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2・いつもどおり
「悪い、待たせた」
今朝の眠そうな声とは違って、芯のあるどこか優しい声。
「いいよ、そんなに待ってないから」
「そうか」
そう言って、大きな手を僕の頭においた。
少し骨ばった長い指に、分厚くて少し硬い手の甲。
早く学校に行かないといけないのに、そう考えてはいたが、その場から動くことができなかった。
玄関先で少し立ち止まっていると、
「桜志!彰くんが優しいからって、少しは反省しなさいよ」
二階のベランダから、今朝の女性が桜志を呼んでいる。
そう、彼女は桜志の母親
「香純さん」である。
「はいはい、ちゃんと反省してるよ。行こう、彰」
桜志はめんどくさそうな返事をしながら、僕の手首を掴んだ。
「彰くん、桜志のことお願いね〜」
香純さんに返事をしようと思ったのだが、僕が声を出す前に、桜志が僕を引っ張って歩き出してしまった。
少し歩いたところで、桜志は僕を掴んだ手を離して、
「ごめん、痛くなかったか?」
すごく心配そうな顔。
「大丈夫。それより、あんまり香純さんに冷たくしたらダメだよ。」
「…努力するよ」
桜志は少し目を逸らして、歯切れ悪く返事をした。
僕を心配そうに見たり、都合が悪くなると目を逸らす癖があったり。
見た目からはあまり連想できない子供っぽさがあるのは、なんだか面白かったりする。
「じゃあ、行こう」
「そうだな」
僕らは桜が散るのをよそに、歩幅を合わせながら歩いた。
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