
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「話せば分かる!」
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「そうかな?」
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エリオットは笑っていた。
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だが。
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その笑顔は怖かった。
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ピザガイですら少し怖いと思うくらいには。
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「俺たちはただ生き残るために——」
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「生き残るために?」
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エリオットの声が重なる。
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「生き残るために、子供から食料を騙し取った?」
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男が黙る。
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「生き残るために、避難民から薬を奪った?」
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さらに黙る。
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「生き残るために、Builder Brother’s Pizzaの名前を使った?」
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静寂。
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風が吹く。
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エリオットの青い瞳から笑みだけが消えていた。
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「君たちさ」
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ゆっくり。
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本当にゆっくり。
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彼は胸元のロゴを指でなぞる。
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赤い制服。
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擦り切れた文字。
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何度も縫い直した跡。
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世界が終わる前から着ている制服。
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「この名前がどれだけ大事か知らないでしょ」
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誰も答えない。
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答えられない。
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だって知らないからだ。
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朝四時から生地を仕込み。
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忙しい日は十六時間働いて。
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閉店後に残り物で夜食を作って。
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馬鹿みたいに笑って。
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失敗して。
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怒られて。
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また笑って。
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その全部が。
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Builder Brother’s Pizzaだった。
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世界が滅んでも。
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失いたくなかったものだった。
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「だから」
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エリオットが顔を上げる。
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「返して」
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静かな声だった。
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「全部」
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その時だった。
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偽グループの一人が銃を構えた。
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「ふざけるな!」
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引き金が引かれる。
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だが。
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銃声は一発だけだった。
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ドン。
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次の瞬間。
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男の手からライフルが吹き飛ぶ。
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ピザガイだった。
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ショットガンの銃口から煙が上がっている。
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「交渉は終わりか」
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低い声。
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リーダー格の男が青ざめる。
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「ば、化け物……」
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「違う」
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エリオットが言った。
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「ピザ職人だよ」
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数秒後。
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高速道路は大混乱になった。
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逃げる偽物。
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追いかける本物。
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「制服置いてけ!」
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「なんでそこなんだ!?」
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「それ店の制服だから!」
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「世界終わってるだろ!?」
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「だから何!?」
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ピザガイが一人を持ち上げる。
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「看板はどこだ」
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「ひぃっ!」
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「看板はどこだ」
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「倉庫です!!」
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即答だった。
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一時間後。
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戦いは終わった。
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偽グループは武装解除。
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盗品は回収。
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生存者たちへ返却するため仕分けされる。
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そして。
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倉庫の奥。
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埃まみれの看板があった。
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Builder Brother’s Pizza
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歪なコピー品ではない。
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本物だった。
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世界崩壊の混乱で持ち出されたものらしい。
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エリオットは近付く。
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指先で文字をなぞる。
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懐かしかった。
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店長。
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常連客。
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昼の混雑。
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配達バイク。
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焼きたての香り。
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全部思い出す。
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「……」
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しばらく黙った後。
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エリオットは小さく笑った。
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今度は本当に。
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温かい笑顔だった。
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「ただいま」
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誰もいない看板に向かって呟く。
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その横で。
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ピザガイは何も言わない。
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ただ。
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看板に積もった埃を無言で払った。
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まるで。
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自分の家を掃除するみたいに。
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夕暮れ。
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二人は看板を荷台に積む。
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「持っていくの?」
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「当然」
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「重いぞ」
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「知ってる」
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「邪魔だぞ」
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「知ってる」
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「運ぶの俺だぞ」
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「ありがとう」
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「……」
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ピザガイはため息を吐いた。
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エリオットは笑う。
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久しぶりだった。
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心から。
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安心して笑えたのは。
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世界は終わった。
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店もない。
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客もいない。
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もうピザを売ることもないかもしれない。
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それでも。
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Builder Brother’s Pizzaはまだ終わっていなかった。
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少なくとも。
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その名前を背負って歩く二人がいる限り。