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「安心して頂戴。白鳥とは、あいつの旦那をとりあったぐらいの戦友だから。あいつの部下は私の子猫ちゃんよ」
「意味わかんない」
美香さんは常連なのか、白鳥さんに連れてこられたのことがあるのか、オーナーと友達のように話している。
「ママ、この子、男性恐怖症だったんだけど克服できたかもって言うの」
「あら、おめでたいじゃない。男とセックスできたの?」
「ひっ」
運ばれてきた水が、レモン水で美味しいなと思った瞬間だったので口を押える。
吐きそうになってしまった。
「いえ、目を見せ話せる人ができただけです」
「じゃあ惚れた男ができたのね」
「逆かもって言うの。人として嫌いな男かもって」
オーナーは私を見て、ふむふむと立派な顎を触りながら観察してくる。
「あたし、こんな可愛い子嫌いなのよねえ。色白で目も大きくて、ちやほやされちゃって。あたしの方が胸は大きいし柔らかいのよ」
ふんっとポージングしながら威嚇され、苦笑いしてお茶を濁す。
見た目を褒められるのはあまり好きではない。謙遜してるとか驕ってるとか言われてしまい、どんな反応をしても印象が悪いから。
「男性恐怖症って言ったって、自分を守りたいだけでしょ。さっさと好条件の男を見つけたら、ガード解除して受け入れちゃうのよ。だって見る目が肥えているから」
「そうかな。華怜は本当に男を拒絶してるけど」
「いやあね。恋愛の苦しみも楽しみも知らない女なんて、浅いわよお。その点、顔重視で振り回されて馬鹿な恋愛してる美香ちゃんは可愛いわあ」
「褒めてないじゃん」
酷いって言いながらも、美香さんは楽しそうだった。
私は逆で、恋愛の話とか自己分析とかされちゃうと委縮しちゃう。
恋愛から逃げているって自分に負い目があるのかもしれない。
「あれ? 玄ちゃんママたち盛り上がってるじゃん」
「来たわ。顔だけの男代表。塩、塩」
慣れた手つきで入ってきたのは、辻さんとヘアサロンの店員さんだろう。
いつも靴ぐらいしか見ていないから、執拗に話しかけてくる辻さん以外は顔がはっきりとは覚えていない。
「鼻が曲がっちゃうぐらい、香水がきついんですけど」
「あはは。立ち仕事だから汗かいてたら嫌だなって。せっかく華怜さんや美香さんに誘われたんだからね」
「お疲れ」
辻さんともう一人の男性が美香さんの横に座った。
反射的に下を向いてしまったけど、これでは試せない。
でも美香さんと私の間で境界線をつくれば、少しだけ楽だった。
「華怜さん」
「あ、はいっ」
「呼びにくいな。華怜ちゃん、何頼む?」
クスクス笑いながら、辻さんがお酒のメニューを渡してくれた。
はがきサイズの小さなメニューが、難解な英語に見えて何も見えなくなる。
「私ら、適当に頼んでるから辻さんと牧くんで頼んでよ」
もう一人は牧くんって名前か、そっか。
うんうん、頷きながら、試したくてメニューを返すとき、辻さんの顔を見てみた。
「ありがとう」
爽やかに微笑み、私の機嫌を窺うように首を傾げる。
確かに顔は整っているし、モテそうなオーラは漂っている。
でも、モテそうで顔が極上に整っている人と一緒に住んでいるから慣れてしまったのか、視線もそらさないで済んだ。
それにじっくり舐め回すような値踏みする視線ではないのが、大きいのかもしれない。
「ジンにしとこっかな」
「お洒落な言い方しちゃって」
すぐに三人は意気投合し、楽しそうに会話をし出した。
私はグラスを持つ手が、汗でじんわり湿っていたが、まだ恐怖は感じていない。
本当に平気になったのかもしれない。
その後、パスタやピザが届いて私たちは奥の半個室へ向かった。
美香さんが率先して取分けしてくれたので、私は横でちびちびカクテルを飲むだけで済んだ。
悪い雰囲気にはならず、楽しく店長とサロンの旦那さんの馴れ初めについて熱く語ったり。お店の苦労話に花を咲かせていた。
「華怜ちゃん、次何を頼む?」
空になったグラスを指さし、辻さんがメニューを渡してくる。
その後ろで美香さんが化粧直しへ向かうのが見えた。
一つ席を詰めて、近づいてくる辻さんに急に悪寒が走った。
「ゆっくり決めていいよ。華怜ちゃんの隣に長く居たいから」
「きついお酒はやめといた方がいいよー。辻さん、酔った女性には紳士じゃないし」
「牧」
こら、と窘めつつも否定しない彼の様子が不気味だった。
「本当に男性恐怖症じゃなくなったの?」
「えっと、まだわかりません」
#ハッピーエンド